<山田尚子監督インタビュー>『けいおん!』と『リズと青い鳥』奏でる音の違いとは? 瞬きの速度に込めた“少女たちの禁忌”

山田尚子監督(今月上旬、都内のイベントにて)

山田尚子監督(今月上旬、都内のイベントにて)

少女たちの瞬き、こぼれる溜め息、翻るスカート…。ほんの些細な表現の積み重ねとともに、まぶしくも壊れそうな思春期の心の揺れを描いたアニメーション映画『リズと青い鳥』。監督を担った京都アニメーションの山田尚子は「息をひそめて、少女たちをのぞき見しているような感覚だった」とニッコリ。劇中に吹く風を感じ、彼女たちの匂いや体温まで伝わってくるような陶酔感の味わえる本作は、アニメーションの無限の可能性を感じさせてくれる1作だ。「気配をアニメーションにしたい」という山田監督に、本作でのチャレンジ、そして、本作と同じく“青春と音楽”を描いた代表作『けいおん!』との“奏でる音の違い”について聞いた。

『リズと青い鳥』は、北宇治高等学校吹奏楽部員のドラマを描く『響け!ユーフォニアム』シリーズの完全新作劇場アニメ作品。最後のコンクールに臨む3年生、みぞれと希美にクローズアップし、親友であるはずの2人が微妙にすれ違っていく姿を描く。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

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山田監督は、本作の制作にあたって「キャラクターたちの本質が変わる訳ではないけれど、チューニングを『リズ』に合わせていきましょう」とキャスト陣に伝えたそう。シリーズと本作では、どんな違いがあるのだろうか?

「これまでのシリーズは、たくさんのキャラクターが登場する群像劇でした。その中で一人ひとりを立たせるためには、わかりやすいセリフやパッと見て“この子だな”とわかるような芝居づけをしていた」そうで、今回は「みぞれと希美。2人の成長にググッと寄っていく作品」と集団ではなく個を描く物語だからこそ「小さな積み重ねを大事に、煮詰めていくような感じで作品づくりに臨んでいました」と込めた思いを語る。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

みぞれと希美の関係性については「みぞれにとって希美は、世界のすべて」と分析。「みぞれの抱いている思いは、ちょっとわかるようなところもあって。原作を読んだときに、すごく面白いキャラクターだし、触ってみたい存在だなと思ったんです。一方の希美は、フルートが大好きな女の子。自分の中に『音楽が好きだ』という自信があるのに、みぞれのズバ抜けた音楽の才能を感じ取ってしまう。ツライですよね。みぞれと友だちでいたいけれど、どうしても心は決壊していってしまう。とても人間くさいと思いました」。

みぞれと希美の複雑な想いや距離感が、ささいな仕草からも伝わる。山田監督は「髪の毛一本、まつげ一本の動きも拾いたいと思っていました。映画1本終わったところで、シリーズのセリフひと言分と同じくらいの情報量かもしれません」と新たなチャレンジについて吐露。「『この山は登りきれないのでは…』と思った瞬間もありましたが、やり始めるととても楽しくて。少女たちを記録することに夢中になっていました」と充実の表情。「近くまで寄ってしまうと彼女たちに気づかれてしまうので、こっそり隠し撮りするような感じでした」と微笑むなど、キャラクターを生きている人間として感じ、並々ならぬ愛情を注いで描き切った。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

特にこだわったのが「瞬きの速度」だという。「瞬きの速度って、これくらいの速さ、これくらいのタイミングなど、アニメのルールとしてなんとなくパターン化してしまうこともあるんです。でもそれは、すごく“アニメっぽい”こと。今回は“生きているひとりの人間”としてキャラクターを描きたかったので、瞬きの速度にはとてもこだわりました。本当の人間で考えると、ちょっと目線をそらすタイミングで瞬きをしたり、目を閉じきらなかったり、いろいろな瞬きがある。キャラクターの思考に寄り添いながら、すべてを描きたいと思っていました」と舌を巻くほどのこだわりぶりを明かすが、「気配から巻き起こる情感を拾いたい。いつも、気配を描きたいと思っているんです」と空気感もアニメーションで描こうとするのが“山田流”だ。

どこまでも繊細な表現を積み重ね、みぞれと希美の“好き”という気持ちが、少女時代の一瞬の輝きとしてスクリーンに見事に刻まれた。彼女たちの“好き”の形について「少女の時期にしかないものだからこそ、特異性が際立つ」と語る山田監督。「秘密っぽくて、触れてはいけないような“少女たちの禁忌”みたいな感じがして。大人の尺度で測ったら見逃してしまうような、とても魅力的な関係です。すごく透明なのに、熱がある。本作のおかげで、少女たちの傷つきやすい心を見つめ直すことができて、とてもうれしかったです」。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

これまでも『けいおん!』『たまこラブストーリー』など、普通の女の子たちを魅力的に描くことに定評のある山田監督だが「箸が転がっても楽しい時期で、こうじゃなきゃダメということもない。新陳代謝がいいんですよね。あの年頃の女の子たちって、すごく面白くてかわいい存在です。興味がつきないですね」と彼女たちは創作意欲を掻き立てられる存在だとか。生き生きとした普通の女の子を描くコツは「私、根暗だったので(笑)。昔からよく人を観察しているんです。その蓄積かもしれません。今でも、電車に乗って高校生くらいの子が近くにいると密かに観察しちゃってます」とお茶目に笑う。

吹奏楽部を舞台にした物語とあって、演奏シーンも大きな見どころ。「音とアニメーションを組み合わせるのは、本当に大変なんです。そこにきちんとドラマも成り立たせなければいけないので」というように、演奏からもみぞれと希美の心情が浮き彫りになる。「クライマックスの演奏シーンは、希美が聴こえているもの、見えているものを軸に作り上げました」。「頭が爆発しそうになるくらい大変だった(笑)」と苦労も多かったようだが、音楽と青春を描いた代表作『けいおん!』とはこんな違いがあるという。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

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「『けいおん!』は心が通じ合っているメンバーが主人公。わかり合えている人たちと、さらに一緒に音を重ね合わせると『最高に楽しいんだ!』と上へ上へと向かって感情を描いていけるのが、すごく楽しかったんです。『リズと青い鳥』は、キャラクターがそれぞれに悩みを抱えていて、見ている方向も違う。どのようにドラマを組み立てていくのかが、とても難しいんです。でも音の盛り上がりとキャラクターの心情が拾えたときは、ものすごくうれしくて。『二度とやりたくない』と思うほど大変でも、またすぐにやりたくなっちゃうんです。難しくも面白い!」。

高い壁が立ちはだかるほど「楽しい」と思えるのも、山田監督の強み。「こんな表現があったのか」と新鮮な驚きをくれるような名作を次々と世に送り出しているが、「作品が変わるごとに、毎回『初めまして』という気持ちで臨んでいます。決して、同じ紐解き方はありません。『新陳代謝したい』という欲に負けて作品づくりをしているのかも」とみずみずしい感覚を大切にしている様子。

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

(C)武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

最後に、ちょっと気になったことを聞いてみた。劇中には緑輝ちゃん発信によって「ハッピーアイスクリーム」という80年代に子どもたちの間で流行った遊びが出てくるのだが、今の高校生たちも知っているのだろうか。すると「私たち世代で流行ったものを、ちょっと思いついたので入れちゃいました。『こんな楽しいゲームあるよ』という若い人たちへの布教活動です」といたずらっぽく笑い、「緑輝は物知りなので、きっとそういうことも知っていると思うんです。法事とかで親戚に聞いているんじゃないかな」と知り合いの女の子の話をするようにコメント。代謝力とキャラクターに注ぐ愛情。それこそが、山田尚子作品の魅力の秘密かもしれない。

(取材・文:成田おり枝)


『リズと青い鳥』
2018年4月21日 ROADSHOW

原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』)
監督:山田尚子
脚本:吉田玲子
キャラクターデザイン:西屋太志
美術監督:篠原睦雄
色彩設計:石田奈央美
楽器設定:髙橋博行
撮影監督:髙尾一也
3D監督:梅津哲郎
音響監督:鶴岡陽太
音楽:牛尾憲輔
音楽制作:ランティス
音楽制作協力:洗足学園音楽大学
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会
配給:松竹

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