ベスト映画ランキングの常連、時を超えて愛されるアカデミー賞脚本賞受賞作品…映画『市民ケーン』

│市民ケーン

<あらすじ>
暗く荒廃した大邸宅「ザナドゥ城」の幾つものショット。そしてその一部屋で屋敷の主、かつて37の新聞社と2つのラジオ局を傘下に収めた新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが小さなスノードームを握りしめ、「薔薇のつぼみ(rosebud)」という謎の言葉を残して息を引き取った。ある会社が彼の生涯をまとめたニュース映画を制作しようとするが、そのありきたりな内容に不満を持った経営者ロールストンは、編集のジェリー・トンプスンに「バラのつぼみ」という言葉にはきっと深い意味がある、それを突き止めケーンの人物像を探るようにと命じた。

│史上最高の作品と称される映画とは

「アカデミー賞」といえば今や誰しもが知っている映画賞ではありますが、その歴史は1929年に映画芸術科学アカデミーという業界人の団体が行う夕食会の一環から始まったそうです。もう少しで100周年ということでより盛り上がりを見せていますが、その初期の作品はどんなものだったのかな〜と振り返ってみたくなりました。

アカデミー賞は主演女優・男優賞の他にも衣装デザイン賞や、音響など映画に関する様々な賞に分かれており、その数は20以上にもなっています。第1回の作品賞を受賞している『つばさ』は現在でもレンタルで鑑賞することができます。100年近く前に選ばれた作品が、今も変わらずに観ることができるなんて素敵ですよね。他にも第3回作品賞をとった『西部戦線異常なし』は2022年にリメイクされるなど、受賞作品の魅力は時代を超えて人々の注目を集めているようです。

今回はその中で、「史上最高の作品」と評されている第2回脚本賞受賞作品『市民ケーン』について紹介をしていきます。この作品は1941年に制作されており、主演と監督をオーソン・ウェルズさんという方が務めています。ある男性が歳をとり意識を失う最後の一瞬に「薔薇のつぼみ」と言い残してこの世を去ってしまった。この男性というのが通称ケーンと呼ばれる大金持ち。世界中から集めた宝石や美術品、珍しい動物などをザナドゥと呼ばれる大豪邸、というかもはや城にコレクションしています。潰れかけの新聞社の立て直し、政治への進出、大統領の姪との結婚と何をするにも注目を集めていた彼が最後に残した「薔薇のつぼみ」という言葉の意味とは?彼の死をきっかけに人生をまとめた動画作品を制作していた新聞社のメンバーがこの謎の解明に奔走します。

│現在にも通ずる撮影技法と演出

なぜこの作品が史上最高なのか? たくさんのコメントがありますが、1つは1940年代という映画制作黎明期にこの完璧な構成の作品をいち早く作ったということなのかもしれません。同じ時期の作品というと『オズの魔法使い』や『カサブランカ』、先日記事にもまとめました『そして誰もいなくなった』のような名作がありますが、どれもある事柄が起こる1日〜数日を時系列に沿ってストーリーが進んでいます。お話がスタートしてから主人公や登場人物の視点で同じように時間を過ごす、という流れが一般的です。

ところがこの『市民ケーン』では、一番先にケーンの人生をまとめた動画として略歴を語った後、現在にシーンが映ったかと思うと、過去を探る新聞記者の調査に合わせて「真実の過去」のシーンとなって現在と過去を行き来するような構成になっています。今となってはこうした過去と現在が交互に入ったりする構成は珍しくありませんが、1940年代という時代ではこの回想シーンの構成は革新的なものでした。

完璧な構成と合わせて絶賛されるのが撮影技術です。有名ではありますがパンフォーカス(ディープフォーカス)と言われる、画面に映る遠いものも近いものも全てにピントが合っているように見せる技術が印象的でした。ケーンが小さい頃の回想シーンで、手前で母親と銀行員が話していて奥の窓の外で子どものケーンが雪遊びをしているというカットがあります。手前の大人チームが動いても何を話していても構わず外で元気に遊ぶ様子を映すことで、ケーンのキャラクターとその背景という対比が生まれていました。こうした撮影技術の活用は、現在制作されている映画に多大な影響を与えているのだとか。複数の映画監督が自身が選ぶベスト映画にこの作品を挙げるほどです。

この他にも、作品の後半では鏡を使って複雑な表現をしていたり、手前に立つ人の影を利用して後ろにいる人が弱く写るような効果を演出していたりと、様々な手法を使って場面に効果をもたらしています。こうした細かな演出やストーリーの面白さから、現在に至るまでずっと人気が衰えていなかったのかもしれませんね。2020年にはデヴィット・フィンチャー監督が『Mank/マンク』という伝記映画を制作しました。これは冒頭で触れた主演・監督を務めたオーソン・ウェルズさんと一緒に脚本を担当したハーマン・ジェイコブ・マンキーウィッツさんという人が『市民ケーン』を制作したときの裏側を舞台にしています。後世にこうした伝記映画が制作される作品は愛されている証拠なのではないでしょうか。

最後まで観終わると深く心に来るものがあり、改めて最初の略歴ムービーを見返したくなります。私は観終わった瞬間に最初から繰り返し再生にして「なるほどなぁ」としみじみしました。「薔薇のつぼみ」とはなんだったのか、ケーンが歩んだ人生を振り返りながら一番大切なものについて考えさせられます。


市民ケーン

製作年:1941年
監督:オーソン・ウェルズ
出演:オーソン・ウェルズ、ジョセフ・コットン、ドロシー・カミンゴア、エヴェレット・スローン ほか

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【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

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