しかしそれはこの作品『異常者の愛』で書かれていたのがあくまで女性の目線での異常な愛だったからだ、と『異常者の愛』の著者である千田大輔先生の新作『ヒロインは絶望しました。』を読んで気づく事になった。
自分には「女性の目線」というのはあくまで想像でしか再現出来ず、言うならばフィクションの中での物語なのだ。ゆえに三堂三姫の物語はあくまで物語として読んでいた。
しかし『ヒロインは絶望しました。』で描かれるのは男性からの異常な恋心ゆえの行動。
異常な執着からの行動が同性の男性からの目線になった本作に感じたのはまず、嫌悪感。
そして異常者の愛以上のリアルな恐怖だった。
この物語の中心にはあるカードゲームが存在する。
カードゲーム「ドレスタ」は、ゲームセンターによく設置されているようなコスチュームのカードをキャラに装備させて変身させ、敵を倒していく子供向けのゲームだ。
ゲームのキャラクターとして突然このドレスタの世界に入り、戦わなければならなくなった少女がこの作品の主人公でありヒロインの渋谷さん。
彼女は何もわからずゲーム「ドレスタ」の世界に飛ばされモンスターに殺される日々を過ごしていた。殺されると元の現実に戻される。
もちろん痛みもそのまま感じるし殺されるまでの記憶もある。それが突然度々起きる。
砕ける骨の痛み。身体に入ってくる牙の感触。死が迫ってくる恐怖…。
そんな日常を繰り返していくうちに活発で優しかった彼女はどんどんと病んでいった。
そんななか、ついには「現実の世界でも死ねばこの苦痛から逃げられるのでは」と自殺を考える彼女の前に現れたのは、ドレスタのトップランカーである秋葉君だった。
渋谷さんが飛ばされていたドレスタの世界では、コスチュームに身を包み「プレイヤーにコントロール」してもらう事でモンスターを倒すことが出来る。
ゲームのトップランカーである秋葉君の機転で色々あった末、秋葉君がプレイヤーとなり渋谷さんをコントロールする事でモンスターを倒し死ぬことなくゲームの世界から生還することが出来た。
ようやく戻れた日常。
しかしそこに待っていたのは、終わる事のない「プレイヤーとして秋葉君にコントロールしてもらえないと、戦って生還する事の出来ないドリスタの世界への転送」と、「秋葉君の異常な愛情からの支配」だった。
秋葉君がどんな思いで渋谷さんへの行動をしているかは読者目線でだけ分かるシーンもあり、そこに描かれた感情とそこからの行動には思わず寒気すらしてしまった。
ゲームというものに対して、何も考えずプレイヤーである私たちはキャラクターをコントロールし戦わせるなど支配下に置き遊んでいる。その当たり前が現実となった場合の想像などしたことが無かった。それをこの漫画はありありと見せつけてくる。
ゲームの世界に入る漫画や小説は数多く存在するがその中でこの「ヒロインは絶望しました。」は唯一無二の異質な作品と言えるだろう。
この最悪とすら思える状況の中でもまっすぐに生きようと足掻くヒロインの行動や、徐々に増えていく仲間たちに癒されつつ止まらない、加速していく残酷なゲームと秋葉君の愛情、この漫画行きつく先が渋谷さんにとって幸せな未来であって欲しいと心から願っている。
(文:仕掛け番長)
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【コンシェルジュ】仕掛け番長
栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』
Twitter(@maron_rikiya)