漫画『恋は雨上がりのように』眉月じゅんインタビュー。「漫画というものの楽しさを伝えられる作品になれば」 【アニメ・実写映画化記念】

『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん 著、小学館 刊)

『恋は雨上がりのように』(眉月じゅん 著、小学館 刊)
『恋雨』は、青春の交差点で立ち止まったままのあきらと、人生の折り返し地点にさしかかった店長が織りなす恋物語。「このマンガがすごい!」「マンガ大賞」「全国書店員が選んだおすすめコミック」など各賞にランクインした話題作だ。

17歳の女子高生が恋したのは、45歳の冴えないオジサンだった――。

恋は雨上がりのように』は、まさに雨上がりの瞬間のように透明感あふれる繊細な物語だ。走ることをやめてしまった元・陸上部エースの橘あきら(17歳)、夢を諦めてしまったあきらのバイト先の店長・近藤正己(45歳)。あきらから店長に対する恋はひたすらに純粋で、痛いほど胸を締め付けられ、ページをめくるたびにため息が漏れる。

2014年に「週刊ビッグコミックスピリッツ」で連載開始から話題を呼び、店長と同年代の男性はもちろん、あきらと同年代の女性まで、幅広く愛されてきた。2018年1月11日(木)からアニメ、5月25日から実写映画が公開(監督:『ジャッジ!』『世界から猫が消えたなら』『帝一の國永井聡、主演:大泉洋小松菜奈)と、2018年はさらに注目を浴びる年になる。

『恋雨』の今後、映像化が待ちきれないTSUTAYAの名物マンガ通書店員「仕掛け番長」こと栗俣力也氏が原作者の眉月じゅん先生に話を聞いた。

「恋の相手は、おじさんに“ならざるを得なかった” 」

TSUTAYA仕掛け番長 栗俣力也氏(以下、栗俣):正直、私含め、ここまで漫画好きなおじさんがハマる漫画は珍しいです! 『恋は雨上がりのように』の魅力は何と言っても美人でクールな女子高生と冴えないオッサン店長の28歳の年の差恋愛ですね。二人の世界を、二人の恋愛だけを描いていく安心感がありつつ、気持ちの揺れが出てきたりするのがたまらないんです。このテーマを描かれたきっかけは?

眉月じゅん先生(以下、眉月):きっかけというか、そうならざるを得なかったんです。私は、いわゆる、かっこよくて若いイケメンヒーローが描けなかったんですよ、全然。もともと少女漫画でデビューしたにもかかわらず。一方で、おじさんを描いてみたら、ものすごく楽だったんですね。

実は、本当は青年誌でデビューしたかったこともあってか、昔から女性誌に描くと青年漫画っぽいと言われ、青年誌に描くと少女漫画っぽいと言われることが多くて、作風をどうしたらよいのか迷っていたことがあったんです。でも、「今後それは眉月さんの武器になるよ」って言ってもらったことがあって。当時は半信半疑だったんですけど、いま『恋雨』は男女の読者層が半々で、結果的に良かったんだなと思えました。

『恋雨』は元になっている読み切りがあるのですが、それを連載時に描き直すにあたって、青年漫画っぽいか少女漫画っぽいかとか、そういうものを全部無視して「自分が描いてテンションが上がるものしか書かない!」と決めたんですよ。だから、80・90年代の「りぼん」みたいな少し懐かしい感じの少女漫画っぽさ、青年誌っぽい表現や描写、おじさん、学校、制服、女子高生……と、好きなものをとにかく詰め込んで、こういう形になりました。

1巻 1話 P14-15より

『恋雨』の元になっている読み切りは『羅生門』というタイトル。読み切りではあきらと店長は生徒と先生という関係で、「タブーを飛び越えるか、飛び越えないか」というテーマを芥川龍之介の名作とリンクさせていた。現『恋雨』にも登場する「羅生門」のエピソードは秀逸!(1巻 1話 P14-15より)

「あきらは成長していて、店長は確認しているんじゃないかな」

栗俣:僕のまわりの40・50代の男友達の多くが、店長の一挙一動に「気持わかるわー!」って反応していて、それはもう共感がすごい(笑)。たしかに、店長はリアルなおじさんの行動をとるんですね。あきらがケガをしたら、ただただオタオタする……とか。そういうところも含めて、自分自身と理想を店長に投影してしまう。

眉月:私にも、それこそあきらと店長と同じくらい年齢が離れている男性の友人がいるんですけど、やっぱり甘えやすいんです。実生活と周りの調査結果で、あのおじさん像が出来上がった、みたいな(笑)。店長のポジションは、若い男性キャラだとだいぶ違ってきますね。

あと、あきらに対して「こんな女子高生いればいいのに」と言われることが多いんですけど、私としては「店長みたいな男性がいればいいのに」っていう方が強いですね。店長の真面目さや誠実さは、もはやファンタジーが入っているレベル。

栗俣:今おっしゃった「甘える」という表現、作中でもとても好きな部分です。1巻で、怪我をしたあきらを店長がお見舞いに行った時、あきらが普通の友達同士では見せないような笑顔を見せるシーンがあって。甘えている感じが伝わってきて、僕は店長目線で読んでしまうので、もうキュンキュンしました!

で、そのあとに雨の中での告白。ホロリと「好きです」と想いがあふれてしまうという……あれはページがめくれなくなるやつですよ(笑)。

1巻 7話 P138-139より

1巻 7話 P138-139より

眉月:(笑)。私が描いていて「店長いいなあ」って思ったのは、店長が風邪をひいているときにあきらが押しかけてしまうシーン。あそこは、同年代と違って、相手が店長だからこそできたところがあると思うんですよね。無意識に「店長は私のことをきっと拒絶しないだろう」というのがあるんじゃないかな。

4巻 25話 P8-9より

4巻 25話 P8-9より

栗俣:時々出るあきらのワガママがすごくかわいいんですよね。店長が予定外にハムスターを飼うことになったときに「ハムスターのことは(他の人に聞かないで)私に聞いて!」って(笑)。

眉月:そう、ワガママ! あれは同世代には言わないと思うんですよね。完全な甘えだと思う。そして、風邪を引いているときに押しかけられても邪険にせずに「どんな言葉をかけられるのかな、今の俺には」って考えてくれるのが店長。

栗俣:あきらみたいな女子高生って、成長が早いというか、考えるペースがすごく早くて、考えもコロコロ変わる。それに対して店長は、今までの経験のなかから引き出して「こう対応すべき」と考えている。僕、すごくわかるんですよ。だから、店長には成長してほしくないというか、冴えない店長だからいい、というか……。

眉月:あきらは成長していて、店長は確認している感じかもしれないですね。

栗俣:ああ!

眉月:こんなこと俺にはあったな、とか。確認した上で、そこから新たな答えを出す。それが成長といえば成長かもしれないけど、どちらかというと確認に近い。

栗俣:だから店長目線の話がいいんですね。すごく悩んでいる感じが。

眉月:たまに「もっと店長もぐいぐい行けよ!」っていう感想を目にするんですけれど……。

栗俣:だって相手は17歳ですよ。

眉月:そうなんですよ。ズルい作りを自分でもしていると思うんです。特に1~3巻ぐらい。いわゆる“ザ・ラブコメ”的な雰囲気も入れつつ、一方で店長は、リアルな17歳に実際には手を出してほしくないっていう現実女性の願望も背負っているし……。ラブコメが見たいという意見と、「店長には絶対に振り向かないでほしい!」という意見、どちらもあります。

「私は『恋は雨上がりのように』は恋愛漫画として描いていないんです」

2巻 14話 P104より

店長はかつて小説家を目指していて、古書好き。時々飛び出す知識にもキュンとくる女子多数。(2巻 14話 P104より)

栗俣:もうラストは決まっているんですか?

眉月:一応、決まってはいます。最初から決めていました。でも、どういうルートをたどるかはわからないし、それこそアニメの渡辺歩監督と話したりするうちに、自分で描いておきながらも「ああ、店長ってそうだったんだ」というような発見がいっぱいあって。もしかしたら、結末は変えないと思うけど、ニュアンスは変わるかもしれないですね。でも、ニュアンスが変わるって結末が変わると同じくらいのことですけれどね。ユイちゃんと吉澤も、吉澤が自我を持ち始めて思わぬ方向に行きましたし……。

栗俣:なぜか、『恋雨』は結末というものが存在している感じがしないです。淡々と進んでいく日常を見ているという感覚で。

眉月:そうなんです。終わったとしても、その後に絶対に続いているはずですね。

あと実は、私は『恋雨』を恋愛漫画として描いていないんです。

栗俣:え!?

眉月:あくまで、あきらという17歳の女の子の生活を描こうと。17歳の生活って、部活・バイト・恋愛、なんですよ。あきらは、いま部活の方がフェードアウト気味で危うい感じ、バイト=恋愛になっている状況ですね。

栗俣:だから生々しいんだ。セリフが多すぎず、あいまいな表現や余白があることで、これがまた想像を掻き立てられるんですよね。あきらが足を怪我して店長と病院に行った時に、傷口を見せることに少し戸惑いを見せたあきらに対して病院の先生が「ごめん、キズを見られたくなかったよね」と言うんですが、あきらは「傷を隠したわけじゃなくて」と。

1巻 5話 P89より

1巻 5話 P89より

眉月:ここは、何も塗られていない爪を見られたくなかった、ということを描いたんですけど、男性にはわりと気付いてもらえなかったです(笑)。

「アニメはオリジナルの会話が盛りだくさん。実写映画はキャスティングがズルい(笑)」

栗俣:アニメ、実写映画、ついに始まりますね。

眉月:それぞれ個性をお持ちの監督なので、私からは出なかったであろう演出や肉付けがあって、原作とは違う『恋は雨上がりのように』を楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。特にアニメはオリジナルの会話なども盛りだくさんです。

栗俣:それは楽しみです。映画の方は、いま撮影中なんですよね。キャスティングがすごく豪華!

眉月:実写映画を手がけてくださる永井監督は、もともと『恋雨』をすごく愛してくださっていることに加えての、店長を演じるのが大泉洋さんですよ。原作ファンも気にならざるを得ないズルいキャスティング(笑)。

栗俣:僕ははじめ、店長は堤真一さんのイメージだったんですよ。

眉月:私も実は、連載当初のイメージは堤さんでした(笑)。『やまとなでしこ』の時の堤さんで描いていたんですけど、大泉洋さんで映画の話が来た時に「水曜どうでしょう」のファンなのもあって、大泉先生の店長を観てみたい!って思っちゃって大賛成(笑)。

栗俣:撮影現場には行かれました?

眉月:行きました! あきらを演じる小松菜奈ちゃんがめちゃくちゃかわいい! ああ、あきらだ! って。透明感もあって、演じる姿もとても魅力的。大泉さんと小松菜奈ちゃんの年齢差がいい感じに出ていて、映画が早く観たくなりました。

栗俣:あきらのイメージは誰かいたんですか?

眉月:10代のガッキー(新垣結衣)ですね。ガッキーが制服を着ている写真集とかを見ながら描いたりしていました。あとはキャラメイクは『告白』のころの橋本愛ちゃん。

栗俣:他のキャストの方はいかがでした?

眉月:女性陣がかわいいんですよ! ユイちゃんやはるかが、なにしろ顔がそっくりなんですよ。今回、小松菜奈ちゃんとはるか役の子が初共演らしいのですが、すごく仲良しになっていて。かつてのあきらとはるかを重ねて、ちょっとジーンとしちゃいました……。

「私が好きなものを集めて描くことで、楽しんでもらえる漫画になるのではと思った」

眉月じゅん先生による直筆POP。色紙はTSUTAYA三軒茶屋店に展示予定

眉月じゅん先生による直筆POP。色紙はTSUTAYA三軒茶屋店に展示予定

栗俣:はじめに先生が「少し懐かしい少女漫画の要素を詰め込んだ」とおっしゃっていましたが、すごくわかります。『恋雨』には時々古い感じのする表現が出てきますよね。そこもすごく素敵なんです。

眉月:私は基本的に“超王道”が好きなんですよ。特に私のベースになったのが、矢沢あい先生の『天使なんかじゃない』と武内直子先生の雨女の短編集『ミス・レイン』。連載前に引っ張り出して読んでみたら、「やっぱりいいよな」って。

『天使なんかじゃない』は、矢沢先生がすごく楽しんで描いているのが手に取るように分かるんですよ。読者を楽しませようというサービス精神もすごくて、「この魂を私も!」みたいな。『ミス・レイン』は、セーラームーン世代ど真ん中の小学生の時に買ったんですが、キラキラした誌面や雨の感じ、水色の色味などがいつまでも鮮やかに印象に残っていて。

それで、私が好きなものを集めて描けば、きっとそれは王道に引っかかる、多くの人に私と同じく、懐かしくて楽しい気持ちになってもらえる、という願いと、自信と確信を持てたんです。

ほかにも、くらもちふさこ先生の『天然コケッコー』や三浦建太郎先生の『ベルセルク』、アニメもエヴァにウテナ……80・90年代には楽しい漫画やアニメがたくさんあって、それらが大好きでした。

『恋は雨上がりのように』を通じて、漫画ってこんなにも楽しいんだ、ということを改めて伝えたかったというところはありますね。

『恋は雨上がりのように』試し読みはこちらから

■アニメの放送情報

2018年1月11日(木)フジテレビ
“ノイタミナ”にて毎週木曜24:55から放送開始
※ほか各局でも放送

公式サイト

■映画の公開情報

映画『恋は雨上がりのように』
2018年5月25日(金)東宝系にて公開

原作:眉月じゅん『恋は雨上がりのように』(小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」連載)
監督:永井聡(『世界から猫が消えたなら』、『帝一の國』)
脚本:坂口理子(『メアリと魔女の花』)
出演:小松菜奈、大泉洋ほか
配給:東宝

<あらすじ>
高校2年生の【橘あきら】(17)は、アキレス腱のケガで陸上の夢を絶たれてしまう。偶然入ったファミレスで放心しているところに、優しく声をかけてくれたのは 店長の【近藤正己】(45)だった。 それをきっかけに【あきら】は、ファミレスでのバイトを始める。 バツイチ子持ちでずっと年上の【近藤】に密かな恋心を抱いて…。【あきら】の一見クールな佇まいと17歳という若さに、好意をもたれているとは思いもしない【近藤】。しかし【近藤】への想いを抑えきれなくなった【あきら】はついに【近藤】に告白する。【近藤】は、そんな真っ直ぐな想いを、そのまま受け止めることもできず――真っ直ぐすぎる17歳とバツイチ子持ちで冴えない45歳。年齢差28歳の2人の関係はやがて、それぞれが自分自身を見つめ直すきっかけとなって――

眉月じゅん(まゆづき・じゅん)

毎週月曜発売の『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)にて『恋は雨上がりのように』隔週連載中。単行本 1~9集発売中。2018年1月11日(木)からアニメ、5月25日(金)から実写映画が公開を控えている。2月には初のイラスト集が発売になる。

仕掛け番長

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TSUTAYA三軒茶屋店で働く本屋さん。文庫プロデュースやコミックライブの企画、司会などいい作品をあらゆる方法でとことんオススメする事が生きがいです!
・100万人が選ぶWEBマンガ実行委員会委員長
・著書『マンガ担当書店員が全力で薦める本当にすごいマンガはこれだ!』

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