ぐちゃぐちゃな感情と嫌悪に潜む愛おしさ。『呪いと性春 文野紋短編集』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│漫画界を変えてしまうほどの力を持った1冊かもしれない、と思わされる才能溢れるデビュー作

初恋は呪いという言葉をよく漫画や小説で目にする。
初恋に限らず恋というものはどうしようもなく、まるで呪いのように人を壊してしまう程には呪いじみている。

文野紋先生の作品を初めて読んだ時に私が感じたのは、今の漫画作品の中での異質感。
漫画の王道の時間をひとつ進めてしまい、今までの王道を過去のものにしてしまったのが『鬼滅の刃』であり吾峠呼世晴先生ならば、文野紋先生は王道ではない人の裏側のいわゆるディープな漫画の時間を進めてしまう漫画家なのではないかと思った。
それほどまでには衝撃を受けるには充分な作品だったのだ。

そしてついにそんな文野紋先生の初単行本として『呪いと性春 文野紋短編集』が発売となった。
結論から言おう。私が読みたかった文野紋がこれでもかと詰まった死ぬほど愛したくなる1冊だった。

私を神様にしてくれるストーカー男子に執着する。『呪いと性春』
劣悪な家庭環境で暮らす2人の少女の絶望百合物語。『僕ら地獄の逃避行』
安心を求めてパパを飼い、歪な家族を作り上げる。『毒は廻る』
満たされない愛情を嘆く、共依存賛歌。『神様の心臓』など…

苦しくて気持ち悪くて恥ずかしくてぐちゃぐちゃで、ぐちゃぐちゃで、ぐちゃぐちゃで、ぐちゃぐちゃで、ぐちゃぐちゃ意外の言葉で表す事が出来ない様などうしようもない環境と感情と瞬間。

気持ちの緩急の付け方がわからなくなるほどの気持ちをぶつけて来る様なこの1冊。
私は出来るだけ多くの方にこの作品を読んで欲しいと心から願ってしまうほどに惚れ込んでしまった。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

呪いと性春 文野紋短編集

発売中

著者:文野紋
出版社:小学館

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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