ひとコマに心を鷲掴みにされる!! 22年最注目作『ミューズの真髄』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│「どんなものでもいいものはいい」という感情。そしてそれを誰かに感じてしまった時にその誰かに好意を持つという感情

漫画を読んでいて自然と感情を登場人物に重ねてしまい、別に感動的でも何でもないシーンで想いが込み上げてしまい泣きそうになる事は無いだろうか?

今回紹介したい『ミューズの真髄』はまさにそんな作品だった。

美大に落ちた主人公「美優」のそれから5年後を描いた本作。
作品の始まり直後、飲み会の場に行く途中ホームレスが道端で売っていた500円のシルバーリングを買い、それを付けて行く彼女の姿が描かれる。
1巻の終わりにとある登場人物目線でこの飲み会の話が描かれるのだが、このシルバーリングに対しての登場人物の想いに私はとても感情移入をしてしまった。

そこにあるのは「どんなものでもいいものはいい」という感情。
そしてそれを誰かに感じてしまった時に、その誰かに好意を持つという感情だ。

誰の作成物だからとか、どこのショップで売っているからとか、希少価値があるとかそんな理由ではなく、単純に「いいと思ったからいい」という気持ちに触れた瞬間の一気に心を持って行かれる感情、そんな瞬間を描いた1コマに強烈に共感し、それこそ一気に心を鷲掴みにされてしまった。

暇があれば、むしろ暇が無くても漫画を読んでいるくらいには私は漫画好きだ。
そんな私だが、ここまで1コマに魅力を感じた作品は数えるほどしか無いと思う。
しかもヒロインが可愛いシーンでも見開きで描かれた物語を象徴するような感動的なシーンでもない。
本当に普通の一コマというのはまさに初めての経験かもしれない。

│感情は一言で表せるものではないという事を繊細にひとつひとつの表情で表現する

私にとってのそんな一コマを代表するようにこの『ミューズの真髄』は人の感情を登場人物に重ねさせることが上手い作品だ。
美優の表情は繊細に細かく感情を映し出しているし、コマ毎の絵の表現や全体の構成も登場人物の感情に合わせて描かれているように感じた。
笑顔も冷めた表情もそこにある多くの感情が合わさった結果になされるものであり、「そう見える顔」であっても心にある感情はそれぞれ違うという事をしっかりと繊細に表現し、それがリアルな読者の感情にリンクさせてしまう。

以前、映画とドラマの違いで映画はしっかり物語を見ようとしてみる映像作品なので映像での細かな感情表現が出来る。ドラマは流し見をする事を想定としなければならないのでセリフなどである一程度説明をしなければならないと聞いた事がある。

WEBTOONと漫画の違いというのももしかしたらそれに似た物はあるのかもしれないと思っているのだが、そういった意味でこの『ミューズの真髄』はまさに漫画としての表現を最大限に楽しめる作品だろう。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

ミューズの真髄

1巻発売中

著者:文野紋
出版:KADOKAWA

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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