年下男子から見る年上女性のミステリアスさを描くリアルな恋物語『隣のお姉さんが好き』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│1話目で描かれるヒロインの映画を見ている時のどこか遠くを観ているような不思議な表情。
この1枚のイラストで描かれた彼女は何を想いこの表情をしているのか。これはそれを知っていく物語。

お隣に住む、家族ぐるみの付き合いをする高校二年生の心愛さんに恋をする男子中学生たーくんの恋心を描いた毎話短いお話でつづられるラブコメディなんだろうな、と1話目を読んだときは思っていた。美人でお父さんがアメリカ人、3つ上のお姉さんとたーくん目線で語られていく本作。

毎週水曜日に一緒に映画をみる約束をしているという大筋になりそうな話が1話目から飛び出し、いきなり心愛に告白をしてしまうたーくんを見事なスルースキルでやりこなす彼女の対応など、今どきのラブコメの王道の流れがふんだんに組まれているが、しかし結論からいうとこの後『隣のお姉さんが好き』は、普通のわかりやすいラブコメとは違うベクトルで話を進めていく。

1話でたーくん目線で語られる映画を見ている時のどこか遠くを観ているような不思議な表情。彼女のこのシーンが何を含んだものなのか。心愛とはどんな人間なのか。それを知っていくのがこの『隣のお姉さんが好き』という物語だ。

│なぜ彼女はたーくんに対してこんなにも壁を作るのか、そこには何があるのか。
『隣のお姉さんが好き』は本当に最後までラブコメなのか?

この作品は基本的に全てたーくんの目線で語られるので、心愛の心情を読者も正確に知る事は出来ない。一人でドーナツ屋さんで泣いていた理由も、いつも壁を作るような態度でいる理由も、私は人に好かれるような人間じゃないと自分を語る理由も。
中学生男子から見る年上の女性としてのフィルターのかかった心愛の姿しか読者も知る事が出来ない。
年上の人に恋をして自分よりも経験を積んでいるであろうその相手の事をもっと知りたいのに、自分の幼さゆえにそれを知る事が出来ないもどかしさのようなものの追体験と重なり1つ1つの心愛の行動がミステリアスに映る。
これが想像以上に読者の好奇心をくすぐってくるのだ。

私はかなりの量ラブコメ作品を読んでいると思うのだが、意外にここまでしっかりと年下男子からみた年上のお姉さんのミステリアスさを表現した作品は今まであまりなかったように思う。なぜ自分に対してこんなにも壁を作るのか、そこには何があるのか。

この作品がラブコメとしてこれから進んでいくのかはわからないが(それさえも違うのかもと思わせてくるほどの作品だ)、それでも心愛の事を知っていくこの物語の結末は面白いものになっていく事を確信させる見事な1巻目だった。

実は漫画好きの間ではすでに話題になっている本作。
ぜひ気になった方は1巻目を手に取ってみて欲しい。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

隣のお姉さんが好き

1巻発売中

著者:藤近小梅
出版社:KADOKAWA

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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