普遍的なテーマを衝撃的に描く、女性の感性が詰まった1本。『RAW~少女のめざめ~』【連載コラムVol.41】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第41回目はフランス人女性監督ジュリア・デュクルノーの最新作『RAW~少女のめざめ~』。観るものを選ぶほどの過激な描写があるため、実際グロテスクではある。それでも本作を観てすっかり監督の虜になってしまったという。


(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

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「何、この映画!」と、予想していなかった意外な感動に出会う瞬間がある。普遍的な少女の成長と、特別な運命の目覚めを描いたフランス映画『RAW〜少女のめざめ〜』も、その1本だった。

少女から大人の女性への変化は、映画になりやすい。人それぞれ時期は異なるだろうけれど、初めての恋、初めてのキス、初潮、初めてのセックス……いくつもの初めてを経験する多感な年齢であることは間違いなく、『RAW〜少女のめざめ〜』も副題に“少女のめざめ”とあるように、変化=目覚めが描かれている。この映画のヒロイン、ジュスティーヌの場合は、多くの人に訪れる身体の目覚めだけではなく、彼女にしか訪れない“運命”も目覚めてしまう。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

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両親や姉も通った獣医科大学に進学を決めたジュスティーヌは、親元を離れ、新しい生活を始める。環境の変化によって少しずつ彼女は目覚めていくのだが、運命の目覚めのきっかけは、新人が通る歓迎の儀式でウサギの生の肝臓を口にしてしまったことだった。もともとベジタリアンであるのに、肉の味、血の味を知ってしまった──。

この映画は、カニバル映画の要素がある。個人的にはその手の映画は得意ではなく、観る前は正直、躊躇した。けれど実際に描かれているのは、少女から女への目覚め。それはいつの時代でも描かれ続けている普遍的なテーマであり、描き方が、ロマンチックになるかグロテスクになるかファンジーになるかの違い。今回は、グロテスクな方法が取られたということだと解釈している。『ワイルド わたしの中の獣』 『ぼくのエリ 200歳の少女』 『獣は月夜に夢を見る』 『ネオン・デーモン』に近いものも感じた。

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大学に進学するという環境の変化と異性に恋をする心の変化、それがタイミングよく重なって自分自身が抱える運命、本能が目覚めるきっかけとなる。印象的なのは、肉の味、血の味に目覚めてしまったジュスティーヌが、セックスをしながら相手を傷つけないように、自分の腕を噛むシーンだ。本能に抗おうとする葛藤、彼を傷つけたくないという愛情、セックスという快楽……さまざまな感情と高揚と痛みが混ざり合ったシーンで、何とも強烈だ。しかも美しい。

ほかにも、映像的に『キャリー』を思わせる血を浴びるシーン、冷蔵庫の前で生肉にかぶりつくシーンなど衝撃的な映像が続くが、彼女の内側で起こっていることは、実はとても静かにうごめいていて、そして確実に変化を遂げている。映像に気をとられていると、その変化が急に露わになったかのようにゾクッとさせられる。

一見グロテスクになりそうな映像を「美しい!」と思わせるのは、フランスの女性監督ジュリア・デュクルノーの凄さだろう。エロティックなところに敢えてグロテスクを強めに入れるなど、エロとグロのバランスが上手いなぁと思う。口の周りの血の描き方にしても、どんなふうに血のりを付けるか──血だけれど、見方によってはルージュとも思えるような描き方。ギリギリで表現する美的バランス感覚が素晴らしい。

(C)2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

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ユーモアもある。ブラジリアンワックスのシーンは女性監督ならではのシーンと言えるだろう。叫ぶほどの痛い思いをしても美しくなりたいというのは、女性の美の執着でもある。年頃の女性は、身体の毛について悩みを持っている。青春もの、恋愛ものの映画やドラマで、デートの直前に手や足の毛を剃るシーンが差し込まれているのは、そういうところでヒロインと観客との共感を得ようとしているのかもしれない。ワックスが剥がれなくて皮膚が剥がれるのでは……ハラハラしていると、それが別のドキドキに変わり、あの事件が起こってしまうわけだ。計算された面白いシーンだ。

普遍的なテーマをこれほどまでに衝撃的に描くジュリア・デュクルノー監督にすっかり惚れてしまった。彼女はこの映画を「現代のギリシャ悲劇」だと考えているそうだ。ヒロインのジュスティーヌが持って生まれた定め(=運命)、それが目覚めてしまった瞬間を普遍的な少女の成長として描く『RAW〜少女のめざめ〜』は、忘れられない1本として記憶に刻まれた。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani

映画『RAW~少女のめざめ~』
公開中

監督:ジュリア・デュクルノー
出演:ギャランス・マリリエ、エラ・ルンプフ、ラバ・ナイト・ウフェラ
原題『GRAVE』英題『RAW』 / 2016年制作 / 製作国:フランス・ベルギー / 本編尺:98分 / カラー / 音声:5.1ch / R-15+
後援:在日フランス大使館 / アンスティチュ・フランセ日本
ユニバーサル映画
配給:パルコ

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