しりあがり寿がおすすめする“面白い”だけじゃない何かがある10本

衝撃的にシュールで奥深く、思わぬところで笑えて泣ける。しりあがり寿さん自身の創作物のごとく、一筋縄ではいかない“くせ者”な作品たちが顔をそろえた。

※ピックアップ作品は、2015年末に発行された『シネマハンドブック2016』掲載のものとなります。ご了承ください。


しりあがり寿がおすすめする“面白い”だけじゃない何かがある10本

ザ・マスター

第二次大戦後のアメリカ。アルコール依存症に陥った元海兵隊員と、彼と意気投合した新興宗教の教祖の愛憎入り混じる複雑な関係を描く。

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ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

一攫千金を狙う山師が、カリフォルニアで石油を掘り当てやがて石油王へと上り詰めるが、強欲さと利己的な性格が災いし破滅していく。

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キングコング対ゴジラ

東宝創立30周年を記念して製作された『ゴジラ』シリーズ第3作。南海の島に現れたキングコングと北極の氷山からやって来たゴジラの対決。

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陽炎座

昭和元年の東京。新派の劇作家が美女と遭遇し、次第に夢と現実が混とんとした世界に引きずり込まれていく幻想譚を圧倒的な映像美で見せる。

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マルホランド・ドライブ

第54回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した幻惑的なミステリー。駆け出しの女優と、交通事故で記憶喪失になった女性が記憶の迷宮にはまる。

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ビッグ・フィッシュ

自分の人生をおとぎ話のように他人に話す父親とそんな父を嫌う息子が和解するドラマと、父と母の若き日の恋愛物語をつづったファンタジー。

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ダンサー・イン・ザ・ダーク

病で視力を失いつつあるシングルマザーが、同じ病に冒された息子の手術費用を稼ぐために懸命に働くが、思いもよらない不運に見舞われる。

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ドッグヴィル

スタジオの床に白線を引いただけの空間で撮影された実験的なドラマ。閉鎖的な村にやって来た美しい女性が偽善的な村人たちに虐げられる。

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冷たい熱帯魚

実際に起きた猟奇殺人事件を基にしたバイオレンススリラー。金もうけのために人殺しを繰り返す熱帯魚屋と殺人に協力させられた男の破滅。

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ニーチェの馬

哲学者ニーチェが「ウマの首をかき抱き、精神が崩壊した」という逸話からインスパイアされて作られた農父とその娘の6日間のドラマ。

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2時間かけて「面白い」だけじゃつまらない
ポール・トーマス・アンダーソンの映画は言語化できないよさがある

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

この2、3年で割と映画を観るようになったんです。事務所に来る人たちが「あの映画がいい」とか「この映画がいい」とか話してても、何のことを言ってるのかわからないのが悔しくて、しょうがないから自分も観ようと(笑)。でも中学生のときは毎週映画館に行ってました。週末になると一人で映画に行っちゃう。地方は新作も2本立てだったから、朝から行って3周くらい観てました。でも高校くらいに『スター・ウォーズ』が出てきて、僕は観てもいないのに嫌になっちゃった。中学生の頃は『いちご白書』とか、俺たちに明日があったりなかったり撃ったりする映画があって。『イージー★ライダー』もそうですけど、主人公が死ぬようなバッドエンドにリアリティを感じていた。それなのに『ポセイドン・アドベンチャー』とか『タワーリング・インフェルノ』みたいなパニック映画が流行って、簡単に人がたくさん死ぬようになったんです。これはいかがなものかと思っていたところに『スター・ウォーズ』が出てきて、子どもなりにちょっと幼稚に見えちゃったんでしょうね。で、仕事もあって映画からは長らく遠ざかってたんですけど、ラース・フォン・トリアーとかポール・トーマス・アンダーソンとかを知るようになると、今の映画監督もやっぱりすごいなとまた興味が出てきたんです。

ポール・トーマス・アンダーソンの作品で最初に観たのは『ザ・マスター』。そこから遡って『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を観ました。何がいいって、なんにもよくないんです。なんにもいいことが起きない(笑)。普通は映画って、あらすじを解説したり「こういうとこがいいんだよ」って言語化できる。でもこの監督の映画は僕には全然言語化できないんですよ。新作の『インヒアレント・ヴァイス』も観終わったあとに何かが残っているのに、その気持ちが何かすら言えない。しかもあんなヒドイことばかりをつなぎ合わせて心に何か残すなんて、ちょっと奇跡的な感じがする。漫画を描いていても「こうすれば読者はこんな気持ちになる」って、ある程度計算するじゃないですか。でもこの監督の場合は全然計算が読めない。

大体映画なんて楽しいってわかってるじゃないですか。面白く作っているものをわざわざ2時間かけて「やっぱり面白い」だけじゃつまらない。『ザ・マスター』とか『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は恐らく脚本を読んでも面白さがわからないような映画で、だからこそ素敵だと思うんです。逆に自分の漫画は一生懸命わかりやすくしようとしているのに、なかなかそう感じてもらえないんですが(笑)。

夢か現実か、うそか本当か、その境界が好きだった
それは、今、自分が描こうとしてることにもつながっている

『陽炎座』

『陽炎座』

『キングコング対ゴジラ』を最初に観たのは3歳か4歳の頃。もともと特撮モノは好きだったんですけど、今、自分が描こうとしてることにもつながるというか、やっぱり現実と夢の境みたいなものが好きだったんでしょうね。当時の広告ではバーンとキングコングとゴジラがいて、その下に燃える街や見上げる人間たちがいるんだけど、その中間が好きだったんです。下は人間の世界でリアル。上に行くと怪獣がいる。その間がボーッとつながっている。あの頃のポスターって怪獣の足元がはっきりしないものが多いんですよ。だからDVDのジャケットのデザイン、これはダメなやつです(笑)。

鈴木清順『陽炎座』デヴィッド・リンチ『マルホランド・ドライブ』も、どこまでがうそか本当かわからない魅力がすごい。『陽炎座』の前には『ツィゴイネルワイゼン』も観ていて、フェデリコ・フェリーニに似てるなと感じたんです。日本にもこういう幻想的な映画を撮る監督がいるんだなと。小説でも内田百閒とか夏目漱石『夢十夜』が好きで、共通したところがありますよね。『陽炎座』は今観るとちゃちだったりもするんですが、特撮やCGではなく、美術やカット割りだけでこんな夢みたいな世界を作れるのはすごい。独特の美学があって夢中になりました。

リンチだと『インランド・エンパイア』も好きですけど、『マルホランド〜』の方がタイトに締まってる感じがします。もっと破綻していくかと思ったら、種明かしも含めてちゃんとピシッとしてる。時系列もデタラメなようでちゃんと筋が通っていてうまい。人間の意識って、こうやって話していても頭の中では違う光景が浮かんでいたり、昨日のカレーの味を思い出していたりとか単純じゃない。そこに得も言われぬ不安があったり喜びがあったり、そういう複雑さを表現できるリンチはすごいですね。

『ビッグ・フィッシュ』

『ビッグ・フィッシュ』

ティム・バートンも現実と夢をうまく取り混ぜる監督ですが、『ビッグ・フィッシュ』はちょっと家族向きの感動作で、本来は『ビートルジュース』の方が好きなんです。でも『ビッグ・フィッシュ』は泣いちゃったんですよね。それもお父さんが死んじゃうところでまんまと(笑)。ここは素直に「参りました!」と言っておくのが正直かなと。ティム・バートンもお父さんを亡くして撮った映画らしく、そういう体験をきっちりおカネにできるのも偉いですよね。

手法の斬新さに感心した『ダンサー〜』『ドッグヴィル』
『ニーチェの馬』は終末ものの中で一番ミニマムかも

『冷たい熱帯魚』

『冷たい熱帯魚』

泣き系の映画といえば『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。ラース・フォン・トリアーの映画はどれもいいんですが、とりあえずこれと『ドッグヴィル』と2作を選んでみました。この監督はサディストですよね。これでもかというくらい主人公をひどい目に遭わせる。ただ、描こうとしているのは人間を超えた悪とか善みたいな、抽象的なもので、キャラクターもそのための素材だから、「あの役がかわいそう」みたいな嫌な気持ちになったりはしません。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』で一番新鮮だったのは手法の斬新さなんです。カメラを手持ちでブンブン振り回すような映像で、ミュージカルだから途中で歌い出す。泣かせようとしてる映画で突然歌い出したら僕は笑っちゃうタイプなんですが、この映画ではむしろいいなとさえ思っちゃった。

漫画でも映画でも“世界”ってすごく薄い氷の上にある。真面目にやっても笑われたり、逆に笑わせようとして滑ったり、ちょっとしたことで簡単に破綻する気がするんです。映画や漫画が表現するリアリティは結構デリケートなんですね。それが『ダンサー〜』では僕が想像していたのとは別のリアルさが生まれていた。『ドッグヴィル』だって全編が黒いセットに白い線を引いただけで、作品のリアリティって何によってできるのかなと考えさせられました。

『冷たい熱帯魚』は同じ園子温監督の『TOKYO TRIBE』とどっちにしようかなって迷ったんですが、最近の邦画でどれか一本というとやっぱりこれになりますね。何がすごいのかよくわかんないんですけど、震えがきちゃうようなところがありますよね。悪人のリアリティというか、一皮むけばでんでんさんみたいな人が本当にいそうな気がする。もはや“悪=でんでん”って代名詞みたいになっちゃってるし、その“でんでんのような悪”は相手役の吹越満さんの役の中にも見える。こういうすご味ってとても価値がある。

『ニーチェの馬』

『ニーチェの馬』

『ニーチェの馬』にはびっくりしました。これ企画書だとB5の紙1枚で済む気がするんです。あらすじにしても「二人でジャガイモ食ってたら暗くなりました」というだけで20文字くらい(笑)。でもこれから先、「シンプルな中に重厚な何かがある」ような映画を作ろうとしたときに“『ニーチェの馬』のような”って前置きが必ずついて回ると思うんですよ。要するにミニマムな終末の映画。世界が終わりますという映画はいっぱいあるけれど、大体が神と悪魔の戦いだったり、壮大なスペクタクルだったりしますよね。でも『ニーチェの馬』はすべての終末ものの中で一番ミニマム。それなのに長い(笑)。なんで退屈なのに2時間半もあるんだって思うんだけど、だって世界が終わるんだよ、20分で終わらせたら世界が軽すぎるじゃん(笑)。こんなミニマムな表現でも世界を一つ終わらせるには2時間半はかけないといけないんだなと納得させられました。

付け足しみたいになっちゃいますけど、映画を作るのって本当に難しくて、ひどいことも言っちゃったけど映画監督の人はすごく尊敬してます。それこそエンターテインメントから『ニーチェの馬』みたいな映画まで幅が広く、観客数が減っていると言われながらも豊かな作品が次々と作られている。誰がおカネ出してるのかわからないですけど、やっぱり映画にしかできないことってあるんだなと思いますね。


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(取材・文/村山 章  写真/江藤 海彦)

プロフィール

しりあがり寿

1958年静岡県生まれ。広告宣伝の仕事を経て'85年に『エレキな春』で漫画家デビュー。代表作は、『時事おやじ』、実写映画化もされた『真夜中の弥次さん喜多さん』ほか多数。映像やアートなど漫画以外の創作活動も行う。'14年春に紫綬褒章を受賞した。

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アーティスト情報

しりあがり寿

生年月日1958年1月1日(60歳)
星座やぎ座
出生地静岡県静岡市

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