三浦しをん「博物館は執念の塊。その人間ドラマに心惹かれます」。エッセイ新刊『ぐるぐる♡博物館』記念インタビュー

インタビューを行った国立科学博物館にて

インタビューを行った国立科学博物館にて

博物館と言えば、静かで、どんよりと薄暗くて、何やら小難しい。そんなイメージを持っている人も多いかもしれない。しかし、そんな声を吹き飛ばすかのように「博物館は私にとって、胸踊るテーマパークだ」と声高に宣言するのは、作家・三浦しをんさん。

そんな三浦さんの博物館への情熱が炸裂した書籍『ぐるぐる♡博物館』が、2017年6月16日(金)に発売される。国立科学博物館のような大規模な博物館から、風俗資料館といったマニアックな世界まで、「好奇心の赴くまま」(三浦さん)に横断し、そのルポエッセイをまとめた渾身の1作だ。

いやしかし、博物館の何がそんなに三浦さんの心を掴んで離さないのか。博物館って、それほどに面白い場所なのか。三浦さん本人に聞いてみた。

説明のつかない収集癖に、心惹かれる

――なぜ、博物館をテーマにした本を書かれたのですか?

最初は美術館のルポエッセイの打診をいただいたんです。もともと少女漫画が大好きだったこともあって、高畠華宵みたいなロマンティックな絵の美術館のルポエッセイはどうですかと。でも、実は美術館には全然興味がなかったんですよね。その点、博物館だったらもともと好きだし、取材にかこつけて行けるのはいいぞって(笑)。

国立科学博物館は『ぐるぐる♡博物館』の第2館で登場。「人類の進化」コーナーでの爆笑のやり取りが繰り広げられる。

国立科学博物館は『ぐるぐる♡博物館』の第2館で登場。「人類の進化」コーナーでの爆笑のやり取りが繰り広げられる。

――博物館と美術館は、三浦さんにとって全然違うものですか?

博物館って、すごく地味じゃないですか。硬い感じもするし。美術館だったら、たぶんデートでもありえますよね。「絵画展のチケットがあるから〜」って。でも、博物館で初回のデートって、普通ないでしょう(笑)。

――たしかに……と、この場で言ってしまっていいのか(笑)。

よほどお互いの趣味が合致していない限りは。でも、私は博物館のそういうところが好きなんですよ!

――美術館でなく、博物館である必然性が見えてきた気がします(笑)。より具体的には、博物館のどういうところが三浦さんを惹き付けるのですか?

たとえば、本では紹介してしないんですけど、「女性の陰毛を集めた個人博物館」も候補にあったんですよ。九十九黄人さんという在野の民俗学者の方が、ご自宅でやられていた博物館で。約4000人分もの陰毛を集めていたらしいです。

でも、ご本人は既に亡くなられていて、そのときにコアな収蔵品、つまり陰毛は散逸してしまったらしいという情報がありまして。まあ、陰毛ですからね。ご家族が「ゴミかな?」と思われたとしても、当然です。すごく行きたかったのですが、うかがえずじまいでした。

――それはご家族の行動もしょうがないというか……。さすがに納得せざるを得ないですね。

でもおかしな収集癖って言うんですか。世の中には、理解しがたいものを集めて、研究している人たちがいるんだなあと。博物館とひと言で言っても、国立科学博物館のような大きな博物館もあれば、個人の博物館もある。そのどちらにしても、膨大なモノを収集する、ということ自体に、何か心惹かれるものがあります。

国立科学博物館
「人類の進化」コーナーにて。真剣な眼差しの三浦しをんさん。

「人類の進化」コーナーにて。真剣な眼差しの三浦しをんさん。

博物館=人の関心の多様性を受け止めてくれる場所

――今回、掲載された博物館の基準は「興味の赴くまま」とのことでしたが、どのようにセレクトしたのでしょうか。

実業之日本社の方に、すごく沢山の博物館をリストアップしてもらって、その中からひとつひとつ選んで取材に行きました。ひとつの博物館に行ってから、リストを見ると、つながりが見えてくるんですよね。人類史に興味が湧いたら、じゃあ次はここだな、とか。博物館に行く度に、知りたいことが浮かんできたんです。

――そのときに三浦さんが関心を抱いていたことが、博物館の並びに現れている、と。

自分としては好奇心の赴くままだったのですが、たしかにそのような傾向はあるのかもしれませんね。

――『ぐるぐる♡博物館』を読むと、収蔵物それ自体というよりは、人間の内面に注目されていたのが印象的でした。

そう言われてみたらそうですね。たとえば、雲仙岳災害記念館の章にしても、カルデラがどうとか、火山の種類や仕組みだったり、そういうことには全然触れてない(笑)。そういうことも楽しいんですけど、私はそれ以上に、火山と一緒に暮らしている人や、歴史に興味を持ちました。

――同じ博物館に行っても、観る人によって視点が違いますね。

人によって興味の在り処が違うということを、受け止めてくれるのが博物館なんだと思います。個々人の視点が違うことを受け入れてくれるだけの知識の蓄積というんでしょうか。化石の形に興味を持つ人がいれば、化石を掘って売る商売に興味が向く人もいる。本当に人それぞれですよね。そういうことも分かって面白かったです。

――特に興味のある博物館のジャンルはあるんでしょうか。

特にこれというジャンルはないですね。やっぱり人間の存在が感じられるものが好きですけど、博物館自体、人間が作ったものなので。鳥の標本にしても、これを綺麗に仕上げて、並べた人がいる。その情熱がすごい!って、何系にでも食いついちゃいます。

国立科学博物館

「男子小学生が、猿人の女性(通称「ルーシー」。全裸。三百二十万年前にエチオピアで暮らしていたらしい)の復元模型を見て、「かわいい! ペットにしたいなー」と言っていた。家畜人ヤプーか!」(本書P32より)。

思わず“E・T”したくなる模型のポーズ。

思わず“E・T”したくなる模型のポーズ。

博物館の本質は、モノではなく人にある

――『ぐるぐる♡博物館』でも、モノを集めずにはいられなかった人々のドラマが描かれていますが、執念を感じますよね。

何かに取り憑かれているかのようですよね。執念が学問を発展させてきたことは間違いない。でも、根底にあるのは、そういう動機じゃない気がする。やむにやまれず集めていたら、大変なことになってしまったので、博物館にしました、みたいな(笑)。

特に個人博物館の場合は、そういうパターンばかり。鬼気迫る集めぶり、でも、それがまたいいんです。その純粋さに胸打たれる、というか。

――説明のつかない執念があるんですね。三浦さん自身は、そういった気持ちに共感できますか?

できます。私の場合は、BL(ボーイズラブ)の漫画の量がものすごくって。大したことないって思われるかもしれませんけど、本当に置き場がない。でも毎月何十冊も買って、毎晩寝落ちする直前まで読んでる。もはや何かの修行ですよ!(笑)。何でこんなに買って読んでるのかって、自分でも思うんですけど。

だから、モノを集めている気持ちは分からなくもない。いずれは同好の士を集めて、「BL図書館を作りたい」と思ったりもします。でも、博物館の方々は、そういうのを完全に超えた高みにいますね。

――博物館というのは、すごく人間味のある世界なのですね。博物館で得た経験が、創作に影響することもありますか?

具体的にはありませんが、どの博物館に行っても刺激があって、好奇心を持つことの大切さを感じさせられます。何かを知りたいという気持ちを忘れずに小説を書きたいとは思いますね。

それと、何と言っても学芸員さんが面白い人たちなんだと気づきました。なるほど、こういう人たちが一生懸命作っているから、博物館は面白いんだなって。

国立科学博物館

――博物館と言えば、モノが主役の場所だと考えがちですけど、実は人がいるから面白い。

そうなんです。ぱっと見、地味に見えるものでも、その裏には異様な熱意があって、工夫も凝らされている。ひとりで博物館に行くと、なかなか学芸員さんとお話する機会は少ないですから、取材はすごく楽しかったです。

「旅先で行く場所って、博物館以外ないでしょう」

――そもそも、博物館を好きになったきっかけは何だったんですか。

もともと、昔からお城やお寺や遺跡などが好きでした。そういう場所に行くと、大体博物館が近くにありますよね。お寺を見るだけだと物足りないし、でも観光地にあるようなオシャレなカフェにはまったく興味がない。そうなると他にいくところがない。じゃあ、博物館しかない!

……いや、待ってください、この消去法は自分でもおかしい(笑)。

フローレス原人の復元模型。通称“ホビット”。フローレス原人の進化は“人類の進化と逆行している”疑惑が……その詳細のエピソードは本書でチェックを!

フローレス原人の復元模型。通称“ホビット”。フローレス原人の進化は“人類の進化と逆行している疑惑が……その詳細のエピソードは本書でチェックを!

――どうなんでしょうか(笑)。旅先でも博物館に行かれるんですね。

近所の博物館にも大体行ったんですが、旅行先では見かけると行きますね。だって、旅行に行くと、本屋に行って、有名な神社やお寺に行って、温泉に行ったりして……。あとは、じゃあ…、博物館行くか、って(笑)。

――そう、なりますかね。

他にみんな旅先で何してるの? 私、綺麗な風景にも興味がないんですよ。「綺麗だねー」以上の何があるんですか?!

――たとえば、最近だとInstagramにアップしたり。

インスタグラム……(怒)?! そんなの、博物館に行って銅鐸の写真でも載せたらよろしいがな!

――すいませんでした。

SNSは一切やってないのでよく分からないんですけど、「#博物館」とか「#銅鐸」とか、どうですか? 博物館も結構オシャレだぜ、って言いたい。実際、写真を撮っていい場所も結構ありますからね。

――博物館仲間のような存在はいないんでしょうか?

私はいないんですよ。友だちと博物館の話って、したことがないですね。それが博物館好きの良くないところだと思う。世の中には必ず同好の士がいるはずなのですが。

――ですが、『ぐるぐる♡博物館』を通じて、博物館の奥深さを知ってもらえそうですね。

そうなんです。博物館って面白そうだなと思ってもらえるきっかけになれば。近所の博物館でもいいので、「ちょっと行ってみようかな」と思っていただけると嬉しいですよね。そして、博物館を愛する同好の士からは、オススメの博物館も教えてもらいたいです。

今日も博物館を“ぐるぐる♡”。

今日も博物館を“ぐるぐる♡”。


博物館は、モノの場所。そんな風に思い込んでいたが、それ以上に人間の面白さに出会える場所だということに気づいて、目からウロコが落ちるようだった。たしかに博物館は、すごく人間臭い場所だ。三浦さんの小説における人間の内面への目線についても、通底するものがあるように感じられた。

「なんでこんなモノを集めたんだろう」という素朴な感想の裏には、途方もない人間ドラマが潜んでいるかもしれない。いや、それだけじゃない。どんな関心の在り方であっても構わない。博物館という場所は寛容に、人間の多様性を受け止めてくれる。

きっと、今度博物館に行くときには、見える風景が違ってくるはずだ。

三浦しをん

(取材・文:玉田光史郎、撮影:masa(PHOEBE)、撮影協力:国立科学博物館)

■書籍概要

『ぐるぐる♡博物館』

著者/三浦しをん
出版元/実業之日本社
発売日/2017年6月16日(金)
価格/1,600円(税別)

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三浦しをん

1976年、東京生まれ。2000年、書き下ろし長編小説『格闘する者に○』でデビュー。
2006年『まほろ駅前多田便利軒』で直木賞、2012年『舟を編む』で本屋大賞、
2015年『あの家に暮らす四人の女』で織田作之助賞を受賞。
ほかの小説に『風が強く吹いている』『きみはポラリス』『仏果を得ず』『神去なあなあ日常』『天国旅行』『木暮荘物語』『政と源』など、
エッセイに『あやつられ文楽鑑賞』『悶絶スパイラル』『ふむふむ おしえて、お仕事!』『本屋さんで待ちあわせ』など、多数の著書がある。

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三浦しをん

生年月日1976年9月23日(41歳)
星座おとめ座
出生地東京都

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