「わけがわからないまま感動する。意味じゃない映画を撮りたい」―『愛のむきだし 最長版 THE TV-SHOW』園子温監督インタビュー

園子温監督

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園子温監督の代表作が、想定外の形式でよみがえる。タイトルは『愛のむきだし 最長版 THE TV-SHOW』。2007年に撮影が開始され、2009年に公開された『愛のむきだし』は上映時間237分という怒涛の大作。だが、無類の痛快さで疾走するその映像世界は4時間を休憩なしで見せきる破格のダイナミズムに満ちていた。だが、最初のヴァージョンは6時間だったという。この『最長版 THE TV-SHOW』はそれを、各話30分、全10話で再構成、つまり約5時間にボリュームアップしたものだ。今年2月にJ:COMオンデマンドで独占配信後、このたびDVD/Blu-rayとしてソフト化された。

劇場版がハードカバー上下巻を一気読みする満足感だったとすれば、このTV版は30巻ほどある大河コミックを一気読みする贅沢さに満ちている。連続ドラマならではの活劇性が、『愛のむきだし』ワールドをより軽快に、よりダイレクトに伝えるものにしているのだ。

園監督はこの試みについて次のように語る。

「今回は、僕の映画のほとんどを編集してくれている伊藤(潤一)君にすべてお任せしたんです。自分が出て行くと、シャープにしたり、縮めていくことになってしまうから。最初(出来上がったものを)観たとき、感想を求められて、『ここ、切ってくれ』って言っちゃったんですよね。で、これは(自分が)いかんなあと。で、何も言わないことにした。どうしても僕、テンポ重視の人間なんで。カットを延ばして、というより、カットを切って、と言うほう。編集者からすると、珍しい監督みたいですね。「延ばしてくれ」と言う監督のほうが多いから。僕が口を出したら、また元に戻っていくから。まったく意味なくなるなと。伊藤君なら、すべてお任せしても問題ないなと。さいとう・たかおプロみたいな(笑)。伊藤君がやるということは、僕がやったと同じだと思っている」

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

ゴルゴ13』で知られる漫画家、さいとう・たかをはかなり早い段階で「さいとう・プロダクション」を設立。漫画家では珍しい分業体制を確立した。さいとうには「アシスタント」という概念はなく、さいとう・プロのメンバーはみんな「共同制作者」である。園子温にとっての編集者・伊藤潤一もまさにそのような存在なのだろう。

「映画版が完成した当初から、これ、深夜でもいいからテレビのドラマで全尺できないかなと(スタッフと)言ってたんです。伊藤君は、ファーストカット(最初の編集版)の6時間版に今回忠実にやってくれたと思います」

この作品は最初からドラマだったのでないかと思えるほど、しっくりきている。

「枝葉がいっぱい生えているので、TVドラマ的かもしれない。本筋のストーリー以外のところをいっぱい撮ってるから。普通だったらいらないと思われる枝葉がいっぱいある。たとえば1時間半とかの映画には似合わない枝葉、サイドストーリー。そういう意味ではとてもドラマ的ですよね」

わたしたちはその枝葉を追いかける。だが、映画のテンポは途切れないので、横道に入って道草をしている印象は皆無。新しい「物語り方」がここにはある。

「あの当時、僕は(これからの映画体験は)すぐにホームシアター中心になると思っていた。映画館はなくなると。そうしたら(映画は)本と同じになるから。たとえばドストエフスキを一晩で読むバカはいない。上中下の本(のどこか)に栞を差し込んで、翌日また読む。そういうふうに(映画を)ホームシアターで楽しむようになるんじゃないかと。そうなると長い尺でも関係なくなって、『今日はここでやめておこう』と明日につなぐ。なら4時間の映画もオッケーになるんじゃないかと。(映画が)本のようになる時代が来ると。まあ、来なかったけど(笑)。でも、いま、やっと来てますよね。Netflixとか配信型のものが。次の公開作があるから、早く終わってください、という映画館的な発想をしなくてもいいんじゃないかな。それを逆に楽しめる時代が来たんじゃないかな」

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

観客が自分のペースで観れる時代の到来。興行システムの大きな転換点にわたしたちはいる。

「一気に観ても、ゆっくり観ても、どちらでもかまわない。そもそも、そういうスタンスの映画だったんです」

考えてみれば、映画は「一気見」を強要するメディアだ。だが、その呪縛から解き放たれるときが到来したのだ。

「いま、TVドラマが当時よりも発達して、ある意味、映画よりも面白いという時代に近づいている」

一言ではとても要約できないストーリー。だが、そのボリューム感こそが園監督の真骨頂であり、本作が唯一無二のオリジナリティを放っている所以だ。

「当時、僕は売れない映画監督だったので、はやくガツンと次のステージにいきたいなと。1年に何本も撮れる監督ではなく、1年に1本撮れればいい監督だった。1つの中に、ものすごい容量ぶち込んで、『勝負!』しないといけなかった。それが4時間という長さにもつながったんじゃないかな。次がいつ撮れるかわからないくらいだったので、全部を入れちゃう、ということだったと思います。でもまた、ああいう長ーいの、やりたいですよ。ジャンルが全部入ってるの、やりたいですね。『愛のむきだし』は全部入ってる。青春キラキラ、青春ギラギラ、青春ドロドロ、ぐちょぐちょまでいくような。全ジャンルと言いながら、いま『青春』しか言ってないけど(笑)。そういう映画をもう一回だけやってみたいなと」

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

思いっきりザックリ表現すれば、青春とラブストーリーとで、パンチラ盗撮と新興宗教の闇を、サンドイッチした映画。未見の方にはなんのこっちゃかさっぱりわからないかもしれない。だが、ごった煮のようでいて、一本綺麗な線が走っている。純粋で、潔い。その稲妻のような清冽さに打たれる傑作である。

低予算だからこその自由があった、と監督は振り返る。

「書いてる過程とかほぼ忘れてしまって、あんまり憶えていない。でも全部書き終わったとき、満島ひかりのためのシーンがないなと思って。それで海辺での聖書のシーンを作った。(聖書を手に取り)ガラッと開いて、どれを喋らせようかなと。あれは適当に開いて選んだ言葉。別に、あそこじゃなきゃダメ、ってことはなくて。とにかく満島ひかりの『ここぞ!』というシーンを作りたいなと思って。それで書き足した」

そのシーンは、この作品の中で最もエモーショナルなものである。満島ひかりが「コリントの信徒への手紙 第13章」からの引用を延々と語る長回しのワンカットは、映画史に残ると形容するひとも多い。

聖書ならではの、磨き抜かれたフレーズの数々。だが、いま『最長版』を目の当たりにして気づかされるのは、わたしたちは必ずしも文言の内容に感動しているわけではない、ということだ。

「言葉の意味ではなく、よくわけわかんないけど感動する。そういう映画が好きなんですよ。(マーティン・スコセッシ監督の)『グッドフェローズ』で(エリック・クラプトンの名曲)「いとしのレイラ」が流れる後半のくだりは、ただ人が死んでいくだけなのに感動できるのはなぜなんだろうと。ああいう不思議な感覚が好きなんです。自分でもそういうのが撮りたいなとずっと思ってた。エモーションって、不可解な感動だと思う」

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

(C)「愛のむきだし」フィルムパートナーズ

園は詩人として出発している。だからこそ、言葉を乗り越える表現を掴まえているのかもしれない。

「詩って実は言葉の意味みたいなことはまったくなくて。音楽に近いんです。聖書を読んでいくところも、言葉の意味よりももっと違う世界なんですよね。詩に近いと思うんだけど。詩も本当に面白い詩は意味じゃなくて、なんだかわかんないところで感動する。それがベスト。ずっと詩をやってたせいで、台詞なんかもそうやって考えるところが多いですよ」

何かしでかさないと上に行けない、と思いながら制作していたという。「しでかした」10年前の息吹きは、いまも理屈を超えた生々しさを放っている。

(取材・文:相田冬二)


TVドラマ『愛のむきだし 最長版 THE TV-SHOW』
2017年8月23日(水) TSUTAYA先行レンタル開始
2017年9月27日(水) Blu-ray発売開始

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