たまにはのんびり暖かなごはんを『しあわせのひなた食堂』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│幸せになりたいときに読んで欲しい優しさ溢れる漫画

私は最近、体調を崩し2週間ほど入院をしていた。
ある一程度体調が回復してからの病院で過ごす時間はとても長く感じ、毎日の変化があまりない環境の中で毎日3回のごはんの時間がとても楽しみだった。
最近は全然行けていないが、地方に行くときもその地方ならではのご当地グルメを食べたり、駅弁を楽しみにしたり。
私以外にも、きっとごはんを食べる時間を幸せな記憶として覚えている人は多いんじゃないかと思う。

魚乃目三太先生という漫画家がいる。
『戦争めし』『車窓のグルメ』『しあわせゴハン』などなど多くの人気食漫画を描かれているのだが、彼の描く漫画はそんな幸せなごはんの記憶を切り取ったような、なんだか読んでいて想いが溢れてくるような作品が多い。
その中でも女性セブンで連載されていた『しあわせのひなた食堂』を今回はご紹介したい。

『しあわせのひなた食堂』の物語の舞台となるのは、東京下町の曳船にある小さな食堂「ひなた食堂」。
メニューは日替わりの定食のみという少し変わったお店で、このお店の日替わり定食は5歳の長男と1歳の赤ちゃんの面倒を見ながらお店に立つ照子さんが毎日作る「どこにでもあったはずの家庭料理」。
しょうが焼き、肉じゃが、お味噌汁、カレーライス、たけのこごはん、お好み焼きなど…。
ひなた食堂に来るお客さんは、そんな日替わり定食を食べてお腹と心を満たされてみんなほんの少しだけ心を救われる。

あるとき、小さな娘を連れたお母さんがひなた食堂に来店したのだが「お母さん! このおみそ汁おいしいね」と娘が喜び、お味噌汁を食べているのをそのお母さんは何故かとても気にかけていた。
後日そのお母さんが一人で来店し、思いつめたように料理を作る照子さんに「みそ汁の作り方を教えていただけませんか!」と。
事情を聞くと、彼女は自分の両親が共働きで母の手料理というのをほとんど食べたことが無く、お袋の味というものが自分には作れていないことを悩んでいた。
娘がおいしいといっていた、ひなた食堂のおみそ汁の作り方を教わりたいと。
その申し出に照子さんは快く承諾。
煮干の出しのとり方から丁寧に、そして最後に子供が食べやすくなるようにレンコンを擦って入れる隠し味。これがひなた食堂の味の秘訣でした。

その翌日、早速おうちで娘にひなた食堂でならったおみそ汁を作るお母さん。
しかし、そのおみそ汁を食べた娘の反応は思っていたものとは間逆だった。
娘は「いつものおみそ汁がいいの!」と味が違うことに怒り出してしまったのだ。

実は、小さいころに甘いものが大好きだった娘のために、お母さんはおみそ汁にみりんを少し入れるようにしており、これが娘にとってはおうちのみそ汁、つまり「お袋の味」になっていたことにお母さんは自分では気づいていなかったのだ。

家庭料理は、食べる家族が喜んでくれるように考えて作った料理。
子供の事を誰よりもよく知っている、そんな母親だからこそ出来る子供のための最高の料理は、どんな美味しい料理にも代えがたい「お袋の味」なんだとこのエピソードは思い出させてくれる。

『しあわせのひなた食堂』は、何となく忘れてしまったごはんの記憶を懐かしさと暖かさと共に思い出させてくれる。

あなたの一番のごはんの想い出はどんな瞬間だったのか。
この1冊を読んでゆっくり思い出してみるのもいいかもしれませんよ。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

しあわせのひなた食堂

発売中

著者:魚乃目三太
出版社:小学館

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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