ハッピーな恋愛映画であり、サイコホラーでもあるユニークな映画をみつけましたので今回はそちらをご紹介!
見えている世界が違うだけでこんなにも怖い映画があったのか、というのが観終わった後の感想でした。ジャケットの写真やオープニングは、コラージュ風の可愛らしい雰囲気でピンク色が印象的なポップなものでしたが、終わってみると「あれはなんだったんだ……?」と固まってしまうギャップがあります。
主人公のジェリー役を務めるライアン・レイノルズといえば、今やマーベル・コミックで大人気の『デッドプール』シリーズで有名ですが、本作『ハッピーボイス・キラー』が製作された2015年頃からコメディキャラは健在ですね。常にニコニコしているだけなのに、これから何かが起こって笑わせてくれるんじゃないかと期待してしまいます。
今回の役どころでは、さわやかで少し女性とのやり取りはぎこちない真面目な好青年という、見た目にピッタリなキャラクターでした。勇気を出して職場の気になる女性を食事に誘ってみるけど「すっぽかしちゃえ〜」で待ちぼうけを食らっちゃう悲しい男。しかし、このデートで誘っている中華料理屋さんがそれはそれは不思議でよくこんなお店に初デートで行こうとしたなというクセ強店です。60年代風の衣装に身を包んだ男性がひたすら歌って踊るステージを見ながら食べる中華料理……来てたら来てたでもう縁がなかったんじゃないでしょうか。
ここまではよくある職場恋愛ラブコメといった展開ですが、一人寂しく中華料理を食べた帰り道に、どしゃ降りの中でお目当ての女性とバッタリ会って……? 何か事件が起こるときはいつも雨ですね。
お相手であるフィオナはイギリスから来た職場でも一目置かれる美女。職場のパーティーでコンガラインをやろうと突拍子もない提案をする美女です。(「コンガライン」で検索していただくと、きっと一度は見たことがある画像が出てくるかと思います。犬が14匹並んでラインダンスをしているのがギネス記録なんだとか、かわいい!)サバサバした性格とブリティッシュアクセントの魅力で周りの男性はみんなフィオナの噂をしています。女子同士の会話を聞いてみると、イギリスで一悶着あって逃げるようにアメリカに来たような口ぶりで、これまた放っておけません。
そして2人目のヒロインのリサを演じるアナ・ケンドリックは安定した親しみのある存在感です。どんなジャンルの作品でも彼女が出てくるとホッと安心する何か不思議な魅力を感じます。最近はハッピーでコメディな作品の出演が目立ちますが『シンプル・フェイバー』や『ザ・コンサルタント』などのサスペンスでも違和感なく馴染む姿は流石です。
とは言いながら、私の中で彼女は『トワイライト』シリーズのジェシカのイメージがとても強いです。気遣いのできる優しい女の子のこのイメージがどの作品でもくっついてきているのが安心感の背景なのかもしれません。
前述しましたが、オープニングから序盤まではポップでカラフルで新しいガールズムービーのような画面が続き「これのどこがホラーなのよ」と疑ってしまいますが、20分を過ぎたあたりから一変しますのでご安心ください。雨の中、お店を探す2人に何が起こるのか?直接的な事件ではなく、ジェリーの内面に触れたあたりで作品を見る目が一気に変わります。
一緒に住むペットの猫と犬が当然にようにジェリーに話しかけてきているので忘れがちですが、猫と犬は本来しゃべらないんですよね。過去のトラウマから精神状態が不安定なジェリーは本当であれば薬を飲まなければいけないのですが、ペットたちの声が聞こえてきて孤独が薄れるからあえて薬を飲まなくなってしまっています。この声が聞こえるから原題が「The Voices」なのも納得です。
この悪循環を断ち切ろうと薬を飲む決心をしたことによって鑑賞者に衝撃が走ります。これ以降はそれまでのハッピークリーンな作品には二度と見られなくなる仕掛けが新しいです。
アメリカの田舎、ミルトンで起こるホラーサスペンスはひっそりとしているのに大胆で馴れ馴れしい。夢で聞こえる声は、自分では気づいていない心の声なのかもしれません。現実と虚構、自分ともう一人の自分。ギャップに振り回される映画を観たいときにとてもおすすめの一本です。
製作年:2014年
監督:マルジャン・サトラピ
出演:ライアン・レイノルズ、アナ・ケンドリック、ジャッキー・ウィーヴァー、エラ・スミス ほか
【Editor】septmersfilms
三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!
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