『不可解なぼくのすべてを』そのタイトルに全てが詰まっている【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│ジェンダーの悩みに向き合い本気で描かれた心を響かせる『不可解なぼくのすべてを』

本当の意味での自分自身はその本人にしか理解できないものだと思う。家族や友達でもそれをしっかりと知ることは出来ない。

先日ふとある書店で目につき購入した作品がある。
2巻の涙をためた少女のイラストが非常に気になり、そして『不可解なぼくのすべてを』といういろいろ深い内容を想像させるタイトル。
全ての巻にそれぞれ違う少女が描かれており、思い思いの表情をしているのも気になり、そのまま手に持ちレジへ。即購入して読んでみたのだが…。

結果、この作品は何度も目に涙をためてしまうほど感情を動かされ、非情に心に残る大切な作品となってしまった。
今回はこの『不可解なぼくのすべてを』を紹介したい。

『不可解なぼくのすべてを』はジェンダー問題について描かれた作品であった。

この物語の中心人物である「もぐも」は女の子の制服を着て学校に通う高校生。
もぐもが短冊に書いた願いをみたもう一人のこの物語の中心人物である哲は、もぐもを自分の兄が運営する「男の娘カフェ」のアルバイトに誘うというところから物語がはじまり、そのカフェを中心としてもぐもと哲、そしてその他の登場人物たちの日常が描かれていく。

この漫画のポイントは、ジェンダーの悩みを抱える登場人物一人一人にしっかりと向き合って描かれているところだろう。
同性同士の恋愛を描いた作品が多くなってきた昨今にあっても、こんなにもそれぞれの登場人物の心の中にある葛藤や苦悩についてしっかりと描かれた作品は少ないように思う(また、時間が経ち物語の進行とともに登場人物を読者が理解していくと同じ流れで、その人物の絵柄を少しづつ変えている気がする。これが個人的には非常に効果的に心に響いた)。

最初に書いた通り、深いところにある悩みは自分自身にしかわからないし、他の者には理解できないものだろう。
この物語の中でも同じ状況下で周りから見たら同じに見える悩みが、実はそれぞれ深いところでは異なっている事が描かれる。
そして、その悩みとどう向き合っていくのか、それぞれのその答えの結末はたぶん私たち読者一人一人にも通じる部分があると思う。

ちなみにこんなに悩みの部分のみクローズアップして描いてしまうと、難しい漫画だと思われてしまうかもしれない。
しかし、もぐもと哲の恋について描かれている部分はとてもドキドキさせられるし、カフェの仲間同士でのシーンなどもかなりホッコリする。

人間ドラマとしてしっかりと考えさせる物語でありつつ、漫画としての楽しさながバランスよく描かれた非常にオススメの作品だ。
もちろん取り扱っている内容から人を選ぶ作品だとは思う。しかしそれでもこの作品を私は多くの方に手に取って欲しいしぜひ読んでみて欲しいと思う。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

不可解なぼくのすべてを

4巻まで発売中

著者:粉山カタ
出版社:ジーオーティー

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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