2度読みで驚愕。複雑に絡み合う幼馴染達の思惑と行動。『おくることば』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│そして佐原は幼なじみの少女に「なんで俺を殺した?」と問いかける。

事故にあった高校生男子佐原が誰にも認識されない幽霊のような存在となり、自分がいなくなった後のクラスを歩き回る最初のシーンが印象的な本作。
仲の良かったクラスメイトに声をかける。
「俺が死んだときに一番泣いてくれてありがとー」など友達達に送る言葉を残していく佐原。そして佐原は幼なじみの少女に「なんで俺を殺した?」と問いかける。

この好奇心をくすぐる冒頭。
『おくることば』は佐原の事故をきっかけに、佐原と幼なじみ達との今と過去の事件が紐解かれていくホラーミステリー作品だ。

探偵役は、幼なじみとは違う事件まで佐原達とは何も関係のなかった幽霊のようなものが視えてしまう女子高生のメイ。
ただ煩いギャルのモブかと思えるようなキャラとして描かれていたメイだが、自分の名前の表題のついた第4話『〆イ』でその行動ひとつひとつに意味があったことがわかりそこからこの物語の中心人物となる。
唯一、佐原が視える彼女は佐原、そして佐原の傍らに立つ小さな女の子の幽霊のようなそれの想いを受け取り行動を起こしていく。

おくる言葉の登場人物たちは何を考えているかわからない者たちが多い。
複雑に色々な登場人物の思惑が絡み合い入り組む中で、探偵役であるメイは直線タイプで考えを素直に行動や言葉に出してくれる。
そんなメイに感情移入し彼女を通して物語を読んでいく事になるのだが…。
それ自体が作者の罠のひとつであったと物語終盤読者は気が付く事になる。

│2周目読み絶対推奨! ギャグのようなシーンに隠れた伏線に鳥肌

ミステリー作品は物語であると同時に好奇心を満たす謎解きゲームのような側面があり、それゆえにミステリーは最初から作られた演出や仕掛けがあると認識して楽しむモノだと思っている。

作者はあとがきで「この作品には色々なルートが用意されていた」と明かしている。
しかし最後まで読んで2話の冒頭メイの父親のシーンを読むと、しっかりと最後の答えにつながる伏線が組まれていたりする。かなりあっさりギャグのように描かれているが、非常に重要な意味を持つシーンとして成立しているのだ。
他の部分も確かに少し強引に感じる部分もあるにはあるが、説明は通るし、軸を壊してしまうほどのミスリードではないように感じた。
8話までルートが決まっていなかったとの事だが、この8話までの内容が成立するルートが何本もあったと思うと、もう全部のパターンを読みたかったと思わずにはいられない。

それほどまでにこの『おくることば』のラストは完成度の高い素晴らしいものだった。

全3巻でしっかりとまとめられている本作。
今はWEB広告で最注目を浴びている『おくることば』ぜひ一度読んで欲しい。
オススメは最後までに一気読み。
そして伏線の発見やミスリードの確認が楽しめるその後すぐの2周目読みだ!

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

おくることば

全3巻レンタル・販売中

著者:町田とし子
出版社:講談社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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