彼女はなぜこんな事件を起こしたのか。最悪のテロ事件の真実とは?『君が獣になる前に』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│最悪最恐の事件を起こした犯人は25歳の人気若手女優。彼女はなぜそんな事件を起こすことになったのか?

都内の駅の地下で起きた毒ガステロ事件。
死者61名、重軽傷者605名。
日本犯罪史上最悪の毒ガス事件「The Beast」

実行犯は25歳の若手女優。
そして彼女自身もこの事件で亡くなった。

主人公「神崎一」はそんな凶悪事件の実行犯「希堂琴音」の幼なじみ。彼はその事件を彼女が起こす直前まで彼女と共に過ごしていた。
偶然駅で出会い、久しぶりの再会を喜び、何気ないデートをして笑いあい。

そして彼女は別れの瞬間に「私を止められたのはお兄ぃ…‥、あなただけだったのに」と彼に告げそして冒頭の事件がその後すぐに起きることになった。

この物語はそんな凶悪な毒ガス事件は何故起きたのか、そしてその事件の実行犯「希堂琴音」はなぜそんな事件を実行したのかを巡るミステリー作品なのだ。

│「なぜその事件を起こしたか」が全てのカギとなる物語構成に、誰もが夢中になる事間違いない

この作品が面白いのは、「Whydunit」なぜその事件を起こしたかという部分にのみに謎が集中しているところだろう。しかもとてもやさしく人を殺す事なんて出来ないと周りの誰もが思っていた、そのうえ人気若手女優という存在が600人以上の被害者を生むような凶悪事件を起こした理由となると正直想像もつかない。
しかし現実でも「あの人がなぜ」という言葉は、犯人をよく知る人間から度々出て来る。
まさにその「あの人がなぜ」を、その一番身近な人間である主人公の目線で追っていくこの物語の主軸に興味を持たないミステリー読みはいないのではないだろうか。

ちなみにこの作品はタイムリープの要素もあり、それにより「間違いなく犯人は琴音である」事はしっかりと語り手であり、主人公の「神崎一」の目線で確定的なシーンとしてそれが描かれている。もちろんフェアな語り手の作品である事が前提とはなるが、正直ここに疑う余地はないだろう。そして事件の内容もまた同様に主人公が自分の死をもって経験している描写があるためこれも疑いようがない。

まさに「なぜ」にのみ考察を特化させた物語なのだ。
そして登場人物たちと琴音の関係性や琴音の周りの人間たちと段々と距離を近づけていく事で、主人公が自分の知らなかった琴音を知っていくなど人間ドラマとしての面白さもかなり濃厚、またそれ自身が考察要素にもなっており、ひときわ読み手の集中力を煽ってくる。

ちなみに大変悔しい事に今の所全く私はこの作品に対して結末の予測がついていない。
これからどんな展開を見せていくのか。
そして琴音に隠された事件に至る真実は一体どんなものなのか。

楽しみにこれからも読んでいきたいと思う。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

君が獣になる前に

2巻まで発売、1巻までレンタル中

著者:さの隆
出版社:講談社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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