12年の時を経て堂々の完結、そして新たに番外編の連載も始まる『ウィッチクラフトワークス』/水薙竜先生インタビュー【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】
TVアニメも放送された大人気コミック『ウィッチクラフトワークス』が『月刊good!アフタヌーン』2022年3号にて、ついに完結を迎えました。
個性豊かな登場人物達、大迫力の魔法バトル、そして物語の中心となる多華宮仄、火々里綾火2人の過去の秘密などで多くの漫画好きを魅了してきた本作。
今回は完結記念といたしましてそんな『ウィッチクラフトワークス』の著者である水薙竜先生にインタビューをさせていただきます!
【プロフィール】水薙竜
2004年春の四季賞、『ウィッチクラフトワークス』で佳作受賞。 当時、ペンネームは「黒山羊るーれい」。 2006年「週刊少年マガジン」で『キルウィザード』短期集中連載。 当時のペンネームは「水薙竜唳」。 2010年「good!アフタヌーン」で『ウィッチクラフトワークス』連載開始。 ペンネームを「水薙竜」に変更。 2022年「ウィッチクラフトワークス」完結。
│漫画を最後まで描けるというのは、やはり幸せな事
栗俣(インタビュアー):『ウィッチクラフトワークス』完結おめでとうございます! 2010年3月から12年間という長期連載だったわけですが、完結を迎えた今の率直なご感想いかがでしょうか?
水薙竜先生:連載開始から完結まで10年以上たっていて驚きました。達成感というか、終わりまで描けて良かったなと思っています。漫画を最後まで描けるというのは、やはり幸せな事ですね。
栗俣:『ウィッチクラフトワークス』連載第1話、いわゆるラブコメのお決まりのシーンのような導入から数ページ後、ヒロイン「火々里綾火」の登場でこの作品が一気に特別なものになり、当時雑誌でリアルタイムで読んでいた私もすぐ心を奪われたのを覚えています。あれから12年、まずは作品のストーリーに沿って水薙先生に当時の想いを語っていただきたいと思います。
『ウィッチクラフトワークス』の1話。火々里さんの登場シーンは、当時初めて読んだときの事を今でもはっきり思い出せるほどの衝撃でした。当時の流行りのヒロインは「可愛い系で表情豊かで小さめ」という感じでしたので、「高身長で美形、さらに淡白なヒロイン」というのはとても印象的だったのを覚えています。そして主人公である多華宮君の登場シーンは今読み返すと伏線の宝庫で発見が多く、1P目で後ろにぴったり霞ちゃんらしき人物がいたり、なにげなく話している内容がその後の展開につながっていたり…。そんな物語の中心となる二人の印象的な登場シーンや校舎が振ってきて(!?)の魔法バトル、そして後に愛され人気キャラとなるたんぽぽの初登場と、1話からすでに盛り沢山な内容だったわけですが、そんな第1話を描かれた当時の思い出をお伺いしてもよろしいでしょうか?
水薙竜先生:連載第1話なので、読者さんに楽しんでもらえるように「火々里さんをいかに魅力的に見せるか」を考えて描いていました。今でもそれは変わらないんですが(笑)。久々のカラーページだったので、あの時は結構悩みながら描きました。
©水薙竜/講談社
栗俣:日常の楽しい日々の中で物語の最初の盛り上がりはメデューサとの闘い、そして白姫エヴァーミリオンの登場でした。その後も大きく物語に関わるこの二人の登場、そして少しづつ見えてくる多華宮君、火々里さんの過去。個人的にはやはり白姫の登場は衝撃的でした!
水薙竜先生:メデューサもエヴァーミリオンも、「派手に登場させてやろう!」と思って描いてました。あの時は、火々里さんのバトルシーンに力を入れていたので、火々里さんと対峙しても強そうに見えるキャラを目指していました。メデューサは敵っぽくない敵、エヴァーミリオンは味方っぽくない味方というイメージです。
©水薙竜/講談社
栗俣:そしていよいよ「ウィークエンド編」へと物語は進んでいきます。大迫力のバトルの数々、そして多華宮君にとっても大きな試練を迎えるわけなのですが、個人的には色々な登場人物たちの内面が深堀されたエピソードというイメージがあり、作品の魅力がさらに深まったのがこのウィークエンドとの闘いだったと思っています。
水薙竜先生:ウィークエンド編はシリアスな場面が多かったので、結構大変でした。僕は楽しく描いていたのですが、読者さんはシリアスな展開に困ってるかも…と不安になっていました。これまで、あまり触れないでいた工房のシステムなど設定が出せて良かったエピソードです。メインの敵だったウィークエンドは、お気に入りキャラの一人です。このエピソード後も色々活躍してもらいました。
│作中最も愛を注いだキャラに、アニメ版で衝撃を受ける
栗俣:そして物語はついに核心に向かって足を進めていくわけなのですが、そんな事はお構い無しに自分の想いのまま激しく動き回る、もはやコントロール不可能さが魅力的過ぎるメイン2人以外のキャラクター達についてここでお伺いしていきたいと思います!
まずは多華宮君の妹である霞ちゃんについてです! お兄ちゃん大好きすぎる、でもその感情に自分で答えを見いだせていない(!?)なかなか強力な妹キャラの霞ちゃんなのですが、先生の中で一番思い出深い霞ちゃんのエピソードをお伺いしてもよろしいでしょうか?
水薙竜先生:「正義のため」と言いながら、街を破壊する霞ちゃんもお気に入りキャラの一人です。理想の妹キャラにしようとして作りました。
ぬいぐるみたちが戦う時に成層圏まで巨大化して戦うのが、彼女の一番好きなエピソードです。描いていてとても楽しかったです。
霞ちゃんに関してはまだ描きたいことが多いですね。
©水薙竜/講談社
栗俣:そして個人的に先生の思い出深いエピソードを最も聞きたいキャラクター「たんぽぽ」についても聞かせてください! 作中一番の愛されキャラといっても過言ではないたんぽぽ、彼女の一番の想い出エピソードはどのシーンででしょうか?
©水薙竜/講談社
水薙竜先生:読者にどれくらい愛されたのかわからないのですが、少なくとも作中で一番、作者愛が注がれたキャラです。画面にいてくれるだけで楽しいので、隙あらば登場させていました。
アニメになった時に井澤詩織さんの声を聴いて、「たんぽぽちゃんって、こういう声だったのか…!」と衝撃を受けました。その後のたんぽぽちゃんの描写は、井澤さんの影響が大きいです。僕の想像よりも、ずっと成長してくれたキャラですね。
栗俣:その他にも多くの魅力的な登場人物がいるのが『ウィッチクラフトワークス』です。個人的には、星組のあいが登場シーンの迷子のお母さんを探す優しさを見せていたところからの多華宮君、火々里さんに出会った瞬間の変化が印象的でなぜか気になる存在になり、登場するたびに注目してしまう大好きなキャラだったりするのですが、先生の中で霞ちゃん、たんぽぽ以外のキャラでの思い出深いシーンをいくつでも構いませんのでお伺いしてもよろしいでしょうか?
水薙竜先生:今だと、アルシナが描いていて楽しいです。性格が歪んでるキャラクターが好きなので(笑)。
あいちゃん率いる星組は、典型的な塔の魔女として登場しました。魔女としての行動と平常時の行動に、違いがある事を出したくて。
たんぽぽとかKMM団は、行動に違いがないと思いますけど(笑)。
©水薙竜/講談社
水薙竜先生:多華宮君のお母さんや理事長や栞さんといった、作中で格上となるキャラも描いていて楽しかったです。「母性」もモチーフの一つだったので。この3人の中だと、栞さんが想定外の方向に成長しました。どんどん取り返しのつかない行動をしていき、「この人、大丈夫なのかな…?」と考えながら描いていました。
担当さんとの打ち合わせで、暴走したキャラです(笑)。
│多華宮君が最初から最後まで同じだったのに対して、火々里さんは変化し続けたキャラ
栗俣:そしてそんな日常の楽しさと比例しながら物語は確信である多華宮君、火々里さんの過去の話へとコマを進めていきます。『ウィッチクラフトワークス』の中心にある二人の物語は大きな驚きの事実を読者に突き付けていくわけです。そんな確信の部分はぜひ本編を読んでいただきたいと思うのですが、ここでは「多華宮仄」「火々里綾火」2人について先生からどんなキャラクターとして描いてきたのかのお話や思い出深いエピソードについてお聞きしたいと思います。
まず多華宮君なのですが、初回登場時から過去を知る事で最も印象が変わるのがこの多華宮君だと私は思うのですが、彼の紹介をぜひ先生ご自身の想いを含め、そして印象深い思い出のエピソードをお伺いしてもよろしいでしょうか?
水薙竜先生:一見、常識人風の多華宮君ですが、作中屈指の変わり者かもしれません。他人のどんな行動に対しても、基本的に信じてくれるキャラなので。彼は、悪意よりも善意を信じています。
多華宮君のエピソードとしては、火々里さんのお宝部屋(多華宮君の写真がいっぱい)を見て、「僕を警護するため、苦労している!」と思う話が好きです。火々里さんが困ってしまう、数少ないエピソードですね。
栗俣:そして火々里さんです。彼女も物語が進む中で大きく印象を変えていきました。過去を知る事で名前にまつわるエピソードなど彼女という存在が深まることはもちろん、霞ちゃんにも負けない愛の重さもどんどん顕になっていきその魅力を増していった(?)、そんな火々里さんについてはいかがでしょうか?
水薙竜先生:一番難しい質問かもしれません。よく「ツンデレ」とか言われているようですが、「素直クール」が最初のイメージです。というか欲望とか願望に素直な人ですね。
連載初期、描く度に胸と身長が大きくなっていきました。アシスタントさんや担当さんから指摘されるまで、あまり気づいていませんでしたが。そういう意味でも、一番成長したキャラですね(笑)。多華宮君が最初から最後まで同じだったのに対して、火々里さんは変化し続けたキャラでした。
©水薙竜/講談社
│かなり初期段階から決まっていたラストはやっぱり見どころ。そして物語は番外編へと続く
栗俣:3月に発売となる『ウィッチクラフトワークス』最終巻について、見どころをお伺いしたいです!
水薙竜先生:やっぱり、ラストシーンでしょうか。この終わり方は、かなり初期段階から決まっていました。読者さんが待っていた事をやっただけだと思いますが。作者としては、冬月祭での仮装イベントは描いていて楽しかったです!
栗俣:最後に、完結を迎えた『ウィッチクラフトワークス』を今まで読んできたファンの方たち、そしてこれから『ウィッチクラフトワークス』を読もうと思っている読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか?
水薙竜先生:完結まで読んでいただいた読者さんへ。
これまで読んでいただいて、ありがとうございます! お付き合いいただいた読者さんには、感謝しかありません。「ハッピーエンドになる」と思って読んでいてくれたはずなので、「楽しんでいただけたでしょうか?」と恩返しのような気持ちです。
まだ読んでいない読者さんへ
完結したので、まとめ読みするのにちょうどよいと思います。ご検討をお願いします!
そして『good!アフタヌーン』で「ウィッチクラフトワークスEXTRA」という連載が始まります。「ウィッチクラフトワークス」のこぼれ話やその後の話や過去の話を描く、番外編です。気楽に読んでいただけたら!
栗俣:水薙竜先生、今回はありがとうございました!
(文:仕掛け番長)
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【コンシェルジュ】仕掛け番長
栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』