【第30回東京国際映画祭】SAMURAI賞受賞の坂本龍一「必要とされる場所に、必要とされる音楽がストンとはまれば、その映画の中の音楽の役割としては最高に幸せ」

スティーヴン・ノムラ・シヴル監督と坂本龍一

スティーヴン・ノムラ・シヴル監督と坂本龍一

11月1日、第30回東京国際映画祭にてSAMURAI賞の授賞式が行われた。今年で4回目を迎えるこの賞は「東京国際映画祭が、比類なき感性で常に時代を切り拓く、革新的な映画を世界に発信し続けてきた映画人の功績を称える」目的で設けられた賞。これまで北野武やマーティン・スコセッシ、ティム・バートンらが受賞している。

今年の受賞者は大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』に始まり、アカデミー賞作曲賞を受賞したベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』、まだ記憶に新しいアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の『レヴェナント』などの映画音楽を手掛け、世界を舞台に活躍している坂本龍一。

授賞式のステージに登場し、久松猛朗フェスティバル・ディレクターからトロフィーを授与され、中央のマイク前に立つと、かしこまった席で大勢の観客を前にし、どうも照れくさそうなご様子。SAMURAIにちなんで刀が描かれたトロフィーを刀に見立て、時代劇の首を切られる仕草でおどけて見せるなど、会場に集まった新旧ファンの心をつかんだ。

トロフィーを手に

トロフィーを手に

受賞の挨拶を求められると、「今年は東京国際映画祭が30回目ということで、長く続いていますよね。おめでとうございます。僕のドキュメンタリー映画『CODA』を今日、上映して下さるそうで、ありがとうございます」と映画祭への心遣いからスタート。

「よく見ると(トロフィーに)刀の絵が描いてありますけれど、僕が映画に関わった最初の作品である『戦場のメリークリスマス』には、役者として居合いをするシーンがありまして、撮影前に8回ぐらい道場に通って、文字通り、付け焼刃の居合いをしたことを思い出しました。撮影現場でも、皆、刀を持っていると振り回すから、折れたりするんです(笑)。こういうものを持つと、なぜか振り回したくなるんですね(と振り回して会場を沸かす)。皆さん、持たないようにしてくださいね(笑)」

環境問題に熱心に取り組んでいることでも知られるが、「その頃は環境意識も高くなくて、撮影したラロトンガ島の木をばっさばっさと切っていってね(笑)。今は『more trees』という森林保全の運動をやっていますけど、その頃はばっさばっさと切っていたという……35年前ですけれど、これ(トロフィー)を見ていたら思い出してしまいました(笑)。SAMURAIという名に私がふさわしいか、大いに疑問がありますけれど、本当にありがとうございました」。

そのままステージ上では、今月4日から公開される、自身が被写体となったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』が上映され、上映前の舞台挨拶が。スティーヴン・ノムラ・シヴル監督が登場すると、あたたかな笑顔で迎えた。

スティーヴン監督と

シヴル監督と

監督が「この映画を作り始めたのは2012年の夏でしたが、もう5年以上の年月が経ちました。映画は監督のものだと坂本さんはよくおっしゃって下さるのですが、ひとりで映画を作ることなんて絶対にできません。今日集まって下さった関係者の皆さんも含め、皆さんのおかげで完成することができました。ありがとうございます」と挨拶すると、「僕は自分の素顔を曝け出す趣味はないんです(笑)。では、なぜ『Ryuichi Sakamoto:CODA』という映画を作ることを承諾したかといいますと、ひとえに監督のお人柄、日本人以上に控え目で丁寧で謙遜される方で、監督の人間性に惹かれて、この人だったら任せてもいいかなということになったのです」

撮影が5年もの歳月に及んだのは「当初はシヴル監督も『こういう映画にしよう』という計画があったと思うのですが、撮っているうちに色々なことが起こりすぎて収集がつかなくなってきて。当初の目的は、その時間をもう過ぎていて、いつ終わっていいかもわからない。そのうち、僕が病気になっちゃってね。しめたと思ったでしょ? ドラマチックになるって(笑)」と監督を指差すと、監督は慌てて、「いえいえ、そんなことないです。当初から手探りで、かなり衝動的に始めた映画だったんですね。坂本さんがおっしゃったように、どんどん感覚的にならざるを得ない状況にありました。最終的には自然と今の形になっていたという映画です」。

5年間のやりとりで印象に残ったことを問われた監督は「たくさんありすぎて、どこから話していいかわからないのですが、撮影していて何かを強く感じたことは、最終の編集に残っているシーンが多いです。陸前高田でも撮影を行ったのですが、その時の坂本さんのライブは撮影しながら震えるような気持ちを味わいました。その場面も入っています」。映画の中には、震災にまつわる場面も印象深い。映画の冒頭、津波で「自然に返った」ピアノのエピソードは聴きながらハッとする人も多いことだろう。

最後に、今回の受賞に際し、自身にとっての映画音楽とは?と問われると、「まず僕が思っているのは、映画にはルールがないということ。必ずしも映画にとって音楽は必要ではないんです。自分の職業を否定するようですけど(笑)。言ってみれば、映画が音楽を必要とするかどうか。映画音楽を作っていると、映画が主人公のような気持になるんです。だから、必要とされる場所に、必要とされる音楽がストンとはまれば、その映画の中の音楽の役割としては最高に幸せなケースだと思います」

これについては、こちらの授賞式&舞台挨拶の前に行われたトークイベントでも「音楽としての面白さを追求しすぎると、映画にとって邪魔になってしまうことがあるんです。映像自体が音楽になっているいい映画には、音楽は必要ないですから」。こちらのイベントでは自身のこれまでの映画音楽についての興味深いエピソードが語られた。

トークイベントでも受賞式&舞台挨拶でも、質問したファンやスタッフの人たちに言う「ありがとう」があたたかく、ステージを去る際には司会や通訳の方と握手していたのも印象深い。元気になって戻ってきたキョージュに、会場はあたたかな拍手で包まれた。

『Ryuichi Sakamoto:CODA』には、すでにリリースされている新作アルバム「async」の製作過程や、『ラストエンペラー』の音楽製作に関する、びっくりするような裏話も収録されている。雨や雪の中に出て音の響きに耳を澄ます場面など、純粋に音を楽しむ姿に、音楽家の原点を見る思いがする。物事本来のありようを見つめるアーティストの視点が随所に感じられ、坂本龍一を追いながら坂本龍一に閉じない、世界に向けて観客それぞれに何か新たな視点が開けるようなドキュメンタリーだ。

(取材・文:多賀谷浩子)


映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』
11月4日(土) 角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開

監督:スティーブン・ノムラ・シブル
製作/プロダクション: CINERICBORDERLAND MEDIA
配給:KADOKAWA

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アーティスト情報

坂本龍一

生年月日1952年1月17日(66歳)
星座やぎ座
出生地東京都中野区

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