明かされ始めた吸血鬼の美女、ナズナの過去から目が離せない。『よふかしのうた』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│恋を知らない少年と我儘で自由でだけと恥ずかしがり屋で純情な吸血鬼二人のよふかしの日々

みんなが寝ている夜、昼間は人だらけな街中も自分一人だけの特別な世界。 夜中に家を抜け出して自動販売機で買うコーヒーの美味しさは、昼間に飲むそれとは比べ物にならないと中学生の頃の私は思っていた。

「よふかし」には独特の不思議な魅力が詰まっている。

『よふかしのうた』はそんな「よふかし」の魅力とコトヤマ先生の人を魅了する漫画表現が合わさり物語を紡いだ作品なのだ。

主人公は不登校の中学2年生・夜守コウ。
眠れない日々の中でこっそりと抜け出した夜の世界で彼は、吸血鬼の美女・七草ナズナと出会う。コウはナズナと夜を楽しむ。そして、彼女に血を吸われる。
よくある吸血鬼ものならば、血を吸われれば吸われたものも吸血鬼になるのがお決まりだろう。しかしそうはならなかった。
吸血鬼になるには、その血を吸った吸血鬼に恋をしていなければならないのだ。

コウは吸血鬼になりたい、そしてそのために自分に恋をさせて欲しいとナズナに求める。
ナズナは好きになりたきゃ好きにしろと答えた。

そんな恋を知らない少年と、我儘で自由でだけと恥ずかしがり屋で純情な吸血鬼二人と、その二人を取り巻く吸血鬼と人間のよふかしの日々が描かれていく。

│そして彼女以外の吸血鬼たちそれぞれの恋やそこにある想いも見逃せないポイントだ

この作品が「夜をテーマに描かれた日常ものである」というイメージから読んでいない人が話していると多いように思うのだが、それは間違ったイメージだ。

確かに日常ものにある会話のテンポなどもこの作品の一つの大きな魅力ではあるが、この作品はナズナという吸血鬼である彼女自身の謎をめぐるストーリー漫画なのだ。
周りの登場人物たちと彼女の間にある関係性や、そこから見えてくる彼女の過去。そして彼女自身の謎。
どこを話してもネタバレになってしまうので詳しく語る事は避けたいが、その全てが何度も繰り返し読んでしまうほど濃厚なものになっている。

そして彼女以外の吸血鬼たちそれぞれの恋やそこにある想いも見逃せないポイントだ。

この作品に出て来る登場人物たちはまさにそれであり、物語が進んでいく中で初登場時の印象を(いい意味で)維持している人物は一人もいない。
時間をかけキャラクターの背景までしっかりと作品に描く事でどっぷり感情移入をさせ作品世界に高いレベルで没入させる。

ナズナの過去について衝撃的な展開を見せた9巻が非常に気になるところで終わっており、最新10巻は大きな盛り上がりを見せる。

コウとナズナ二人の夜はどんな未来にたどり着くのかこれからが楽しみだ。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

よふかしのうた

10巻まで発売、9巻までレンタル中

著者:コトヤマ
出版:小学館

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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