美しい森の中で育まれるのは、騙しながら勝ち取る愛…映画『ロブスター』

(C)2015 Element Pictures, Scarlet Films, Faliro House Productions SA, Haut et Court, Lemming Film, The British Film Institute, Channel Four Television Corporation.

│ロブスター

ここでは、45日以内にパートナーを見つけなければ、あなたは動物に変えられます。

<あらすじ>
独身者は、身柄を確保されホテルに送られる。そこで45日以内にパートナーを見つけなければ、自ら選んだ動物に変えられ、森に放たれる、そんな近未来。独り身になったデヴィッド(コリン・ファレル)もホテルに送られ、パートナーを探すことになる。しかしそこには狂気の日常が潜んでいた。しばらくするとデヴィッドは“独り者たち”が暮らす森へと逃げ出す。そこで彼は恋に落ちるが、それは“独り者たち”のルールに反することだった―。

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今回はこんな未来は嫌だ! なSFジャンルの映画をご紹介いたします。その名も『ロブスター』というこの作品は2015年に製作されたもの。
この世界では死別でも離婚でも、理由はなんであれ独身になると強制的にある施設に送られます。そこでは45日以内にパートナーを見つけて結婚をしないと動物に変えられてしまう、という絶対的なルールがあり参加者は全員強制参加させられます。
ただし、例外として施設から森に逃げていった独身者を麻酔で仕留めて持って帰ってくると1人につき1日滞在期間を延ばすことができ、作中にも歴代100人以上連れて帰ってきた人は100日以上滞在期間を延ばしていました。
なかなか相手に恵まれない人はこの「ハント」をがんばることで期間を延ばし、理想の相手とうまくいくようにしなければいけません。

施設にいる間、男性は青いシャツにグレーのパンツスタイル、女性は青いカーディガンに花柄のワンピースというみんな同じ服装をさせられます。ダンスパーティーの時も、男性はスーツ、女性は花柄のホルターネックのワンピースと全員全く一緒。他の人と違っているのは顔や身長、体型のみ。
紋切り型に押し込められた彼らは、洗脳に近いような講習も受けていました。女性1人で歩いている場合は男性に襲われてしまうのに対して、女性が男性と一緒に歩いている場合は何も事件が起きない…女性は男性と一緒に歩きましょう! というような寸劇などもはやコントのよう。異様な空気の中で独身者は相手を探していくのでした。

本作の題名である『ロブスター』とは、主人公が施設でパートナーを見つけられなかった場合になりたい動物として挙げていました。ロブスターになりたい理由は100年生きられるから、死ぬ寸前まで生殖行動ができるから、らしいです。全く共感はできませんが、確かに三者三様でどんな動物になりたいか? は変わってきそうですよね。

ストーリーが進んでいくうちに動物になると決めた人のシーンがあるのですが、そこで施設の人が「最後の日は規則で自由にしてもらうことになっているの。オススメは動物になってからできないことをした方がいいわよ、散歩なんてこれからいくらでもできるから。例えば古典文学を読むとか」というようなことを伝えていました。
このシーンを見てからずっと疑問となっているのが「動物になってからも人間の頃の記憶があるのか?」が語られていない点です。
作品が始まって一番初めのカットでは女の人が車を運転し、その後険しい顔をしながら道端にいたロバを撃っていました。この時ロバは逃げることなく、まるでロバのようにただ立っているだけ。この女の人とロバの関係は元恋人…? それとも家族??いろんな解釈ができるシーンから始まっていて面白いです。
ここから察するに動物になってしまうともう人間の頃の記憶がなくなってしまうんだと私は考えます。
そうなると人間である最後の日に何をするか? の重みがかなり変わってきますよね。

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物語の前半は前述の通り施設の中で必死に相手を探す様子が語られますが、後半になると施設から逃げ出し舞台は森の中へ移動していきます。森へ入ると全く別のお話になってしまったようにガラリと様子が変わりダークな雰囲気に…。森の中には動物に変えられてしまった人なのでしょう、フラミンゴやラマなどの珍しい動物が歩いています。
この森のシーンもそうなのですが、施設の周りの湖のような風景など一貫してこの作品は映像がとても美しく、人間たちが織りなす歪な愛を浮き上がらせています。

今作の監督であるヨルゴス・ランティモス監督の作品はこうした人間が抱える「歪さ」や「不自然さ」をテーマにしていると感じます。他の作品で過去に鑑賞した『聖なる鹿殺し』では神話をもとにした凄まじく作り込まれた人間関係を描いたものや、『女王陛下のお気に入り』では実在の人物をもとに歴史物でありながら執念や嫉妬のような感情が主軸にしていて、こうした感情を描いている特徴がありました。
今回も人間同士の関係性にフォーカスしながら、どうやって相手をその気にさせるか、ずるい手を使いながら騙し騙される様子が印象的です。

作中では大体の人がパートナーを見つけられなかった場合、犬になりたがるとありましたがあなたは何になりたいですか?私は梟か熱帯魚がいいです。見た目が可愛いし、空を飛んだり海を泳ぐのも楽しそうですし。そうなると人間最後の日は何をしたいか?も考えてしまいますよね。動物になってしまったら本も読めないし映画も観られないし忙しい1日になりそうです。
こんな世界にはなってほしくないという願いを込めつつ、皆さまにオススメします。


ロブスター

製作年:2015年
監督:ヨルゴス・ランティモス
出演者:コリン・ファレル、レイチェル・ワイズ、ジェシカ・バーデン ほか

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【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

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