先生のお笑いに対する熱い想いがひしひしと伝わってくる、“社会人×芸人”の物語『週末芸人』/久保田之都先生インタビュー【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

現在『月刊good!アフタヌーン』にて連載中の『週末芸人』。
社会人をやりながらお笑いの世界に足を踏み入れる「週末芸人」を描くこの作品。
さらっと描かれているライトな印象を初読では受けるのだが、実は読むたびに深みを増す濃い作品であると漫画読みの間で連載当初からじわじわと話題になっている。
今回はいよいよ待望の1巻が3月7日に発売となる『週末芸人』について、著者である久保田之都先生に色々聞いていこうと思います!

【プロフィール】久保田之都

2018年四季賞夏のコンテスト『背に負はば月影の重き』で四季大賞受賞。
「good!アフタヌーン」2020年3号『二度目の行列』でデビュー。

Twitter(@kubota0612)

│環境の変化を身近に感じていたし、時代性の後押しも「週末芸人」誕生の大きな要因に

栗俣(インタビュアー):『週末芸人』は社会人×芸人という扱うテーマが非常に珍しい作品です。そもそもなぜこのテーマで作品を描こうと思ったのでしょうか? 久保田先生が『週末芸人』を描かれようと思ったきっかけをお聞きかせください。

久保田先生:そもそも自分は大学時代お笑いサークルに所属していたいわゆる「学生芸人」で、その経験をもとにして書いた作品が、2018年夏の四季賞で大賞を受賞した『背に負はば月影の重き』でした。受賞以降も連載へ向けた打ち合わせでは一貫してお笑いがテーマの作品を企画していまして、「社会人お笑い」もそのうちの一つです。

当時学生芸人時代の後輩が「笑リーマン」や「社会人漫才王」といった、演者を社会人に限定したお笑いライブを主催していて、プロを選ばず就職した元学生芸人の友人たち、つまりアマチュアの芸人にも舞台が用意され始めていた頃だったんですね。プロの芸人って芸能事務所に所属することが大前提としてあって、これはテレビを中心としたメディアにおける芸能界の構造が理由としてあると思うんですけど、そのせいでそれまで学生芸人はプロになるかすっぱりお笑いをやめて就職するかの二択を迫られていたんです。趣味としても続けられないなんてそれって音楽や漫画、スポーツだったらあり得ないじゃないですか。そういった環境の変化を身近に感じていたので、これは今っぽいテーマだし、界隈の取材も知人ばかりで楽そうだと思って企画しました。

ただその頃に出していた案はうまく形にならず立ち消えになり、別の読切(二度目の行列)などを描きつつ1年くらい経ちまして…。そんな中、並行して通い始めた漫画講座「ひらめき☆マンガ教室」で「今を描く」という現代性をテーマにした課題が出たので、これはピッタリだと思い課題作として作り上げたのが「週末芸人」の読切版です。この読み切りを担当さんにも見せたところとても好評で、それが連載までつながったという感じですね。身の回りの友人の多様性ある生き方の変化に加え、特に2019年はラランドさんがアマチュアながらM-1で準決勝に残った年でもあったのでそういった時代性の後押しなんかも「週末芸人」を描くきっかけの大きな要因だったと思います。

©久保田之都/講談社

栗俣:今お話いただいた「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」の第3期で大賞を受賞して『good!アフタヌーン』で連載がスタートしたとお聞きいたしました!

久保田先生:連載前の自分の活動までお調べいただきありがとございます! ただ厳密にいうと「週末芸人」が大賞を受賞したわけではなく、「週末芸人」を含めた数作の課題作の合計点によって参加資格を得る事ができる最終講評で提出した別の課題で年間大賞を受賞しましたんですよね。ややこしくて申し訳ないです…いやもうこの際週末芸人が大賞受賞作で全然いいんですけど…。

栗俣:そうなんですね!? それを聞くと他の作品もめちゃくちゃ読みたくなりますね!! ところでこの「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」はどういったものなのでしょうか? 参加されたきっかけも伺いたいです。

久保田先生:「ひらめき☆マンガ教室」はゲンロンさんが主催されてる漫画講座ですね。月替わりでゲストの漫画家さんがいらっしゃって、その方の発表したテーマに沿って漫画を描いて提出、講義を通して改善点を見つけていくというサイクルを一年繰り返します。自分の作品を講評してもらう際は、壇上に上がりマイクを持ちながら質疑応答をするので、自分の表現の意図を言語化する力や度胸、プレゼン力が身につきますよ! 友達もたくさんできたしとても良い場所でした。

参加したきっかけは編集さんとのネームのやりとりで四苦八苦している中、学生芸人時代の友人から「こんな講座があるよ」とお薦めしてもらったことですね。個人的にもネームばかり書いている期間が続いて、漫画を最後まで完成させてフィードバックをもらうサイクルが欲しいと感じていた時期でした。あとはまあ、最終的な決め手はゲスト講師に浅野いにおさんがいらっしゃるってところですかね…ファンだったので…。実はさっき話した「今を描く」というテーマも浅野さんが出された課題文で、「週末芸人」の1話には浅野さんに直接講義で指摘いただいた改善ポイントがふんだんに反映されております。本当に頭あがらないです。

栗俣:凄い!「週末芸人」は浅野いにお先生からの直接講義でご指摘などもあり生まれた作品なんですか!? もうお話を聞けば聞くほど興味を掻き立てられるのですが、「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」での「週末芸人」と現在の連載版での違いなどがあれば教えていただいてもよろしいでしょうか?

久保田先生:ほぼほぼ変化はないのですが、大きく変わった部分は渋谷のキャラクターです。まず見た目なんですけど連載前、髪型はアフロヘアーでした。すごく分かりやすいですね。これは2020年の2月に『good!アフタヌーン』に掲載された「二度目の行列」という漫画に出てくるお笑いコンビのキャラクターデザインを流用したためです。あまりにモブっぽいので連載にあたり今のツンツン前髪上げスタイルに変更になりました。

また渋谷はその内面や過去も読み切り版から微妙に変化しています。読み切りの時の渋谷って社会人の生活にあっさり順応しつつも、どことなくやさぐれた雰囲気があったんですが、連載版の渋谷は基本的に何事にも一生懸命取り組む実直な性格になっています。また芸人時代の過去の肉付けがあるので、よりお笑いに対しての考えや背負っているものが明確なキャラクターに生まれ変わりました。

©久保田之都/講談社

│お笑いをやるのが好きな人たちには並々ならぬ敬意がある。そういった部分は伝わっていてほしい

栗俣:週末芸人はお笑いに挑む社会人「渋谷」の物語として描かれます。社会人としての現実と芸人としての夢。その中心にいるかのような彼の物語は非常にメッセージ性も強く読むたびにどんどんと深さを増していきます。まず、社会人×芸人という二足の草鞋を履く「渋谷」を主人公とした理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?

久保田先生:社会人お笑いというシーンが生まれつつあったという流れはさっき言った通りで、そういった部分をより印象的にするために「お笑いに対して強いこだわりと古い価値観を持つの主人公が、柔軟な考え方の相方に誘われる形で再び舞台に上がる」というストーリーにしました。本来はバディもので考えているのですが、高峰ではなく渋谷の方がより主人公然としているのは彼が人一倍こだわりを持っていて、固執し、自問自答するからですね。

本業とは別に、好きだからただ続けている物があることは別に珍しいことでもなんでもないので、そういった好きという気持ちの肯定をお笑いの分野においてもみせられるといいなという意図でこういったキャラ背景になりました。「社会人×漫画」や「社会人×音楽」ではこういうストーリーにはなっていなかったと思います。

栗俣:『週末芸人』は沁み込んで行くように読むたびに面白さを増していく作品だと感じました。メッセージもダイレクトではない形で、でもしっかりと話の中に刻まれている深みのあるこの作品に、久保田先生が込められた想いをぜひお伺いさせて下さい!

久保田先生:先ほど述べたように読者一人ひとりが持つ趣味や何かを好きだって気持ちを肯定したいというのは前提としてあります。何かに全てのリソースを割く事だけが正解でなく、割り切って活動を続けることも、割り切れない思いを抱えたまま舞台に立ち続けることも、全部です。

また特に個人的な思いで言えば、お笑いやるのが好きだっていう人たちには並々ならぬ敬意があるので、そういった部分は伝わっていてほしいと感じます。かっこいいし美しいなと思っています。人を笑わせることが自分の承認欲求と密接に癒着してるところとか、動機が純粋過ぎて眩しく映りますね。しかもそのやり方も「お笑いライブ」ってものすごい高いハードルの名前のついた場所で自分の身ひとつでお客さんを楽しませるっていう、あまりにもストロングスタイルなやり方なので。いい意味で頭がおかしい人たちです。まして社会人をやりながら少ない時間でそういった活動に精を出す人々は、敬意しかありません。なのでそういった方達の背中を押すような物語になっていてほしいし、していきたいです。

©久保田之都/講談社

栗俣:この作品には久保田先生の沢山の想いが込められているのですね…。ついに1巻が発売となる『週末芸人』ですが、まとめて読むことで『週末芸人』はさらに読み味を増すと思っています。単行本が発売になって勢いを増していくかと思うのですが、今後はどんな感じの展開が待っているのでしょうか? 今しゃべれる範囲でぜひ今後の展開について聞かせて下さい!

久保田先生:渋谷たちの周りには現実同様これからもたくさんの生き方、バックボーンを持ったキャラクターが現れることと思います。芸人に限っていえばプロもフリーもアマチュアも。#6ではアマチュアも参加できる大規模な漫才の大会の存在が示唆されていますが、そういったそういったキャラクターたちが一堂に会する場所で、渋谷たちがどう変化しまた変化を与えていくのか。そういった部分を楽しみにしていただければと思います。期待していてください!

栗俣:最後に『週末芸人』読者、そして久保田先生のファンの皆様にメッセージをお願いいたします!!

久保田先生:いつも応援ありがとうございます!たくさんの方々のサポートの甲斐あって、こうして渋谷たちの物語を本にすることができました。これからもより良い漫画を作っていきたいと思いますので引き続きのご愛顧のほど何卒よろしくお願いします! 3月7日に『週末芸人』1巻が発売になりますので、ぜひお買い求めください。これに尽きます。インタビューで触れたていただいた「週末芸人」の課題作バージョンはネットでもみることができますので、そちらもご覧いただければと思います。(「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」のWEBページ

栗俣:久保田先生、ありがとうございました!!

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

週末芸人

1巻発売中

著者:久保田之都
出版社:講談社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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