光る扉の先にあるものは?灰色の小さなオオカミと一緒に詩と記憶の旅に出る…短編映画『話の話』

│話の話

<あらすじ>
トルコの詩人ナジム・ヒクメットの同名の詩をもとに、ロシア子守唄に登場する狼の子を狂言回しに、ノルシュテイン自身の記憶を色濃く反映した映像叙情詩となっている。ストーリーらしきものはあるようでなく、様々な日常の断片が、時にユーモアのある、時に悪夢的なイメージとして観客に強いイメージをもたらす。

│ロシアを代表する82歳の現役アニメーター

みなさんはユーリ・ノルシュテインさんという方をご存知でしょうか。1941年の第二次世界大戦中に生まれ、今年でなんと82歳になる現役のアニメーターさんです。

アニメーション作品好きな方には当たり前のことかもしれませんが、宮崎駿さんや高畑勲さんのような数々のジブリ作品を作り上げてきた方々が敬愛する伝説のアニメーターなのです。

手がけた作品は多くはありませんが、その1つ1つはとても印象深くどれを観ても心を打つものばかり。それもそのはず、彼の作品はなんと全てアナログ! 手作業で切り絵を作って台に並べて撮影をして…というストップモーションアニメともまた違った手法で制作されています。

制作現場の様子を取材されている写真がいくつかありますが(以前には日本のテレビ番組で偶然インタビューされていたとか!)、そのアトリエは無数の切り絵が散らばる凄まじい状況でした。作品はどれも短編ですがそれでもかなりの作業時間をかけて作られているんだろうな……と脱帽してしまいます。

いくつか作品を拝見しましたが、中には西洋の壁画に使われるフレスコ画を元に作られたものもありました。ご自身のイラストだけではなく、光や少ない色で表現されるシーンは迫力があり唯一無二な存在であることが頷けます。

こうした緻密で繊細なアナログ制作現場も去ることながら、さらに彼を伝説にしているのが『外套』という作品を38年間制作しているというエピソードです。しかも未だ完成しておらず、完成の目処は立っていないとか……! ロシアの有名な文学作品を切り絵でアニメーションにしたいというとんでもない創作意欲、80歳を過ぎてここまで何かにのめり込める人生が素晴らしいです。

その彼が作った作品の中で、今回は『話の話』についてご紹介します。

│怖かわいいキャラクターとダークな世界

よく「詩的な作品」という表現がありますが、彼の作品はまさしく「詩」でした。映像作品ではありますが詩になっているような、いろいろなシチュエーションのシーンが繰り返し出ては消えて、また違うものが始まったかと思うとまた消えて。作品に出てくる小さなオオカミのように、気付けば光に吸い寄せられて1つ1つのシーンに魅せられてため息が出てしまいます。

全体を通して砂っぽい、粒子の細かい点で描かれたようなイラストでそれがゆらりゆらりと変化していきます。始まりは人間の赤ちゃんが授乳されているところをこっそりと覗く小さなオオカミ。ロシアの古い民謡で、日本でいう「ねんねんころり」のような子守唄をお母さんが歌っているのですが、その歌詞がこんな感じ。「ねんねしないと小さな灰色オオカミの子が来るよ。あなたの脇腹を捕まえて森に連れていくよ。」つまりこの状況、オオカミが赤ちゃんを狙っている……? とも思えますが、このオオカミちゃんもなかなかキュートな見た目で弱々しくて、まさか赤ちゃんを連れ去ってしまうようには見えません(補足の情報で、「この歌どこかで聴いたことあるな〜」と思っていたのですが『Dead By Daylight』というゲームに出てくるハントレスという殺人鬼が鼻歌で歌っている曲と同じでした。彼女はこのロシアの民謡をモチーフにしているキャラクターのようで森に連れていくぞ〜と歌っているということだったのか! と1人で繋がりを感じて嬉しくなっていました)。

すると場面は1つの家に変わって、その扉から光が煌々と漏れています。扉に近づいていくと、また違ったタッチのお話が始まります。縄跳びをしている少女、書き物がうまく進まず? 楽器を演奏する男性、お洗濯と子守りに忙しそうな女性が映ります。少女の隣には牛のような大きな生き物が、男性の近くのテーブルには猫のような生き物がそれぞれいます。動きを見ると、この生き物は少女と男性のそれぞれの心の中を表しているのか?「1人で遊ぶのつまんないよ!」とでも言いたげな不満そうな牛さん。「楽器弾いてないで書かなきゃダメだよ!」とでもいっているような猫さん。そこに大きな魚を持った男性が登場します。

また画面は一転して、風の中でふわふわと舞っているテーブルクロスの様子に切り替わります。風はだんだん強くなり、テーブルに乗っていたグラスともどもテーブルクロスを吹き飛ばしてどこかへいってしまいます。その突風は列車が通過するために起きたもののようではありますが、風が強すぎて外に出ていた机や椅子も粉々に。家の庭に積まれています。

というように、どんどんと展開が入れ替わり登場人物も季節も全てが切り替わっていくのは、まるで眠っている時に夢をみるかのような感覚です。脈絡もなく場面は変わっていくけど「あれ、この家どこかで見たな」という既視感。

戦争に向かう男たちを描くシーンも出てきますが、これは戦中に生まれた彼ならではです。『25日・最初の日』や『ケルジェネツの戦い』のような他の作品でも戦争に向かう人々を描いていますが、どれもその時の様子が伝わってきて悲しく歴史を感じます。『話の話』のインタビューでは、こうしたいくつものシーンは自身の記憶の断片をモチーフにしているということを語っているのだとか。知らないはずなのにどこか懐かしいのはそのせいなのかもしれません。

ダークファンタジーのような、可愛くてちょっと怖い?作風が好きな方にはブッ刺さると思いますので気になる方はぜひご鑑賞ください!


話の話

製作年:1979年
監督:ユーリ・ノルシュテイン

septmersfilms

【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

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