『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』インタビュー。神田桂一、菊池良の“文体をめぐる冒険”は、村上春樹、星野源、吉田豪など100パターン!

村上春樹太宰治ドストエフスキー……。文豪たちが国や時代を超えて、もしカップ焼きそばの作り方を書いたら、どのような文章が綴られるのかーー。

まるで文体の異種格闘技戦のような1冊の書籍『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』(略称:もしそば)が、現在10万部を超えるヒットを飛ばしている。

「文豪たち」と銘打ちながらも、ミュージシャンやタレント、ブロガーなど、ジャンルは驚くほど広い。というか、雑誌『プレイボーイ』風や、国語の問題風など、そもそも人間じゃないものも混ざっている。

まさに奇書。なにせ、1冊を通して焼きそばの作り方しか書いていない。しかし、誰が読んでも、笑える要素がたしかに潜んでいる。一体、どのような発想のもとに、この本は誕生したのだろうか。著者であるライター・編集者の神田桂一さん、菊池良さんの2人に話を聞いた。

僕たちは、村上春樹になって、モテたかった

――どのような経緯でこの書籍が生まれることになったのですか。

菊池良さん(以下、菊池):ツイッターからの書籍化と思われがちですが、神田さんが「村上春樹のマニュアル本を書いたら面白いんじゃないか」と思いついたのが、実はそもそもの発端でした。

ちょうどその頃、僕が書いた「村上春樹がもしカップ焼きそばの作り方を書いたら」というツイートがバズっていて、それで一緒に本を書こうと神田さんが誘ってくれたんです。

左から、菊池良さん、神田桂一さん

左から、菊池良さん、神田桂一さん

神田桂一さん(以下、神田):「村上春樹のマニュアル」というのは、いろいろなシチュエーションで、村上春樹らしく振る舞うための本です。村上春樹になったら、きっとモテると思って。

――そこからなぜ「カップ焼きそばの作り方」に?

神田:いくつかの出版社に企画を売り込んだのですが、全然駄目で。それで編集者の石黒謙吾さんに相談して、一緒に企画を練り直しました。そこで発想の逆転です。1人の作家がいろいろなシチュエーションを書くのではなくて、いろいろな作家が1つのシチュエーションを書いてみたらどうだろう、と。

菊池:シチュエーションについては、「カップ焼きそば」以外も考えましたよね。でも、ずっと考えているうちにみんな疲れてきて(笑)。

神田:そう。それで、最初にバズったツイートが菊池くんの「村上春樹がもしカップ焼きそばの作り方を書いたら」だったから、もうそれでいいじゃん、って。それで、菊池くんのツイートに立ち返ったわけです。

好きな作家の文章は、身体に染み付いている

――そもそも、菊池さんの「村上春樹がカップ焼きそばの作り方を書いたら」というアイディアは、どのようにして生まれたのですか。

菊池:まず、村上春樹が何について書いたら面白いだろう、と考えたんです。日常的で、できるだけ村上春樹がやらなそうなことの方が面白い。そしてもう1つ考えていたのは、パロディ元が誰にでもすぐに分かるということ。

この2つを考えると、みんなが無意識に接しているものがいいと思ったんです。そう考えて、「村上春樹が算数の問題を作ったら」や「村上春樹から来てほしいメール」なども書きましたが、そのなかでも「カップ焼きそばの作り方を書いたら」が特にバズったんですよね。

神田:村上春樹風に書くというのは、僕も以前からやっていました。Facebookに投稿しても全然ウケなかったけど、『ケトル』の村上春樹特集で、村上春樹風の文章を書いたら、すごい反響がありましたね。

――村上春樹風に書くノウハウは、2人とも最初から確立していたと。「村上春樹っぽい文章」を書くにはどうしたらいいのですか。

神田:いろいろな法則があるんですよ。たとえば、同じ文章を繰り返すとか、声に出してみる、とか。

菊池:ありますね。日にちを数えてみたり……。いろいろな作家のなかでも、村上春樹は書きやすいんですよ。文体が特徴的で出来上がっているし、何より2人とも好きな作家だから。

神田:そう、村上春樹はめっちゃ読んでたんで、何もしなくても書ける。身体に染み付いている。あと僕は、町田康も書きやすかったです。大好きな作家なので。

――好きだと自然と真似できる、ということですね。村上春樹に限らず、文体模写のコツはありますか。

菊池:僕のやり方は単純で、一人称と、語尾と、見た目。つまり、どんな風に改行するか。あとは、よく出てくる単語を入れるようにする、とか。

神田:特徴がつかみやすいかどうかに尽きるよね。それで言うと紀貫之は難しかった。これどうすりゃいいんだよ、って(笑)。『ポパイ』とか『プレイボーイ』とかの雑誌については、もともと自分が書いていたので、特に難しくはなかったです。

僕たちの文体は、損なわれてしまった

――これだけの人数の文体模写をすると、自分の文体を見失ったりしませんか。

菊池:まさに見失っている最中です。どう書いたらいいかわからない。文章を書いていると意識しちゃって。ツイッターも前みたいに書けなくなって、投稿の頻度も減って。自分の文体を取り戻そうとしているところです。

神田:僕も自分の文体が迷子ですね。どうしたらいいのか本当に教えてほしい。

菊池:この本みたいに、パロディだったらいいんですよ。でも自分の文章だと、「誰かっぽい」っていうのが恥ずかしくなる。テンション高い文章を書いていると、「あ、これは山本一郎さんぽいな」とか(笑)。

――それだけ、自分の文体を確立している人はすごいということでもありますよね。

神田:本当、そうなんですよ。文体は作った人が勝ちなんだと思いました。村上春樹の偉大さを改めて思い知りました。

菊池:村上春樹は本当にすごい。彼がすごいのは、小説じゃなくてエッセイでもあの文体ですもんね。

神田:そうそう。村上春樹は「わりに」って表現をよく使うんですよ。この前、川上未映子が村上春樹にインタビューした本(『みみずくは黄昏に飛びたつ』)を読んでいたら、本人も「わりに」って使ってたんですよね。あ、自分でも言うんだ!って。

菊池:しゃべり言葉でもそうなんだ。たとえば遠藤周作だと、小説によって文章が変わりますよね。でも村上春樹は変わらない。

神田:「わりに」はすごかった。「わりに」って、めっちゃ使ってましたから。途中から川上未映子にも伝染ってましたからね。

紙とネットの間に横たわる、名状しがたい差異

――今回は念願の単行本ということでしたが、書籍とネットの違いは感じましたか。

菊池:一番感じたのはパッケージの仕方ですね。おそらくこの本も、一個一個の文章をネットに出していたら、「そこそこウケる」くらいで終わったのでは。それを一気にバンッと単行本で出したのが、インパクトがあったのだと思います。

神田:反応も違いますね。さすがに10万部も売れると、あまり会わない友だちから連絡が来るようになったり。全然自分の知らない人たちも買ってくれてるんだな、と感じます。

菊池:紙とネットは、どこかしら面白さが違うんですよ。まだ上手く言葉にできていないのですが、すごく面白い文章がネットにあっても、ウケないことって一杯ある。ちゃんと読むと面白いんだけど、スマホで読むとなぜかあまり面白くない、とか……。

でも、紙で読むと面白い文章って、あるんですよ。この本は、その面白さが上手く出せたんじゃないかと思います。

神田:しかし、まさか10万部を超えるとはなあ……。いろいろな偶然が積み重なって売れたとしか思えない。完全にサブカル本のジャンルですから。通好みの人がブログで書評を書いてくれて、一部で売れるような、そのくらいの広がりだろうなと思っていました。それが今や、帯に「尾崎世界観推薦」ですからね!

菊池:この帯を見て買ってくれたという人も多いですよね。

――『もしそば』がヒットして、これからも2人で活動する予定はありますか。

神田:はい、『もしそば』の第2弾のようなものも考えてはいます。ユニット名も考えなきゃなと。今回の本は文体模写でしたけど、僕らのアイディアをもらいたい、みたいな依頼が来たら一番嬉しいですね。

菊池:そうですね、本に限らず、2人で何か一緒にやりたいですよね。連載とかやってみたいです。さんざん企画は考えたので、ネタは一杯あるんですよ。ぜひ、これは記事にも書いておいてください(笑)。


文体とは何なのか。なぜ、同じ内容の文章であっても、人によってこれほどに異なるのか。『もしそば』は、笑えるだけではなく、文章を書くという行為の奥深さも示してくれている。

……とは書いたが、書籍の「はじめに」でも書かれている通り、軽い気持ちで読んで笑うのが、きっと正しい態度だ。難しいことなんて、何も考えなくてもいい。

そう、カップ焼きそばでも食べるときのように。

神田桂一さん、菊池良さんによる直筆POP

神田桂一さん、菊池良さんによる直筆POP

(取材・文:玉田光史郎)

■書籍情報

『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』

宝島社 刊
価格/1,058円(税込)

この本を購入する

<あらすじ>

もしも村上春樹がカップ焼きそばの容器にある「作り方」を書いたら――
ツイッターで発信され、ネット上で大拡散されたあのネタが、太宰治、三島由紀夫、夏目漱石といった文豪から、 星野源、小沢健二らミュージシャンまで、100パターンの文体にパワーアップして書籍化されました。 読めば爆笑必至の文体模倣100連発。
さらにイラストは、手塚治虫をはじめとした有名漫画家の模倣を得意とするマンガ家・田中圭一氏の描き下ろしです!

神田桂一(かんだ・けいいち)

フリーライター・編集者。一般企業勤務から、週刊誌『FLASH』の記者に。その後、ドワンゴ「ニコニコニュース」編集部などを経てフリー。雑誌は『ポパイ』『ケトル』『スペクテイター』『クイックジャパン』『TRANSIT』などカルチャー誌を中心に活動中。近刊は『お〜い、丼』(ちくま文庫)。

菊池良(きくち・りょう)

ライター・ウェブ編集者。学生時代に公開したウェブサイト「世界一即戦力な男」がヒットし、書籍化、ウェブドラマ化される。現在の主な仕事はウェブメディアの企画、執筆、編集など。

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アーティスト情報

村上春樹

生年月日1949年1月12日(69歳)
星座やぎ座
出生地京都府京都市

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