秘密を査定し買取る不思議なBARを舞台とした誰かの秘密の物語。『王様の耳』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│その独特な雰囲気で読む者を作品世界に引き込み、まるで登場人物たちの人生の一時を特等席で一人見ているような気分にさせられてしまう、えすとえむ先生最新作『王様の耳』

女性セブンで連載されている、えすとえむ先生の『王様の耳』という漫画はご存じだろうか?

この『王様の耳』はその独特な雰囲気で読む者を作品世界に引き込み、まるで登場人物たちの人生の一時を特等席で一人見ているような気分にさせられてしまうような、かなり特殊な魅力のある作品だと1巻を読んで私は強く感じたのだ。

『うどんの女』や『いいね!光源氏くん』など、多くのヒット作を生み出してきたえすとえむ先生の最新作である本作は、秘密を査定し買い取るBAR「王様の耳」を舞台とした秘密を取り巻く基本1話完結型の物語だ。

BAR王様の耳にはその噂を聞きつけて毎晩秘密を持った客が訪ねてくる。
BARのオーナー鳳鱗太郎はそんな客の秘密を聴き、値段を付けて買い取る。

この作品は1話ではなく全て話数を〇杯と表記している。
これはオーナーが買い取った秘密をカクテルとして飲むところから付けられている表記だろう。このオーナーの存在もまた不思議で魅力的に作品を彩っている。

│彼女の告げた秘密それは「今、彼氏を殺してきた」

持ち寄られる秘密の味により毎話、読み味が変わるところもこの作品の面白さなのだが、1巻収録の4杯目が私としては非常に好みだった。

訪れたのは血だらけの女性。
この王様の耳で秘密を買い取ってもらうにはとある注文をしなければならず、その注文をする事で奥の秘密を査定する部屋に連れていかれるのだが、彼女はその注文の言葉を全ていう事が出来なかった。
しかし普段と違いオーナーはそれにもかかわらず彼女の秘密を聴く。
その秘密は「今、彼氏を殺してきた」というものだった。

実はこの4杯目は彼女とその彼氏、二人の秘密から構成されたミステリー仕立ての物語になっている。彼女の行動の理由、そしてそれを引き起こした彼氏の秘密とは?

そして最後に彼女がマスターに伝える一言の持つ意味。
このラストには静かなのに激しい驚きがあり、本当に素晴らしいの一言だった。

全話物語の読み味が異なるため読者により好きになる話がそれぞれ異なったり、同じ話を気に入ってもその理由が違ったりと、まさにカクテルを楽しむように「王様の耳」は読む者の感性を楽しませる作品だと私は思う。

気になった方はぜひ一度この漫画を味わってみてはいかがだろうか?

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

王様の耳

1巻発売中

著者:えすとえむ
出版社:小学館

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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