【レビュー】映画『gifted/ギフテッド』―シンプルさと遊び心の調和が生んだ、心温まるホームドラマ。

(C)2017 Twentieth Century Fox

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視覚効果、壮大なセット、狂気的な演技など、映画で観客を引き込むために用いられる仕掛けは数多く存在する。しかし、そうした仕掛けを用いることなく、シンプルな演出・芝居・映像と、少しの遊び心を調和させた作品が放つ輝きも美しいものだ。特別なことをしなくても、素晴らしい映画が生まれることは、確かにある。その好例と言えるのが、『(500)日のサマー』『アメイジング・スパイダーマン』シリーズで知られるマーク・ウェブ監督が、クリス・エヴァンスとマッケナ・グレイスをキャストに迎えた映画『gifted/ギフテッド』である。

物語の主人公は、姪のメアリー(マッケナ)を男手ひとつで育てているフランク(クリス)だ。天才的な頭脳を持つメアリーを、数学者だった亡き姉の遺志を継いで「普通の」学校に入学させたフランクだったが、彼の母で厳格な教育方針を持つイブリン(リンゼイ・ダンカン)は、メアリーを高等教育が行き届いた学校に入れるべきだと主張。過去の経験からイブリンに同意できないフランクは提案を拒否するが、イブリンは裁判を起こしてまでメアリーの教育権を奪おうとする…。

(C)2017 Twentieth Century Fox

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『(500)日のサマー』や『アメイジング・スパイダーマン』シリーズでは、趣向を凝らした多彩なディレクションで映画ファンの心を掴んだウェブ監督だが、本作ではシンプルさと少しの遊び心を融合させた演出を見せている。「子供をどう育てるか」という誰もが感情移入することができるテーマを軸とする物語の中では、映像表現やキャストの芝居を含めて、実に飾り気のないシーンを映し出していくが、ウェブ監督と脚本を手掛けたトム・フリンは、台詞回しや、ちょっとしたシーンにおける間の取り方に、笑いや涙を誘う工夫を何気なく組み込んでいるのだ。その結果としてスクリーンには、シンプルながらも随所に観客を引き込む映画的魅力が生まれている。

これまでの作品とは異なるディレクションを見せ、作家性を拡大したウェブ監督。そんなウェブ監督と初のタッグを組んだクリスは、ふとした瞬間に見せる“傷”を感じさせる表情、独身男としてのペーソスを感じさせる佇まいといった繊細な芝居で見る者を引き込む。彼が演じたフランクは、過去に対する罪悪感、メアリーをどう導くべきなのかという迷い、イブリンとの気まずい親子関係に対する悩みといった心理的要素が複雑に絡み合っている人物だ。クリスはこの悩ましい独身男の姿を、過度に共感を誘う作為性に満ちた芝居ではなく、自然に共感することができる芝居によって成立させている。肉体美や超絶ハンサムな顔に注目が向かいがちなクリスだが、本作で示した演技巧者ぶりからは、ヒューマンドラマ作品への出演が増えることが予感できた。

(C)2017 Twentieth Century Fox

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一方、メアリーを演じたマッケナの芝居には、ただただ驚かされた。メアリーは数学の天才(厳密に言えば、彼女の才知は多岐にわたる)であると同時に、等身大の少女でもあるため、マッケナはこの二面性を両立する必要があった。少々ハードルが高いように思うが、マッケナは技術というよりも、天才的なバランス感覚でこれを実現している。可愛らしくあどけない笑顔や、こちらが思わず笑ってしまうような不機嫌面(これが『ペーパー・ムーン』のテイタム・オニールに激似である)も最高だ。また、メアリーの純粋で優しい目線からは、大人になると忘れてしまいがちな「当たり前」の大切さを再認識させられるのだが、こうした場面の芝居において、あざとさや説教臭さを与えていないのも素晴らしい。いやはや、今後が楽しみな女優である。

クリスとマッケナに加えて、イブリンを演じたリンゼイ、心優しい隣人・ロバータを演じたオクタヴィア・スペンサー、小学校教師ボニーを演じたジェニー・スレイトも、それぞれ見る者の心に残る名芝居を見せてくれた劇中では、片目の猫フレッドにも注目してほしい。フランクやメアリーとともに暮らしている彼の片目が、登場人物間に共通する“傷”を意味していることは多くの人が読み取れると思うが、この片目は“イブリンやフランクの視野狭窄”も象徴している。というのも、彼らは終盤に至るまで、全体を見つめることなく、自分の主観的視点に基づいて行動してしまうのだ。その過ちに気づいた彼らが、“何がメアリーにとってベストなのか?”という問いに、躓きながらも一つの回答を出すクライマックスには、目頭が熱くなること請け合いである。

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本作が深みのある人間ドラマとして成立している要因の一つには、悪者がいないことも挙げられる。というのも、劇中には悪意を持っている人物はいないのだ。一見すると物語における悪役のイブリンの主張も、実は的を射ている。彼女は「与えられた才能に対する責任」について確固たる想いを持っており、その根拠にも納得できる部分があるのだ。裁判によってメアリーの教育権を奪おうとするのは些かラディカルだが、彼女は決して悪人ではないのである。フランクに対する彼女の主張にも理解できる部分があるからこそ、物語を通じて考えさせられるものは多い。良い映画には“正論の対立”が描かれることが多いように思うが、本作は正にこれを実践している。

“才能ある子供をどう導くべきか?”というテーマにおいて『グッドウィル・ハンティング』『ボビー・フィッシャーを探して』『はじまりへの旅』に通じるホームドラマとして完成度が高い本作は、観客を驚かせる映像表現や奇抜なアイディアがなくとも、シンプルな演出・芝居・映像と普遍的なテーマを融合すれば、上質な映画ができることを証明している。オリジナル作品という意味でも、その映画的な価値は非常に高い。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズを手掛けた後に、本作のような小規模ながら魅力的な映画を完成させたウェブ監督、そして彼のディレクションに親和した芝居で物語を彩ったキャスト陣には、いくら拍手をしても足りない。

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毎年のことだが、年末にかけては膨大な予算で製作されたSF超大作や、アカデミー賞を狙うために各スタジオが放つ品々に映画ファンの関心が集まりがちになるものだ。しかし、普遍的に響くヒューマンドラマを映し出す『gifted/ギフテッド』が公開を迎えていることも、映画ファンには知っておいてほしい。断言するが、本作は見逃すには惜しい名作だ。事実として、日本公開を直前に控えた11月22日時点では、製作費700万ドルに対して世界興行収入4,100万ドルという素晴らしい成績を残しており(Box Office Mojo調べ)、劇場に行く価値がある映画であることを証明している。このレビューや予告編を見て、少しでも気になった映画ファンには、迷わず劇場に向かってほしい。

(文:岸豊)


映画『gifted/ギフテッド』
公開中

監督:マーク・ウェブ『(500)日のサマー』
キャスト:クリス・エヴァンス、マッケナ・グレイス、ジェニー・スレイト、リンゼイ・ダンカン、オクタヴィア・スペンサー
全米公開:4月7日
原題:gifted
配給:20世紀フォックス映画

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アーティスト情報

マーク・ウェブ

生年月日1974年8月31日(43歳)
星座おとめ座
出生地

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クリス・エヴァンス

生年月日1981年6月13日(37歳)
星座ふたご座
出生地米・マサチューセッツ・サドベリー

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