「一途に恋をする」という事の側面にある残酷な何か。『僕の彼女は僕のことが好きじゃない』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│痛々しい、ふたりの歪で一途な恋の形

先にお伝えをしておくと、今回紹介する作品は読むと心強い痛みを伴う。
気持ちが元気な時に読むことをオススメしたい。特に好きな人に振り向いてもらえない、そんな経験のある人は危険なほど感情移入してしまうそんな漫画なのだ。

ラブコメ作品で「一途で可愛い主人公の事が大好きな女の子」が出てくるものは多い。
冷静に見たらストーカー? と思ってしまうほどの行動力と愛で主人公に迫るそんな彼女たち、しかも好きになった理由は一目ぼれだったり何かのタイミングでたまたま都合よく助けてもらった事だったり些細なものである事が多い。

そんなヒロインをいつしか主人公がその押しに負けて好きになる…みたいな展開がいいものとして成立するのは、そんな彼女が好きになった主人公がいい人であるからだ。
ではヒロインが好きになったのが全く「いい人」ではなかったら?
さらには主人公的立ち位置ではない人間が、そんな彼女に想いを寄せてしまったら?

『僕の彼女は僕のことが好きじゃない』これは落とし物を拾ってくれた、そんな些細な事で大好きな人が出来た恋に真っ直ぐすぎる可愛い彼女「千沙」とそんな千沙を好きな宮田くんの日々を描いている。

家に突然来て、ご飯を食べて、おしゃべりをして、そのまま別々の寝床で眠る。
付き合っているのに宮田くんと千沙はそんな毎日を過ごしている。
何故かというと、千沙には毎日大学を休んで交差点で待ち伏せを一日中してしまうほど会いたい好きな相手がいるから。
そして宮田くんは千沙の嫌がる事は絶対にしない。
毎日ご飯を作って彼女が幸せそうに笑う事が彼にとってはそれ以上ない幸せで、彼女が大好きな想い人の話をする事も笑って受け入れられる。

そんな歪にも見える二人の恋人としての日々は、千沙が毎日待ち伏せをする想い人である五十嵐くんと関係を持つことで本当にあっけなく終わりを告げる。
酒と香水、真新しいジャケットを着こんで会うのはほぼ夜に千沙のアパートでだけという五十嵐くん。外から見て全く大事にされていない様子なのに病的に誰よりも五十嵐くんを一番に考える千沙。
そしてそれでも千沙を思い続け、病的なほど気遣う宮田くん。

痛々しい程のふたりの恋心は読んでいて本当に心を締め付けられる。

│一途すぎるヒロインもので友達とのシーンなどは描かれないことがリアルな表現だったと思い知らされる

作中で千沙について宮田くんの友達など周りからの目線が語られている個所があるが、一途すぎる想いからの行き過ぎた行動にみんな距離をとっているという。
これはラブコメなどでは語られない裏側として面白いなと感じた。
一途すぎるヒロインとその想い人のラブコメは大抵ふたりだけの世界でしか語られず、ヒロインと友達のシーンなどは描かれないものも多いがそれは逆にリアルな表現だったと思い知らされる。

また宮田くんもただのいい人として描かれるのではなく「どうせまたすぐ別れる」と千沙の恋に対して話していたり、自分を好きになってくれている人物にさえ気遣いのない、本当の意味で興味がない事が読み取れるような行動をとっていたり、彼は千沙と似た恋愛観を持っているのかもしれないと思わせられた。

「一途に恋をする」という事の側面にある残酷な何かを目をそらさずに描いたような『僕の彼女は僕のことが好きじゃない』続きの発売が待ち遠しくて仕方がない。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

僕の彼女は僕のことが好きじゃない

上巻発売中

著者:志岐佳衣子、此見えこ
出版社:一迅社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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