ヒトとは何かを問う。『AIの遺電子 Blue Age』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│ただストーリーをなぞるだけの漫画では味わえない読後感。結末は描くがそこに対しての「答え」は描かれない。
読む人にそれぞれの立場から感情の答えを出させる究極のヒューマンドラマ

人工知能が発達しヒューマノイドが人間と同じように生活をしている、そんな未来でヒューマノイドの病を治療する医者を描いた物語『AIの遺伝子』。

今回紹介する『AIの遺電子 Blue Age』は、そんな『AIの遺電子』シリーズ3作目にあたります。3作目ではありますが時系列としては一番目の作品、今までの前日譚となり『AIの遺電子』で医者として働いていた主人公・須堂光の研修医時代を描いた作品です。

このシリーズの第1弾である『AIの遺電子』の最初のシーンはとあるラーメン屋から始まります。

ラーメン屋の店主はAIの脳を持つヒトに準じる存在。ヒューマノイドです。
そんな店主に須堂先生は「おいくつですか?」と質問します。
「今年で50だよ」と店主は答え「なるほどね」「あのころのボディは性能がいいからね」と須堂先生はラーメンをたいらげ満足そうに伝えるのです。
これは、素直に「美味しかった」と言わず遠まわしに味をほめる須堂先生の性格を表すとともに、日本の人口の10分の1がヒューマノイドという時代の普通を描いています。
人間とは見た目ではまったく区別ができず、人間と共にヒューマノイドが生活をしている時代。その時代をヒユーマノイド医療が専門の医者、須堂先生の目線から1話完結の形で描かれていくのが『AIの遺電子』でした。

そんな須堂先生の研修医時代を描いた『AIの遺電子 Blue Age』。

この作品はそんな時代を舞台としながら、感情や心、どうしようもない悩み、もっと言ってしまえばヒトがヒトであるの本質とは何か? という事に真正面から読者に投げかけてくるのです。

例えばコミックス2話で、ネット上の仮想世界ゲームにのめり込み、ウィルスに侵されクラスの友達を刺してしまったヒューマノイドの少年の話。
ウイルスが原因であった事件にも関わらず「感染経験者」という烙印はいつまでも消えずいじめにあうなど、彼の生活はそれから大きく変わってしまい、誰も信用できない、いっそのことまた刺してやろうかと思ってしまうと須堂に話すのです。

そんな彼に須堂は「病院は好きか?」と問います。
元気な人は大抵病院が嫌いだけど、病人の中には病院が心安らぐという人がいる。
外の世界は健康な人であふれていて、みんなが自分とは違う世界の人たちに見えるけど、病院はそうじゃないからと。
君に必要なのは同じ苦しみを知る仲間なんじゃないか? と。
須堂が彼に紹介したのは、そんな感染経験者が自分たちのような被害者を出さないために働く場所、そして同じ経験を持つヒトたちでした。

この話は読み手よってメッセージが大きく変わる物語だと思います。
感想は違えど、読んだ読者全ての人に他者との接し方を考え直す機会を与えてくれるのです。

これはこの1話に限った事ではなく、問題定義は違えど毎話何かしら自分の生き方について考えさせられるきっかけをこのAIの遺電子は与えてくれるのです。
想えば手塚治虫作品など昔の名作漫画にはそんな作品が多かった気がしますが、今こんな読後を得る作品はほとんど描かれていないのではないでしょうか?

また、今までの作品と違い、若い須堂先生の行動や感情はどこか自分自身と重なりやすく、今まで以上に想いを描ける作品となっている事もポイントです。

毎日の生活が忙しく、また色々な情報量が多くなり自分自身の中で生き方の答えを探すような事が少なくなった今こそ、この作品をオススメしたいと思います。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

AIの遺電子 Blue Age

1巻発売中

著者:山田胡瓜
出版社:秋田書店

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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