表紙イラストの本当の意味を知ったとき切なさが溢れる。『カイロスの猟犬』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】 Tweet │見た物がイメージするものがそこにある真実であるとは限らない。そんな事を改めて考えさせられる。 『カイロスの猟犬』1巻の表紙。布で顔を覆われロープで首が締まり目から血を出しているブレザー姿の男性が立っている。足は白くなり、手は包帯で覆われ手には鍵のようなものを持っている。 そして彼の目の前には牢のような籠に捕らわれ彼を見つめ涙を流す女性。その籠は歯車のような装飾がされておりカラフルでよりこのイラストの不気味さを強調している。 ページをめくり1話目の扉絵イラストもこれと似た意味合いのものになっている。涙を流しながら正面を見据え悲しそうに笑っている女性。彼女の方から胸にかけて彼女を抱きしめるように皮膚のない人体模型のようになった両腕が描かれている。バックには血の流れる歯車。 この2枚のイラストはこの作品を象徴するものになっており、このイラストの本当の意味を知ると悲しみが溢れ出す非常に切ないものなのだ。 この『カイロスの猟犬』はSFミステリー作品だ。1話は主人公である少年・春道が、とあるよく見る夢から「これはきっと何かの暗示だ!」と思い立ち、ずっと想いを寄せていた幼なじみの少女・双葉に告白をするところから始まる。 この告白、一度は玉砕するものの、それは色々な勘違いがあっての事で、実は二人はお互いに想いあっていたことがすぐにわかり文化祭を一緒に回る約束をする。そんな幸せいっぱいの中仲良く二人で教室へ戻ると、そこに待っていたのは2人以外のクラスメイトを惨殺している教師の姿だった。 『カイロスの猟犬』で描かれているこの事件はもっとずっと前から続いている壮大なものとなっている。それを知るとまたそれまでに描かれてきた物の意味、考察要素がさらに広がっていく。 この教師によるクラスメイト惨殺事件は非常に衝撃的で伏線や考察要素も1話の中に緻密に配置された濃厚なものになっているのだが、この事件も物語全体の大きなSFミステリーとしての事件の枠組みの中で起きる1つの案件でしかない。結論から言ってしまうと『カイロスの猟犬』はいわゆるタイムリープもの。何度もやり直しをする事で事件を解決するタイプの物語が軸にある。 しかしそこには制限やそのタイムリープの理由があり、そして今の段階が物語の時間軸上の最初ですらない。あくまで春道の物語の最初が1巻目であり、この事件はもっとずっと前から続いている壮大なものとなっているのだ。 こうして文字で書くと非常に難解な物語と感じるだろう。実際小説などで書かれていたならメモを取りつつ1つ1つの事柄を理解し考察しながら読み進め、ようやく物語の全体が見えてくるタイプのミステリーだったと思う。 しかし『カイロスの猟犬』は漫画表現として情報量のコントロールが非常に巧みにされている事で、難解なストーリーを自然と理解し楽しめるように構成されている。人物像、その裏にある心理的状況は場面場面の表情をわかりやすく大ゴマで描く事で瞬間的に理解できるようにしているし、セリフやモノローグでの説明を極力行わなくても状況認識を出来るように描かれていたり。難しい物語であるがゆえに、いかに簡単にそのストーリーを読者に伝えるかを細かく丁寧に考えながら描かれているのだ。これにより難解なSFミステリーの楽しさを多くの人が気軽に楽しめる作品になっている。 さて、最初に紹介した1巻の表紙のイラストだが、この表紙も物語を読む前と読んだ後で全く違う印象を受けるものになっている。では2巻目はどうだろうか? 2巻目はギャルっぽい金髪の女性が頭に手に持つカギを向けており、その向けられた頭の部分から怪物のようなものが噴出している。彼女は2番目の事件のキーマンとして出てきているクラスメイトなのだが、正直のこイラストにつながるような要素が今の所全く見えてきていない。特に意味のないイラストなのか。それとも1巻のように考察要素を含んだ1枚絵なのか。。。 まだこの作品を読んでいなかったという方もミステリー作品や考察要素、伏線の多い作品が好きなら一度は手に取ってみてもらいたいと思う。きっと満足していただけるだろう。 (文:仕掛け番長) │仕掛け番長のおすすめ本 カイロスの猟犬 2巻まで発売、1巻までレンタル中 著者:長田龍伯出版社:講談社 商品検索 商品検索 作品詳細 【コンシェルジュ】仕掛け番長 栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』 Twitter(@maron_rikiya)