傷だらけの4人の少年少女の異色ラブストーリー『Mr.マロウブルー』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│4人の登場人物の事を知れば知る程深く深く沈んでいく。
3巻まで読んで読み返して初めて桜の行動や表情の「本当の意味」が初めて理解できる異色のラブストーリー

マロウブルーをご存じだろうか?

レモンをたらすと一瞬で青色のティーがピンク色になるという不思議なハーブティ。
今回紹介する『Mr.マロウブルー』は、そんなハーブティの名前が付いた異色のラブストーリー作品だ。27歳の引きこもりの男性が自殺しようとした瞬間に女子高生と入れ替わってしまうとこから物語は始まる。

蒼井志月は高校の頃に苛めにあい、さらに唯一の心のよりどころであった友達のひどい裏切りから心がポッキリと折れてしまった。
16歳で高校を辞め親に迷惑をかけたくないと家を20歳で出たのだが、それからアパートの一室に7年間引きこもってしまっている。
何とか行けるアパートから徒歩2分のコンビニ。蒼井の世界の果て。

そんなコンビニでたまたま自分に酷い裏切りをした人物に会ってしまう。
その出会いは、蒼井に自分が自分である限り今の状況からは抜け出せないという事を深く思い起こさせ、衝動的に蒼井は死のうと自分自身のお腹をハサミで刺してしまう…。
その瞬間、彼の目の前には美少年が倒れており、そして自分自身も天使のような容姿の少女・桜つむぎになっていた。

そしてまた蒼井が入れ替わった少女、桜つむぎも同じように自分が自分である限り今の状況からは抜け出せないと思っていた。
桜は高校で酷い苛めにあっており、いじめの中心人物であるユメを桜は殺したいと願っていた。全く知らないSNSの中の人間に自分だとばれずに殺せる方法を聞いてしまうほどに。
そしてSNSの中の誰かがふざけて言った「誰かと入れ替わればいい」を信じて行動してしまうほどに…。

│作中雨がずっと降っている。その雨が止むことはあるのだろうか?

これは「蒼井」と「桜」そして二人の近しい人間となる「水無月」と「ユメ」4人の物語だ。

蒼井は女子高生「桜」になってしまってから自分に親身になってくれる水無月と共にいる事で失ってしまった時間を取り戻していく。
水無月は幼いころから繰り返された周りの人間の裏切りにより人の顔が感情しか認識できなくなっていたが何故か蒼井の顔だけは認識できることから彼を助けたいと思うようになる。水無月は蒼井を助けつつ自分自身も蒼井に救われていく事で彼が彼女、桜のままでいて欲しいとすら願うようになる。
人に裏切られた二人だからこその関係がそこにはあるのだ。

そして桜は容姿端麗な蒼井の体を手に入れ自分が最も求めていた世界を手に入れる。
桜の想いやユメの過去の話は物語の核心部分となっているため多くを語る事は出来ないが桜の行動は話を読めば読むほどその想いに一貫している事がわかり1巻は3巻を読んでから読み返すと心底ゾッとするほどその意味を大きく変えるものになっている。

『Mr.マロウブルー』は人間の内面に本気で向き合った作品だと私は思っている。
それこそ同じ人物なのに表情の違いでここまで違いを読者に感じさせる作品は他にあまりないのではないだろうか?

また登場人物の容姿が全員端麗であるという事もストーリーにとって大切な要素になっておりそれゆえに心を掴まれるような物語が出来上がっているというのも面白いと感じた。

カバーや表紙などの作りも非常に凝っており、デザインだけでなく手触り含め本当に素敵な本になっている。

最後に、『Mr.マウロブルー』の作中はずっと雨が降っている。
私はこの雨が何故かとても心地よく感じた。人により感じ方はそれぞれだと思うのだがこういった部分もぜひ楽しんでいただけたらと思う。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

Mr.マロウブルー

3巻まで発売中

著者:サマミヤ アカザ
出版社:KADOKAWA

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

一覧に戻る