絵は自己表現の到達点の一つだ『ブルーピリオド』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│登場人物の内面をこれでもかというほどリアルに描いている。それゆえに時には痛いほどの共感を読者に与える。

『ブルーピリオド』を静かな、一部の人だけが楽しめる作品だと思っている人は少なくない。
それは“美術”を題材にした作品という部分だけがクローズアップされてしまうことで、読む前から勝手なイメージが付いてしまったからではないだろうか?

結論から言えば、「絵を描く事」を中心に登場人物たちの喜びや戸惑いを包み隠さず描き、これでもかと伝えてくる本作はむしろ今存在する作品の中でもトップクラスで熱い漫画だと言える。そのため一部の人しか楽しめないという印象は間違いだと断言できる。
強く拳を握りしめ、涙を流さずにはいられない展開も多く、通常の漫画の何倍ものメッセージを伝えてくる本作。多くの漫画読みにとって心を打たれるものだろう。

いわゆる「勝ち組」「カースト上位」というような主人公の青年がとある事をきっかけに、それまで全く興味のなかった絵に興味を持ち、葛藤の末その世界に足を踏み入れる。そんな展開からこの物語は始まる。

「おしゃべりが上手い人ほど本当に自分が伝えたいことを伝えるのが下手」
人に合わせるのが上手く、言って欲しいことを言ってくれる。そんな人は人気者だし、誰もが惹かれてしまう。聞き上手は好かれるなんてうまい言葉だと思う。

では、そんな聞き上手な人間の気持ちはどうなるのだろうか?
そして、そんな人間はいつしか自分の想いの伝え方がわからなくなってしまうのではないだろうか? 絵は言葉なんかじゃ伝えることが出来ない、その絵を描いた人の本当に伝えたい想いを伝えることができる。

それに気づいたとき、そんな人間はきっといてもたってもいられなくなるだろう。
「渋谷の朝は綺麗な青」青年はそんな想いを何気なく描いた一枚から伝えることができる喜びを感じ、絵という終わりのない世界に浸かっていく…。

『ブルーピリオド』は登場人物の内面をこれでもかというほどリアルに描いている。
それゆえに時には痛いほどの共感を読者に与える。

もちろん『ブルーピリオド』はフィクションだろう。
しかしそこに描かれる登場人物の心に嘘はないのではないだろうか?

『ブルーピリオド』はその人気から名前は聞いたことがあるという方は多いが、意外に読み始めのタイミングを探っている方も多い気がする。その1歩をぜひこの機会に踏み出して欲しいと思う。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

ブルーピリオド

10巻まで発売中

著者:山口つばさ
出版社:講談社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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