読み進めていくにつれて印象が変わっていく「繊細な人間ドラマ」『ぼっちの僕に強制彼女がやってきた』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│周平と泉、二人に対してのバックグラウンドの深堀、特に周平と周平の母親に関しての過去の話はあまりのリアリティにゾッとしてしまう

「空気を読む」という事は人間関係を円滑に進めるために必要な事だと思っている人は少なくないだろう。周りに気を使い、みんなが楽しめるような行動を選択し取り続ける。正直こんなのむちゃくちゃ疲れてしまう。しんどい事が人間関係には基本的な事として求められているなと思う。

『ぼっちの僕に強制彼女がやってきた』は主人公、周平の元に母親が突然彼女になりたいという女性、泉を連れてくるという所から始まる物語だ。
泉とは一度、周平が店員として深夜働いているコンビニで来店時に鍵を落としたのを追いかけて届けたという程度の出会いしかなかった。
しかしその時に泉は周平の事が気になり、名札の苗字から同じ職場で働く円堂さんが彼の母親である事を知り、運命と感じこの場に来たというのだ。しかし、ぼっちの自分にそんな事を言う人が現れるのはおかしいと泉を受け入れない周平。

もちろんこの話には裏があった。泉は周平の母親に「お試しでいいからぼっちの息子と付き合って欲しい」と頼まれていたのだ。
正直これだけ聞くとリアリティのないなんて都合のいいラブコメ展開だ…と思ってしまうのだが、この作品は泉が周平の母親のこのお願いを断れなかった事や、この話を聞き頑なに受け入れなかった泉と付き合うという事をすんなりと受け入れた周平の感情に対しての理由が、誰もが納得してしまうほどの説得力を持って語られていく。

それは周平と泉、二人に対してのバックグラウンドの深堀、特に周平と周平の母親に関しての過去の話はあまりのリアリティにゾッとしてしまうほどだ。
泉が周平の母親に息子と付き合って欲しいと言われ断れなかった理由も、そして断らなかった理由も作中を読み込んでいくと確かに泉はそういう選択をするだろうなと思わされる。

それは特に冒頭で触れた空気を読む人間関係に疲れている人ほど共感できるものだろう。

│まるで伏線を後で発見していくのに似た周平や泉の行動原理の理由のピースが話を読み進めていくと埋まっていく面白さ

「起きた事」「しゃべっている内容」などで伏線を上手く張っている作品は、しっかりと練られた内容からロジカルな展開が好奇心を煽り非常に面白いものだ。
この『ぼっちの僕に強制彼女がやってきた』は伏線漫画ではないが登場人物の性格のトレースが精密に行われており、まるで伏線を後で発見していくのに似た周平や泉の行動原理の理由のピースが話を読み進めていくと埋まっていく面白さがある。

オススメのこの作品、まずはタイトルや第1話を読んだときの感想が読み進めていくにつれてどんどん変わっていく面白さをぜひ味わってみて欲しい。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

ぼっちの僕に強制彼女がやってきた

2巻まで発売、1巻までレンタル中

著者:栗ののか
出版社:芳文社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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