11歳の少年とタバコの匂いのする女性の初恋の記憶の中の物語『あさこ』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│30代の主人公が思い出すノスタルジック溢れる初恋の物語

人間にとって「自分自身の過去の記憶」というのは、何というかその曖昧さも加わり、不思議な魅力のあるミステリーになったりする。
一部分だけ覚えている記憶の断片から当時の自分自身の物語を思い出し、そのピースをはめていく懐かしさと、問題を解いていくような楽しさが重なる瞬間は何とも言えない感情になる。

今回紹介する漫画は、少年時代の記憶に残るたばこの匂いのする女性と少年時代の主人公の物語。

「あさこ」

作品の舞台は、ジャンプで『ダイの大冒険』や『すごいよ!! マサルさん』が連載されていたり、小室ファミリー全盛期の30代の主人公が小学生だったころの時代。
まだスマートフォンなどもなく、都会の大人との接点なんてほとんどなかった田舎の民宿の子供である主人公と、その民宿に東京から泊まりに来たお客さん、たばこを吸う姿が印象的な女性「あさねぇ」との初恋の物語がこのあさこなのだ。

この物語は大人になってあさねぇの事を思い出す30代の主人公と、あさねぇと毎日を過ごす少年時代11歳の主人公2つの目線で語られるのだが、少年パートは子供の目線から子供には理解できない、あさねぇという大人の女性へのあこがれと好奇心が多く感じられる。
その想いから強くカッコイイ、どこか陰のあるあさねぇの人間像はとても美しく神秘的に描かれている。そして大人パートでは唐突にあさねぇの現在を淡々と伝えてくる。
この2つの情報が重なり合い、絡み合い「あさこ」という一人の女性を浮き彫りにしていく。
謎多き美女あさこと11歳の少年の、どこか懐かしさあふれるノスタルジックな物語から目が離せなくなり、まさにそれはページをめくる手を止められなくなるほどだ。

著者のよしだもろへ先生はこの作品以前に『いなり、こんこん、恋いろは。』というアニメ化もされたヒット作を描かれていたのだがなかなか同じ先生の作品だと気が付かなかったほど『あさこ』は作品のカラーが異なる。
『いなり、こんこん、恋いろは。』も非常に面白く、大好きな作品なのだがこの『あさこ』を読んでよしだもろへ先生の世界をもっと色々読んでみたいと心から思った。

まだこの文章を書いている段階ではあさこの2巻を読めていないのだが掲載される頃には発売されているだろう。
この作品がどんな物語へと進んでいくのか、このレビューを書きつつも2巻が楽しみで仕方がない。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

あさこ

1巻発売中

著者:よしだもろへ
出版:秋田書店

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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