【レビュー】映画『あゝ、荒野』後篇ー「肉体的・精神的な繋がり」を軸とする熱き人間模様の結末に刮目せよ!

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

今を時めく菅田将暉と、韓国の名優・ヤン・イクチュンをW主演に迎え、寺山修司が残した唯一の長編小説を実写化した映画『あゝ、荒野』。10月7日に全国公開を迎えた前篇は、個性的な登場人物の運命的な出会いと予期せぬ再会を描いたが、続く21日に全国公開の後篇は、彼らが織りなす愛と哀しき別れを鮮烈に映し出す。その完成度の高さには、本作が菅田、イクチュン、そして岸善幸監督の代表作になったと確信させられた。

母に捨てられた過去を持つ少年院上がりの不良・新次(菅田)と、吃音および赤面対人恐怖症に悩む建二(イクチュン)がボクシングに打ち込みながら、周囲の人々と織りなす人間ドラマを描く本作。前篇のレビューで、脚本の港岳彦と岸監督(兼任)が、大胆な脚色を行いつつも原作の精神性を保っていることに触れたが、それは後篇でも同じだ。前篇で組み込まれた時代性およびキャラクターの設定における変化によって、原作とは大きく異なる物語が展開されているが、その根底では原作と同じように「孤独」や「愛」が共感を誘うテーマとして力強く機能している。これに加えて後篇では「肉体的・精神的な繋がり」というもう一つの主題が存在感を増していく。

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

因縁の相手である裕二(山田裕貴)との対戦を経たのち、同じジムで汗を流してきた建二との予期せぬ別れに直面した新次は、恋人である芳子(木下あかり)との恋愛によって心の隙間を埋めようとするが、ボクシングに情熱を注ぐ新次と、情熱を注ぐ対象がない芳子の間には、少しずつ距離感が生まれていく。芳子からすれば、ボクシングに打ち込む新次の姿は眩し過ぎるのだろう。新次と芳子は互いに愛し合っているし、肉体的にも繋がっている。しかし、精神的には繋がりきれていない。繋がっているようで、繋がっていない。そんな2人の関係性は、言いようのない切なさを感じさせる。

一方、新次と戦うために海洋拳闘クラブを離れた建二は、ひょんなことから、とある女性と体を重ねることになるのだが、建二は土壇場になってこれを辞退する。彼は新次と拳を交える前に、誰かと繋がることを良しとしないのだ。いわば建二は、憧れの存在である新次に、肉体的にも精神的にも、童貞を捧げることを決心するのである。その愚直な姿勢には、「いったいどこまで真面目なんだ」とツッコミを入れたくなるが、それと同時に、人間的な魅力を感じずにいられない。

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

また、トレーナーの堀口(ユースケ・サンタマリア)は芳子の母で被災者でもあるセツ(河井青葉)との繋がりを見出すも、その繋がりが刹那的なものでしかないという現実に直面する。同級生を亡くした過去を持つマコト(萩原利久)は、病を患った建二の父・建夫(モロ師岡)を支えてきたが、その関係にも終わりが近づく。幼い新次を捨てた実母・京子(木村多江)も、新次との距離を埋めることができないまま日々を過ごしていく。繋がりたい人と繋がることができない、あるいは、別れざるを得ない。そんな彼らの姿からは、人生において誰もが経験するであろう哀しみがひしひしと感じ取れる。

迎えた終盤。登場人物それぞれが繋がりを見出せないまま、いよいよ新次と建二の戦いが現実のものとなる。建二は強くなった自分を新次に認めてもらうために、新次はそんな建二の思いを受け止めるとともに、心の空虚を満たすためにリングに上がる。誰にも認めてもらえず、心の繋がりを感じることができていなかった建二は、新次と拳を交える中で、新次の中に永遠に刻まれることを望むようになり、新次はその思いに応えることで、見失いかけていた自分の居場所を確立していく。

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

観客の声援や叫びを浴びながらパンチを繰り出し合う2人が、ボロボロになりながらたどり着く試合の行方は、“壮絶”以外に表現する言葉が見つからないものだ。その後に待ち受けるラストシーンは、衝撃的かつ示唆的なものとなっているのだが、なぜこの結末に至ったのかと疑問に思った場合には、繋がりという言葉を思い出してほしい。そうすればきっと、新次と建二が抱いていた思いが理解できるはずだ。愛と哀しみで彩られた物語の意味深長な幕引きからは、改めて本作が、寺山による原作の精神性をしっかりと踏襲した映画であることが感じ取れた。

役者陣の仕事ぶりには言うことなしだ。映し出される者たちはみな、それぞれアプローチは違えど、キャラクターと親和した名芝居を見せている。彼らが織りなすドラマの中には、思わず心が震えるような、力強い化学反応が、確かに起こっていた。そんなキャストの中でも、荒野のような厳しい人生を歩んでいく2人の男を熱く演じ抜いた菅田とイクチュンには、特に大きな拍手を送りたい。大げさではなく、肉体改造や心理描写を通じて魂を削っていたであろう2人の共演は、今後の日本映画史において長く語り継がれる宝になったと思う。

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

(C)2017『あゝ、荒野』フィルムパートナーズ

前篇のレビューに記したように、実写化の意義とは、原作の精神性を損なわず、新しい“何か”を組み込むことだと筆者は考えている。そういった意味において、登場人物の過去に対する具体的言及や劇的関係性の導入、生々しく荒々しいセックスやボクシングの描写によって、重厚かつ深みのあるストーリーを紡ぎ出した本作は、極めて有意義な実写化になった。菅田、イクチュン、岸監督は、本作をキャリアにおける代表作にしたいと話していたそうだが、その言葉は見事に現実化されている。それぞれが携わってきた作品群の中でも、圧倒的な熱量を感じさせる映画『あゝ、荒野』は、彼らの代表作として語り継がれていくに違いない。

>【レビュー】映画『あゝ、荒野』前篇―菅田将暉×ヤン・イクチュンの大傑作!寺山修司の精神を継承した脚色も光る

(文:岸豊)


映画『あゝ、荒野』
10月7日(土)前篇、10月21日(土)後篇 全国公開中

出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン
木下あかり モロ師岡 高橋和也 今野杏南 山田裕貴
でんでん 木村多江 / ユースケ・サンタマリア
原作:「あゝ、荒野」寺山修司(角川文庫)
監督:岸善幸
撮影:夏海光造
脚本:港岳彦 岸善幸
音楽:岩代太郎
制作・配給:スターサンズ
制作プロダクション:テレビマンユオン

フォトギャラリー

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

関連サイト

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST