真っ白な雪を覆うのは真っ赤な粘土か、それとも誰かの血…? 映画『クリムゾン・ピーク』

(C) 2016 Universal Studios. All Rights Reserved.

 

│マティアス&マキシム

絢爛豪華な心霊屋敷が、人の心を狂わせる。

<あらすじ>
深紅に染まる山頂(クリムゾン・ピーク)にそびえ立つ屋敷の、怖ろしくも美しい秘密とは…?
イーディスは、幽霊を見ることができる。初めて見たのは10歳、死んだ母親だった…
やがてイーディスはトーマスと恋に落ちる。彼女の父親の不可解な死をきっかけに二人は結婚、トーマスの姉ルシールと一緒に屋敷で暮らすことに。
冬になると地表に露出した赤粘土が雪を赤く染めることから、【クリムゾン・ピーク】と名付けられた山頂にある広大な屋敷。
イーディスが新たな生活に慣れるにつれ、深紅の亡霊たちが姿を現し、彼女に警告する。
「クリムゾン・ピークに気をつけろ。」
果たして、その言葉の意味とは?そして、この屋敷に隠された秘密とは?

│ホラーじゃなくてロマンスなんですね

そろそろ50以上記事を書いていると、私の好みの偏りが出てきてしまいますね。またしてもギレルモ・デル・トロ監督作品です。大好きです。

今回ご紹介するのは2016年に公開された『クリムゾン・ピーク』という作品で、ティム・バートン監督作品『アリス・イン・ワンダーランド』でアリス役を演じたミア・ワシコウスカが主演を務めます。
ミアが演じるイーディスは、10歳の頃から幽霊が見えるようになった不思議な体質の女の子でした。初めて幽霊をみた時に言われてからずっと心に残っていた「クリムゾン・ピークに気をつけて…」という言葉。意味に気づいた時にはもう手遅れになってしまっていました…。

作中、何人もの幽霊が出てくるのですがこのビジュアルがなかなかに怖いです。廊下の先からのたのたと歩いてくる様子や手を伸ばしながら何かを言っている顔、全てがおぞましさ満開です。
この幽霊のビジュアルと時代設定からジャンルはゴシックホラーかな〜などと思っていたら、なんと公式でゴシックロマンスとカテゴライズしていました。
たしかに序盤は社交パーティーで、イーディスが男性からダンスを申し込まれて一緒に踊るなどロマンスシーンもたくさんあり、まるで『ジェーン・エア』のような古典ロマンスを思わせるシーンがありました。

ですが、そのアメリカでのセピア色っぽい柔らかな日々から一変して、イーディスがイギリスのアラーデールに移住してからは青白く雪に囲まれた寂しい風景になっています。
このイギリスの家での日々は全くロマンスとは言えないような…と思いつつも、これは愛のいろんな形を表現したお話なのですね。アリ・アスター監督が『ミッドサマー』を失恋映画と言っていたのと同じ感覚なのですね、きっと。

│精巧にデザインされた小道具とモチーフ

ギレルモ監督といえば、ストーリーもさることながら出てくるキャラクターが着ている衣装や、出てくるモチーフまでもものすごく作り込まれています。
例えば、イーディスがイギリスに移ってから住んでいるお屋敷は全部一から作り上げたセットなのだそう。ゴシック様式で暖炉や柱まで細かな装飾が施されたインテリアは隅から隅まで可愛くて「これが全てセット…」と度肝を抜かれてしまいます。ぜひお屋敷の中までチェックしてみてください!

他にもイーディスや、イーディスの夫となるトーマスの姉ルシールが着ているドレスがどれも素敵なデザイン且つそれぞれのシーンで意味が込められたものになっています。

アメリカにいた頃のイーディスはとてもカラフルなお花のモチーフや、金色のようなピカピカした色味のドレスをよく着ていたのですがイギリスに移ってからは白色や青っぽいものなど明らかに服の彩度が落ちていることが分かります。入居当日のヒラヒラとしたお花がたくさんついた服と、お屋敷の色が全くチグハグなシーンがあるのですがこれが分かりやすいですね。明確にイーディスが「異物」のように画面に写っています。反対に義姉であるルシールの衣装は黒や深い緑など暗い色が多く、髪の毛の色まで真っ黒です。まるで家の内装をそのまま反映したかのようなデザインで、彼女自身も家の一部と錯覚してしまうような出立ち。衣装デザインの担当者ともかなり話し合って決めたというこうした衣装にも注目です。特に、イーディスのドレスは肩の部分がもふもふで可愛いものが多いので見ていて楽しいですよ。

モチーフといえば、今回で確信をしたのですがギレルモ監督、水に流れる血と髭剃り、あと顔を怪我するのが好きなのではないでしょうか。どれもこれも『シェイプ・オブ・ウォーター』や『パンズ・ラビリンス』などの他の作品にも必ず出てきています。顔の怪我で言えば『シェイプ・オブ・ウォーター』ではソ連側のスパイをしていたドクターが追い詰められた際に、顔を銃で撃たれて頬から血が噴き出ていましたし、『パンズ・ラビリンス』ではオフェリアの父が口元を切られて口裂け女みたいになっていました。今回もトーマスの顔面にナイフがぶっ刺さっていたので、顔を怪我することが何かのメタファーになっているのでしょうか、監督のこめた意味をもう少し考えてみたいところです。
そして、監督の作品といえば虫もよく登場するのですが、今回は蛾がよく登場していました。エンドロールでも蛾のアップが映っていましたし、何か意味があるのかな…?と調べてみたところ、蛾は嫉妬や好奇心のモチーフとしてよく使われるのだそう。蝶と比べられてしまう嫉妬や、光に近づいてしまう好奇心などからそうなっているらしいのですが、なるほど、『クリムゾン・ピーク』を観た後に考えると納得のモチーフです。

最後のエンドロールでこのお話は「イーディス・カッシング著」と出てきます。小説を書いていつか作家になりたいと思っていたイーディスが書いたのがこの『クリムゾン・ピーク』という物語ということです。小さな頃から幽霊を見ることができたイーディスにとって幽霊は怖い存在ではなく、むしろいい人たちだった、という考えがうかがえるストーリーとなっていました。(ビジュアルは最高に怖いけど)
普段悪い幽霊が出てくる映画ばかりを観ている人が、ちょっと心が軽くなる(かもしれない)ゴシックホラー…もといゴシックロマンス映画ですので、ぜひご覧ください!


クリムゾン・ピーク

製作年:2015年
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演者:ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャスティン、トム・ヒドルストン ほか

septmersfilms

【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

Twitter(@septmersfilms)

一覧に戻る