そのカップの血は誰の? 少女の人形をめぐる摩訶不思議な映画『血のお茶と紅い鎖』

│血のお茶と紅い鎖

<あらすじ>
この手作りのストップモーションのおとぎ話は、貴族の白い鼠とオークの下に住む素朴な生き物たちが、心の底から手に入れたい人形の周りに起こる闘争の物語を語っています。

│気味が悪くてかわいいアニメーション

先週の『エコール』に引き続き、ストレートにゾッとする怖い作品ではなく一癖あるホラー映画をご紹介いたします! 今回はアニメーション映画『血のお茶と紅い鎖』です。Christiane Cegavske監督のこの映画は2006年に制作されたもので、人形を使ったストップモーションアニメで制作されています。

皆さんはヤン・シュヴァンクマイエルという芸術家をご存じですか? 私は元々子どもの頃にヤン・シュヴァンクマイエルの作った「不思議の国のアリス」の絵本を読んでいたこともあり小さい頃から知っていたのですが、大人になってから映像作品があると知って調べてみると「永遠の鬼才」「シュールレアリスムの代表」という存在でびっくりしました。シュールレアリスムとは「理性による一切の制約や先入観を離れた思考の書きとり」と定義されている芸術運動で、ルネ・マグリットのスーツ姿の男性が空からたくさん降ってくる絵のような作品が有名ですが、不気味でひと目見ただけでは理解できないようなものをイメージしていただければ分かりやすいかと思います。
不気味な人形たちと実写のアリスが登場する『アリス』では不思議の国に迷い込んだアリスの周りは本当に不思議なことだらけ。特にアリスの頭の上で焚き火をされるシーンが忘れられません。

そんなヤン・シュヴァンクマイエルのアニメーションを彷彿とさせるのが、この『血のお茶と紅い鎖』です。実写のシーンから始まり、仮面? を被った不気味な女が薄暗い部屋でタイトルである「Blood tea and red strings」と書いてあるケーキを切っています。そのケーキからなんと気持ち悪い! 虫がもそもそと出てきます。食べ物と虫の組み合わせってこんなに気持ち悪いんですね、ただ道端にいるのとはわけが違いました。そんな実写のシーンから一転、ケーキの中から1つの卵が出てきて、その卵をポットの中に入れることでシーンは人形アニメーションへと変わります。
ある日、白いネズミがコウモリ(実際には謎の生き物のようですが、私はコウモリに見えてしまったのでこの記事ではコウモリということにしておきます)の元に、少女の人形を作ってくれという依頼をしに行きます。丁寧に人形を作っていたコウモリは完成した少女をいたく気に入ってしまい、ネズミが取りに来てもお金を受け取らず渡さないと言い張ります。その日、あるコウモリが釣りをしていると川上から卵が1つ流れて来ました。コウモリはそれを少女の人形のお腹の中に入れ、お腹を赤い糸で縫います。そして大きな木のお家の外に磔のようにして少女の人形を飾っておくのでした。
その夜、やっぱり人形がほしい白いネズミたちがやってきて木に飾ってあった人形をこっそりと持って行ってしまいました。朝起きて人形がないことに気づいたコウモリたちは取り返す冒険に出かけるのでした…!

│謎すぎる世界がクセになる

白いネズミたちやコウモリたちなど、出てくるキャラクターの見た目はどれもかわいく音楽も柔らかい音を中心に使っていてとても心地がいいはずなのですが、ストーリーがあまりにも謎すぎて不安になってくるのが不思議です。
まず少女の人形の顔怖すぎ問題。ネズミとコウモリが取り合う魅力的な人形のはずなのに顔があまりにも怖すぎる。オープニングのケーキを切っていた女とそっくりです。さらには川から流れてきた卵を、人形の腹を掻っ捌いて中に詰めこむ始末。この卵はなんなのか? よく卵は生命の象徴のように使われますが、人形に卵を埋め込むことで人形に生命を宿したかったのかもしれません、ピノキオと魔法使いのように。

他にもコウモリが人形を探す道中で不思議な建物の中に誘い込まれ、大きな食肉植物に殺されそうになるシーンがあります。ここでカエルの魔術師? に助けてもらうのですが、その助け方が食肉植物にコウモリの代わりに心臓を食べさせるというもの。え? 心臓? なんでバックからポンポン心臓出てくるのこの人? そしてなんでそんなに優しくしてくれるの? カエル氏の心の内は読めません。

コウモリの家の周りに咲いている顔がついた笑う花はなんなのか? とか、白いネズミたちが一心不乱にやっているなんの絵柄も付いてないカードゲームはなんなのか? とか。考えれば考えるほどこの世界に心が囚われてしまって出てこられなくなってしまいそうです。いくらでも考察の仕方があるまさしくみる人によって物語が変わる作品といえるでしょう。
彼女の他の作品がYouTubeに載っていたため少し覗いてみましたが、相変わらずの嘴キャラと赤と白の縞々タイツでその要素はブレないんだ…とさらに謎を呼んでしまうので迷い込みたい方はぜひ。

鑑賞し始めた頃は、ヤン・シュヴァンクマイエルに似ているな〜と感じていましたが、小道具の細かさや草がモリモリした感じは『森のレシオ』という作品にも似ているなとも思います。こちらは村田朋泰さんという日本の方が制作をしていて、私はNHKのプチプチアニメで出会いました。髪の毛も服も真っ白な少女レシオと、同じく真っ白な毛で覆われたモジャモジャのジャモンの住む世界は真っ白でそこかしこにキノコがニョキニョキと生える国。この作品ともどこか似ていて白い世界と黒い世界で対比されたもののようでした。アニメーション作品の世界はその独特の設定からつながっているように感じてしまいます。
完全に『アリス』の作品に引っ張られた考察ですが、この『血のお茶と紅い鎖』のお話は実はアリスが帰ってしまった後のワンダーランドの話で、ネズミもコウモリもみんなアリスが恋しくて似た人形を作って愛でていたのではないかななんて考えてしまいます。コウモリは卵を、ネズミはハートのトランプをアリスにあげることでまた戻って来てほしい、生命(心臓)をあげたいと思っていたのかもしれません。そう考えると切なく悲しいお話です。
どうぞ皆さんもこの不思議な作品を鑑賞して、ご自身の考察と共にこの世界に溺れてみてはいかがでしょうか?


血のお茶と紅い鎖

製作年:2006年
監督:Christiane Cegavske

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【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

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