フィクションが溢れ現実との境が曖昧になるとんでもない作品『少女不十分』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│目が離せなくなる。こちら側の、読者を見つめ何かを訴えるような少女

週刊少年ジャンプにて西尾維新先生原作による新連載『暗号学園のいろは』が始まった。
暗号解読をテーマにした、西尾維新先生ならではのでかい感を岩﨑優次先生が描くこの作品、1話目から心躍った読者も多いのではないだろうか?

西尾維新先生の作品は原作、小説のコミカライズ含め非常に多くの作品が漫画という表現で読めるようになっている。
そういった作品たちは漫画化さんとのケミストリーで小説とはまた違う新しい魅力に気が付かせてくれる事が多いのだが、特に私ははっとりみつる先生とのコンビで描かれた『少女不十分』のコミカライズには非常に心を奪われ続けている。

小説の『少女不十分』は帯に「この本を書くのに、10年かかった。」という文章が刻まれ、本を開くとそこには手記の様に作家志望の青年が体験したことが淡々と書いている。
まるで著者である西尾維新先生自らの体験を書いていくように語られる本作は、その手法によるノンフィクションとフィクションが同時に存在しているような不思議な面白さがあり、それがこの作品の異様な空気感とマッチし読者を虜にした大傑作だ。

そんな『少女不十分』のコミックはまるまる真っ黒に染まった1ページ目から始まる。
真ん中に「これは物語ではない」と小さく書かれたインパクトのあるそのページをめくっていくと、足、本を持つ手、唇が描かれ、そして何とも言えない雰囲気のある部屋の真ん中に少女が経つイラストへ続いていく。
何だか異様なはじまりに恐る恐るもう1ページめくるとそこには、思わず鳥肌が立ってしまうような引き込まれる瞳、半開きで何かを訴えるような唇。読者を見つめ、読者も見つめずにはいられなくなるような不思議な魅力的を持つ少女のアップが描かれていた。

│漫画ならではの表現で物語の世界と現実の境を曖昧にする

小説をなぞるのではなく、小説の魅力を漫画の表現で再現し、全く違う形で読者をノンフィクションとフィクションの間にトンッと突き落とすこの導入。
まさに最初の数ページで私が抱いていた『少女不十分』のコミカライズに対する不安は消え、小説を読んでストーリーを知っているにもかかわらず続きが気になってページをめくる手が止まらなくなってしまった。

全3巻で描かれるこのコミック版の『少女不十分』は、導入だけでなく全体を通して漫画という表現をフルに活かし作品の世界観を伝え、小説とはまた違った極上の物語を見せてくれる。
特に台詞なく、イラスト表現だけでそこにある空気を読者側の世界にも伝染させてしまう様な魅力はこの作品独特のものだろう。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

少女不十分

全3巻レンタル・発売中

著者:はっとりみつる
原作:西尾維新
出版社:講談社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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