「マンガを描きながらサバイバルしてヤギを食べる話」―映画『まんが島』柳英里紗インタビュー

柳英里紗

柳英里紗

絶海の孤島でマンガを描く売れない5人のマンガ家の物語…と聞いて、どのような作品を想像するだろうか。しかもマンガ家たちはマンガを描くだけでなく、決死のサバイバルも繰り広げるという、およそジャンルレスな内容なのだ。

そんな映画『まんが島』は、『キツツキと雨』『ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-』などの脚本を手掛けた守屋文雄の初監督作で、このたびDVDとしてソフト化された。

衝撃と狂気が怒濤のように押し寄せ、気付くとあっという間に観終わっている本作だが、完成した映像を初めて観たときの印象を振り返って、柳は次のように語る。

「撮影したのが約4年前で、初めて見たのが今年の1月。なんだか分からないですけど、めちゃめちゃ泣きました。すごいのができたなと思って。『ムージック探偵 曲菊彦』や『青梅街道精進旅行』とか、守屋さんとは同じ作品をやる機会が多かったけど、守屋さんの映画に出たのは初めてで、一番衝撃だったのは自分が『まんが島』に出ていたこと。本当に出てくるのかな、出てくるのかな、出たーみたいな(笑)」

(C)2017守屋文雄

(C)2017守屋文雄

柳演じるマンガ家のタマゴ・ユキのほか、何人か女性キャストも登場するが、基本的には中年男性たちがメインとなって、物語は進行していく。

「台本を読んだときには、そこまで汚れている印象はなかったのですが、現場に行ったら汚れたおじさんたちが(笑)。マンガを描いていて原稿とかが汚れちゃうので、手とかきれいにしているのかと思ったら、メイクなのか本当なのか、汚れている人たちがいました(笑)」

たしかに画面で見るマンガ家たちのビジュアルは強烈で、その汚れぶりからはサバイバルの過酷さがひしひしと伝わってくるようだ。特にマンガ家たちが海に入っていくシーンは、映像で見てもかなり波が荒く、驚かされる。

「まんが島に行くマンガ家の役じゃなくてよかったな、と(笑)。でも脚本を読みながら、このシーンはどうなるんだろう、どういうふうにやったらいいんだろうって、自分のシーンじゃなくても考えさせられるので、過酷だとは思いますけど、みんなまんが島のマンガ家役はやりたいんじゃないですかね。でも、やっぱりやりたくないかな(笑)」

(C)2017守屋文雄

(C)2017守屋文雄

本作が撮影されたの今から約4年前で、監督の守屋ほか、水澤紳吾松浦祐也宇野祥平政岡泰志川瀬陽太という、映画界には欠かせない名バイプレイヤーがそろっている。

「本当に一緒にお芝居をしてみたい俳優さんがグッと集まっている。守屋さんの映画にも出たいし、脚本も面白いし、一緒にやりたい俳優さんがいるので、映画的な魅力が詰まっている現場だなと思いました。現場にいると、撮影の風景も役者もカメラも録音も“360度映画”という感じで、どこを切り取っても面白いと思ってキョロキョロしていたのは覚えています」

それにしても、なんとも不思議な映画である。ストーリーはもちろんあるのだが、まず目に飛び込んでくるワンカットに引きつけられ、次から次へとインパクトあるシーンが連続していき、映画を観るというより“身を委ねる”という表現の方がしっくりくる。

「『まんが島』に関しては、なんて説明していいか分からないですね。タイトルだけ聞くと、マンガの話なんだと思うでしょうし、たとえば『バクマン。』とか『トキワ荘の青春』みたいなものを連想するかもしれません。間違ってはなく、『まんが島』もマンガの話ではありますが、誰かに説明するときは、“マンガを描きながらサバイバルしてヤギを食べる話”って言うと、みんな『えっ!?』ってなっちゃう(笑)。でも、上手く説明できる映画より上手く説明できない方がみんな興味を持つのかなって」

(C)2017守屋文雄

(C)2017守屋文雄

一言では要約できない魅力。それこそが本作のオリジナリティーと言えるのかもしれない。

「守屋さんが意図したのかは分からないけど、いろんな見どころが、ミラクルが詰まっている映画だなと思います。見終わった人には、よく頑張ったと1人ずつ賞状をあげたい。『まんが島』を観ると、ひとつ戦いを終えたみたいな気持ちになりますね」

撮影当時について、不安要素はあまりなかった、と柳は振り返る。

「長年知っている人がいる現場だったので、守屋さんも松浦さんとかキャストも、すごく安心して現場に入ることができました。今まで出た映画の中で特に『まんが島』はそうだなって思います。その中で印象に残っているのは、最後のナレーション。撮影から2年ぐらい経ってから録り直しました。守屋さんから、読みながらじゃなく覚えてきてほしいとて言われて、録音部の方の家で録りました。私はちゃんと島は見ていないですけど、目をつぶって島のことを思い浮かべながらしゃべったナレーションは見てもらいたい。DVDなら何回か体感してもらって、その変わっていく印象みたいなのを感じてほしいです」

(C)2017守屋文雄

(C)2017守屋文雄

役作りでは、自身が演じる職業の役柄が出ている作品を参考にすることもあるという柳。しかし今回は、あえて役作りはしなかったと話す。

「役をやるに当たって、不安になったり緊張したりすることが多いので、現場に立った時に『これだけやったんだから大丈夫だ』と思えるように役作りをするんです。何か役をやるときには、その子がいつ生まれて、血液型が何型で、兄弟が何で…というのを書いたノートを1冊作るのですが、だからといって書いたものをやるわけではなくて、現場に立った時に、『あれだけやったから何が来ても大丈夫』っていうためにやるんです」

本作に関しては、守屋監督の存在も大きかったと柳は振り返る。

「守屋さんがいるから大丈夫と思って。きっと私だけじゃなくて、他の役者さんも監督が守屋さんだったから好きなことをたくさんやれただろうし、みんな自由度が高くお芝居できたのではと思います。だから、これだけ勢いと力のある作品になったのではと思います。不安だったらあんなに動けないし、鼻水も出せないし、あんな顔はできない。守屋さんという存在が、不安を取り除いてくれる監督なのかなって思います」

(C)2017守屋文雄

(C)2017守屋文雄

守屋が監督と出演を兼ねていることもあったのだろうが、監督とキャストの一体感が強く伝わってくる作品で、伸び伸びとした爆発力が感じられる。そうした空気感には、どこか“秘密の遊び”めいた印象も。

「何回か『まんが島』を観ましたけど、涙が出た理由がいまだに分からないんですけど、なぜか泣く映画です。初めて観たときは、映画ができ上がったという喜びもあって、わりと最初から泣いていました。水澤さんが立っているだけで泣けてくる。“全米が泣いた”ではなく、“柳英里紗が泣いた”という感じですね(笑)。もちろん劇場公開が決まったときはうれしかったですが、反面、ちょっと私の『まんが島』が観られてしまうみたいな感覚もあったかもしれません」

劇場公開時には、沖田修一監督や山下敦弘監督をはじめ、多くの映画関係者も観に訪れたという。

「劇場さんのアイデアで、映画館に塗り絵と色鉛筆を置いて、お客さんみんなで塗り絵大会をしていたのですが、映画界の監督たちも参加してくれて、名物みたいになっていました。面白いことがしたくなる映画なんだと思ったし、映画人に愛されている映画だなと思いました。でも不思議なのが、褒めてくれる人がいる映画って嫌う人もいるじゃないですか。やっぱり、いいとだけ言われるより、批判も出るのが面白いな、と」

(C)2017守屋文雄

(C)2017守屋文雄

良作には賛否両論は付きものだ。映画を見終わると、言葉では形容しがたいやる気や元気というものが出てくる気がする。柳自身、今作に出演し鑑賞することで影響を受けたことがあると語る。

「人に嫌われるのが怖くて、いい人でいることを心がけていましたが、守屋さんはすごくむき出しで、全部好きなことをやっているかは分かりませんが、観てる側としてはすごく好きなことをやっていて面白いと思う。怖くてできないことってたくさんあると思いますが、たとえば松浦さんが劇中で鼻水を出すけど、私は映画で鼻水なんか怖くて出せないけど、それをすると好きになってくれる人がいるかもしれない。『まんが島』を観た後、嫌われてもいいからやりたいことをやった方がいいんじゃないかっていう、私なりの解釈があって。この映画に出ている人たちに出会って、きっとこの人たちだったら受け止めてくれるだろうって人に出会ったので、嫌われても大丈夫になりました」

そんな柳が今、やってみたい役は「銃を持つ」のと「母親」だという。

「いろいろやりたい役が多くて、たとえばすごくやりたい役のオーディションに落ちると、すごくへこむので、自分を守るためになるべく何をやりたいというのは思わないようにはしています(笑)。でも最近、エドガー・ライト監督の『ベイビー・ドライバー』を観たら超カッコよくて、どんな役というよりは、銃を持ちたいです。それか子供がすごく好きなので、お母さんになりたいではなく、お母さん役を早くやりたいと思っています(笑)」

(取材・文・撮影:遠藤政樹)


DVD『まんが島』
好評レンタル&発売中!

水澤紳吾『SRサイタマノラッパー』シリーズ/守屋文雄/松浦祐也『太陽を掴め』/宇野祥平『セーラー服と機関銃‐卒業‐』/政岡泰志『ディアーディアー』/川瀬陽太『ローリング』/柳英里紗『くも漫。』『ローリング』

監督と脚本と編集と制作 : 守屋文雄『キツツキと雨』、『ディアスポリス −D I R T Y YELLOW BOYS−』共に脚本/音楽の楽器演奏:Aki-Ra Sunrise/漫画:岡田悠/
撮影:高木風太『味園ユニバース』/照明:秋山恵二郎/音響・音楽のMIX & Recording:弥栄裕樹
『コープスパーティー』/美術と特殊美術:谷脇周平 谷脇慎吉

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水澤紳吾

生年月日1976年9月2日(41歳)
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