普通の物語とは違う目線だからこそ見える恋心『私に見えない恋心』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│どの収録作も1話数ページほどの物語に奥深さがあり、心に残る

『私に見えない恋心』は色々な愛の形を描いた短編を詰め合わせたオムニバス作品だ。

例えば、同性が好きという茨道を踏み出せない女と交尾したら食べられちゃうから一線を越えられず、その結果彼女と別れてしまったオスカマキリが飲み屋でおしゃべりをするひと時を描いた「愛を恐れて」。
雨に濡れている女の子が気になり傘を貸した男の子のその後のひと時で、思いもよらない男の子の恋の形があらわになる「雨が似合う」など、時にはファンタジーも加えつつリアル恋心について色々な形を見せてくれる。

どの作品も多くを語らず1話数ページほどの物語なのだが、読む人それぞれが自分に照らし合わせ考えるような、コメディタッチで終わる事も多いのにその中に奥深さもあるところがとても面白く、心に残る作品集となっている。

│「じゃないほう」だからわかる切ない恋心

収録作どれも本当に面白いのだが、個人的にはいわゆる男の娘ものを描いた「気の迷いなら早く」が短いながら男の娘ものの切なさをしっかり描いていてオススメだ。

文化祭で女装をしたことをきっかけにちょくちょく女装をするようになった友達にドキドキしてしまう自分と葛藤する主人公が、葛藤の中で思わずお前が女装なんてするから…と友達に言ってしまいそれから友達は女装をやめたという短い物語なのだが、主人公目線で描かれた作品にも関わらず、女装をしていた友達の主人公への想いが読み取れてなかなか切ないのだ。
これ以外にも、同じ男の子の事を好きになった女の子2人のお話を、男の子が好きじゃない方の女の子の目線(しかも男の子が自分じゃない方の彼女を好きなのを知っている)で描いた「なんちゃって」など普通の物語とは違う目線だからこそ見える恋心というのもこの作品のひとつの魅力だろう。

コミックスの単巻作品は書店から早めに姿を消してしまうし、電子書店でも目的をもって検索するなど探さないと見つからないので、いい作品であるにも関わらず出会う機会が得られないものが多い。
今回紹介した『私には見えない恋心』も発売が2015年と少し前なので知らなかったという方も多いと思う。最新作の紹介はもちろんだが、こういった作品もこういった場で紹介していけたらと思っている。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

私に見えない恋心

発売中

著者:仙石寛子
出版社:竹書房

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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