現在週刊ヤングジャンプにて連載中の『黒鉄のヴァルハリアン』。松原先生がボクシングの世界を描いた大ヒット作『リクドウ』の次に選んだテーマは“ヴァルハラ”。そう、死後の世界と死んだ戦士たちの物語でした。
異常な熱量と圧倒的な画力により情報量が多いにも関わらず、読者を熱中させ一気読みさせることを実現した、青年漫画のひとつの到達点とすら感じさせる『黒鉄のヴァルハリアン』。今回は著者の松原利光先生に色々話を伺いたいと思います!
│物語のきっかけは、お父さんたちの本音だった
栗俣(インタビュアー):本作『黒鉄のヴァルハリアン』の舞台となる“ヴァルハラ”には謎が多く、「ワルキューレ」や「死戦士」という存在、フリストの片翼の理由や「ワルキューレの生き残り」というセリフなどヴァルハラ自体の謎も合わさりその魅力が無限大に広がっています。そして主人公である相馬鉄二朗の存在も含めて非常に考察要素が多く、伏線が至る所に緻密に張られている印象を感じました。
松原先生:読者のみなさんが伏線や謎について考察し、前のめりに作品を楽しんでもらえているということはとても嬉しいです。ただ、心の中では毎回その考察の上をいくことができるかどうか、毎回ハラハラしています。
©︎松原利光/集英社
栗俣:いつ、どこでこれらの伏線がどのように回収さていくのか、楽しみで仕方ありません! また、伏線が多いだけでなく、真っ直ぐに逆風に立ち向かっていく少年の姿を描いた前作「リクドウ」とは大きく異なる印象を受けました。松原先生が考える『黒鉄のヴァルハリアン』と『リクドウ』の違いはどのようなところにありますか?
松原先生:前作『リクドウ』は、父親の愛を知らない主人公・リクがボクシングを通じてさまざまな絆を得ていく物語として描きました。一方、今作『黒鉄のヴァルハリアン』では主人公・相馬鉄二朗が我が子のために生き帰りを求めていく物語です。主人公が”親”であること。これが『リクドウ』とは大きく違う点だと思います。
栗俣:1話目から鉄二朗の息子を思う気持ちの強さ、その愛情の深さにとても胸を打たれました。主人公を親として描くことになったきっかけなどあるのでしょうか?
松原先生:きっかけは、同世代の友人たちの多くが子を持つ父親になっていたからです。親になったからといって昔の自分と性格やら何やらが変わるわけでもないのに「子どもの前では親として、父親として振る舞わなければならない」という友人たちの言葉を聞いて、何か同世代の人たちに私なりの「父親らしさ」を考えて、伝えることができる作品を描きたいなと思いました。
栗俣:そうした背景の上で描かれている相馬鉄二朗は父親としては、どのような人物なのでしょうか?
松原先生:自分より立派な息子の前で父親であろうと頑張る不器用なお父さんですね。子どもが生まれる前は喧嘩っ早かった輩であり、未完成な父親であることが鉄二朗なのだと思います。
©︎松原利光/集英社
栗俣:世のお父さんたちにとって、不器用でも父親として奮闘する鉄二朗の姿に共感し元気を分けてもらえそうですよね。
│未知の脅威・元寇、鎌倉武士、最強の偉人たち。男の浪漫が止まらない
栗俣:一方で戦士として描かれる相馬鉄二朗は元寇の侍。『黒鉄のヴァルハリアン』はヴァルハラ、すなわち死後の世界を舞台にした戦士たちの物語ですから、世界中の誰もが知る「関羽雲長」や「フビライ・ハーン」などの有名な戦士たちが登場しています。そんな歴史的偉人が数多く登場する物語の中で、“元寇の侍”を主人公にした理由とそのきっかけは何かありますか?
松原先生:当時向かうところ敵なしと呼ばれた得体の知れない異文化の敵国と死闘を繰り広げた武士だからこそ、ヴァルハラの世界でも大暴れできるだろうと考えたのがきっかけです。鎌倉武士はファースト侍であり、剣術も兵法本で呪術的要素が含まれる文章で記された技があるなど非常に浪漫を感じたことも理由の一つです。
©︎松原利光/集英社
栗俣:“てつはう”という武器で劣勢を強いられながらも“神風”で2度の侵攻を防ぎ切った元寇。歴史の中でも非常にインパクトがあり今でも絵巻とともに記憶に残っている読者も多いでしょうから、同世代はとくに浪漫を感じているかもしれませんね。
また、登場人物として語るに欠かせない関羽雲長やフビライ・ハーンなど誰もが知る偉人たちがとても格好良く、その姿が独特であることも読者の間で話題となっています。髭が素敵で歩くダンディズム・関羽、少年的でエロいショタ要素の強いフビライ・ハーンなど、読者が思い描く一般的なイメージとは少し違う要素のあるキャラクターとして描かれています。これは松原先生が持つ偉人たちへのイメージからキャラクター化した姿なのでしょうか?
松原先生:これまでに多くの作品で描かれてきた偉人たちを今作では描くことになり、勝手に大きなプレッシャーを感じています。彼らの生い立ちから生き様、家族関係や残した言葉などをしっかりと調べて理解して、自分なりに彼らに思いを馳せつつも、他作品とは異なる偉人像を描くことを意識しています。白紙からイメージするというより、性格が似ているように感じる著名人を見つけ、その方が言いそうな言動を参考にして構築するようにしています。
©︎松原利光/集英社
栗俣:そうなのですね。「この偉人はあの人っぽいな」なんて考えながら、松原先生が思い描く偉人たちのカッコイイ姿をもっと読みたいです。
松原先生:ありがとうございます。どんなに素晴らしい偉人であろうと、完璧人間ではないだろうと考えています。人間らしさを出すことが「カッコイイ」に繋がると思っているので、この部分は強く意識して心掛けています。ちなみに、『必殺仕事人』の日常と仕事のオン/オフの切り替えの表現については特に影響受けているかもしれませんね。
栗俣:ありがとうございます。最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします!
松原先生:前作『リクドウ』と異なり、ギャグシーンがあったり、現実離れしている要素がいろいろあったりして、戸惑っている読者の方がいらっしゃるように思います。僕も初めて挑戦することばかりで、今後どう転がっていくかまったく予想できずにいます。
しかし限られたリング内ではなく、広大な世界で戦う派手なバトルものになる予感もしています。リクドウで描き切れなかった男の浪漫を、ファンタジーという舞台に出し尽くしたいと思っています。今までありそうでなかった偉人たちのドリームマッチを自由に構築できる舞台にワクワクしています。ぜひ、気軽に読んでいただけたらと思いますので何卒よろしくお願いいたします。
(文:仕掛け番長)
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【コンシェルジュ】仕掛け番長
栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』
Twitter(@maron_rikiya)