【連載】クリエイターの本棚 room.1:イラストレーター長場雄「迷ったとき、自分の本当に好きなことを見つめ直せるもの」

【連載】クリエイターの本棚 room.1:イラストレーター長場雄「迷ったとき、自分の本当に好きなことを見つめ直せるもの」

「読んできた本が、その人を作る」とは、よく言われること。ならば、私たちを楽しませてくれるクリエイターの皆さんは、どんな本を読み、どう本と付き合い、どんな風に暮らしているのか。

今回、お話を伺ったのは、ミニマルな線で世界を描き得てしまう愛すべき作風のイラストレーター長場雄さん。都内の自宅兼仕事場におじゃますると、やはり余計な物のないシンプルで心地いい空間だった。作風も生活の場も、この削ぎ落とした形が、長場さんの辿り着いたスタイルなのだろう。では、そんな長場さんの本棚は――。

「宇宙や人間全般、広く世界に興味があります」

本棚の本はきれいに色分けされて、インテリアの一部に。「本当はもっと欲しいんだけど、増やさないように努力しています。ここにあるのは、何か基準があるわけではなく、結果的に残ったものなんですけどね」(長場さん)。

本棚の本はきれいに色分けされて、インテリアの一部に。「本当はもっと欲しいんだけど、増やさないように努力しています。ここにあるのは、何か基準があるわけではなく、結果的に残ったものなんですけどね」(長場さん)。

――長場さんは普段、どんな本を読まれるんですか?

多いのは美術系です。あとは物理や宇宙、数学や生物……そういう難しいことをかみ砕いて解説してくれる本が好きなんです。たとえば、『宇宙の向こう側』(横山順一竹内薫著)とか『池田清彦の「生物学」ハテナ講座』(池田清彦著)とか。自分が知らない世界を知りたくて。

――長場さんのイラストもシンプルな線で、世界を描き得てしまいます。シンプルなこと、基本的なこと、ものの本質にご興味が?

そうですね。人って何だろうとか、いろいろ考えるんです。ひとりの人物に興味をもつよりは宇宙とか人間全般、もっと大きなところに興味があります。だから、自伝はあまり読まないかな。ちょうど高校生の頃にカート・コバーンの『病んだ魂』(マイケル・アゼラ著)が出て、そういうのは読みましたけど。世代ですね(笑)。

最近ですと面白かったのは『巨大化する現代アートビジネス』(ダニエル・グラネ著)。美術が好きなんですけど、なぜこんなに高値で売買されているのか謎じゃないですか。その本質がここまで書かれている本はなかなかなかったと思うんです。日本だとアート=自己表現と言う面ばかりクローズアップされますが、世界の視点から見ると、またちょっと違ってくる。それを教えてくれる本ですね。

『巨大化する現代アートビジネス』"

――そういう本は、長場さんの日常にどうリンクしていますか?

今は情報が多いから、自分がどこに進んでいいのか、わからなくなってしまう。こういう本を読むと、そうか今、世界はこっちの方に進んでいるんだなとわかるじゃないですか。ものすごいスピードで世の中が進化しているから、少しずつ知ることで自分の未来も見えてくる気がするんです。

「情報ソースは……そんなにアンテナ高くないです(笑)」

――本の中で多いのは、どのようなものですか?また、 お気に入りをいくつかご紹介していただけますか。

作品集ですね。それは手元に置いておきたいんです。写真家のウィリアム・エグルストンが好きで、集めていたりもするし。アーティストだとデイヴィッド・ホックニドナルド・ジャッド。ミニマル・アートの60年代の立体の作家で、学生時代に好きになって、今も好きですね。

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ウィリアム・エグルストンの『Los Alamos』を見ながら。

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まずはホックニーの『Egyptian Journey』。エジプト旅行に行った時のドローイングがあったり、飽きない本ですね。ウィリアム・エグルストンの『Los Alamos』は南部のアメリカを淡々と撮っている写真集で、たまに、この人の写真をもとに絵を描いたりしています。『Candida Höfer』はKawara On(河原温)の作品がコレクターの家にあるところを撮影した写真集。絶版だったのですが、恵比寿の「POST」というお店でたまたま見つけて。Kawara On、好きですね。

最近購入したものだと、『VETEMENTS』というブランドの本。バレンシアガのディレクターがやっているアパレル・ブランドで。今、こういうのが、かっこいいんだろうなと。洋服を見せる本という感じで、文字も目次もない。これはちょっと面白いなと思っています。

『VETEMENTS』の表紙。表題の位置に注目。つくりが実にユニーク。中身も文字はほぼない。

『VETEMENTS』の表紙。表題の位置に注目。つくりが実にユニーク。中身も文字はほぼない。

『VETEMENTS』の表紙。表題の位置に注目。つくりが実にユニーク。中身も文字はほぼない。

――本を探すための情報ソースは?

最近はお店の人に勧められたり、ネットで気になった本を買うことが多いです。ネットだと、他のお店で一度出会いながら、買わずに気になっていた本が見つかったりもするので。『VETEMENTS』はファッション系のポータルサイトをよく見ていて、このブランドが本を出すというので。これが出る前に『THE PALACE BOOK』という本を買っていて、ロンドンのアパレル・ブランドの本なのですが、同じ出版社なんですよ。IDEA Booksという。

――この出版社の本、すぐソールドアウトするくらい人気があるんですよね。

そうなんです。これも出た時に書店に連絡して、取り置きをお願いしました(笑)。最近のアート関連の本は、本屋さんや誰かが勧めているのを見て買うことが多いです。そんなにアンテナ高くないので(笑)。今はとにかく情報が多いから、そのぐらいがちょうどいいんです。

本棚を見つめ直すと、本当に大切なものが見えてくる

――本棚の雑誌では『WIRED』が目立ちます。

『WIRED』は楽しんで読んでいますね。最近のVol.25の「ブロックチェーン」特集もやっぱり世界はこうなっていくんだと面白かったし、ちょっと前に出たVol.20では、30年後ぐらいにA.I.が人間に追いついて、その時には肉体はなくなって、データ化されていると。それなら、その時代のイラストはどうなっちゃうのかなと考えてみたりして。

――本当にどうなるんでしょうね。

データが描いてくれるのかなと考えてみたり。体調って毎日、変化があるじゃないですか。でも、この時代になると、そういうことに左右されないから、どんどん描けちゃうなと思うと、いい未来だなと思うんです。

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――ポジティブですね。

未来に対してはポジティブですね。今日はこの顔飽きたから、別の顔にしてみようとか、楽しそうじゃないですか(笑)。労働的な仕事をA.I.が担うようになるというから、そうしたら人間は皆好きなことができる。音楽作りたい人は作って、小説書きたい人は書いて。そういう未来が成り立つとしたら、なんかハッピーな世界だなと。

――本のデジタル化には、どんな考えをお持ちですか。

今のところ、僕自身の本ではデジタル展開は考えていないですね。本はこの形が面白いと思っています。

――長場さんがイラストを描かれている『みんなの映画100選』も、どのページで開いても平らになる作りで細部まで凝っていて、本への愛情を感じます。

ありがとうございます。考えてみると、自分の生活では、できるだけ物を増やさないようにしているのに、自分が物を作って暮らしているというのは矛盾がありますね。

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――長場さんがこれだけ本の数を制限して、ミニマルにしていらっしゃるのは?

自分の部屋を掃除しないと、仕事につけないんです。なかなか仕事のエンジンがかからないと、まず掃除しちゃう(笑)。目に映り込んでいる世界が頭の中なのかなと思うと、あまり物がありすぎると集中できないんでしょうね。本当はもっと資料が手元にあってもいいんだけど、もっと物を持っていた時代があって、減らしてみたら、なんとなく今の方がしっくりくるので。将来的には、もっと欲しいものが目の前に揃っている状態にしたくなるかもしれないですけれど。

――部屋が頭の中! たしかにそうですね。

余計なことを考えないというか、その時必要なものをポンと浮かび上がらせるために、そういう状態にしておいた方がいいのかなと。

――長場さんご自身と、お部屋や本棚、作風が一致していますね。余計なものがないです。

今の作風になる前は、もうちょっと違う作風だったんです。前の作風でどう展開していいかわからなくなった時に、自分を見つめ直すじゃないですか。生活を見直したり、こういうものは実は好きじゃなかったとか、ひとつひとつ整理していったら、自分が本当にやりたかったことが見えて来て。だから、余計なもの……付き合いでどこかに行くとか、ちょっと買ってみるというのをやめて、本当に好きなもの、やりたいことを素直につらぬくのがいちばんいいのかなと思うんです。

【連載】クリエイターの本棚 room.1:イラストレーター長場雄「迷ったとき、自分の本当に好きなことを見つめ直せるもの」

興味惹かれて手にとる本が、今の自分を知る道しるべになっている長場さん。広く世界を知るための物理や宇宙の本と、一方で自身の仕事に近い作品集。目に映る部屋が頭の中であるのと同じように、本棚もすっきりと長場さんの頭の中になっているよう。情報過多の今、何をとるかより、とらないかが大事だというけれど、今一度、自分の本棚を見直してみたくなった。

(文:多賀谷浩子、撮影:島崎征弘)

■長場雄さんが紹介した本を購入する

『宇宙の向こう側』
『「生物学」ハテナ講座』
『病んだ魂』
『巨大化する現代アートビジネス』
『VETEMENTS』
『THE PALACE BOOK』
『WIRED』Vol.25
『WIRED』Vol.20
『みんなの映画100選』

イラストレーター
長場 雄

1976年東京生まれ。東京造形大学卒業。人物の特徴を捉えたシンプルな線画が持ち味で、Instagram(@kaerusensei)に毎日1点作品をアップしている。広告、書籍、アパレルなど幅広く活動中。2016年3月にロンドンのセレクトショップ『The Goodhood Store』、5月にニューヨークのセレクトショップ『NEPENTHES NEW YORK』にて個展を開催。また4月には映画のシーンのイラストと名言を集めた書籍『みんなの映画100選』を刊行。

主な仕事に、雑誌『POPEYE』表紙イラスト、東京メトロ マナー広告ポスター、BEAMS×GHOSTBUSTERSコラボTシャツ、TOYOTA Prius Lineスタンプなどがある。

Yu Nagaba | TOKYO | ART | DESIGN | ILLUSTRATION

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