ファッションデザイナーが手がける、「いま」と「未来」を色で表現した映画『シングルマン』

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│『シングルマン』

―愛するものを失った人生に、意味はあるのか。―

<あらすじ>
ファッションデザイナーのトム・フォード初監督作。コリン・ファース主演映画。1962年のロサンゼルス。パートナーのジムを亡くした悲しみが癒えず、ジョージは自殺を決意。その最期の日に予想外の出来事が起き……。

│どのシーンを切り取っても絵画のような完成度

ショッキングなシーンから始まり、自殺という重たいテーマを扱う本作ですがその重たさとのバランスを取るかのような登場人物たちの身のこなしの軽さに注目です。
コリン・ファース演じるジョージの一挙手一投足に色気が香ります。
一筋涙をこぼす表情、シグネットリングをはめた小指、愛おしそうに見つめる視線など。

特にプラダを着た悪魔をご覧になった方は覚えているであろう、朝の身支度をするオープニング。この男性版が行われているのですがおろしたてのシャツを着て、革靴を磨く姿はなんとも紳士を覗き見しているようで背徳感たっぷりです。

│美の変態が創り出す美しくも毒々しいシーン

序盤になんでもない日常がスローモーションになるシーンがあるのですが、ここが美を追求する変態って感じで最高です。出てくる服、小物、車や家具まで全てが洗練されたものしか画面に収まっていない。トムフォードの思う「美」が溢れ出ています。
この完璧さはトムフォード監督の別作品「ノクターナル・アニマルズ」でも感じられますので、「シングルマン」がハマった人にはぜひ観ていただきたいです!

スローモーション以外にも、デザイナーならではの色彩に込めた意味があります。
オープニングから全体的にセピアっぽい、色褪せた色彩がメインですが、ところどころで鮮明に彩度が上がっているポイントがあります。

これはジョージの感情に合わせて彩度が上がったり下がったりしていることがお話の流れからうかがえます。
過去はモノクロに近く、現在はセピア、あるはずの未来は彩度が高く。
デザイナーであるトムフォード監督にしかできないおしゃれな色遊びが感じられます。

服や小物の色にも意味が?と深読みし過ぎかもしれませんが、白いニットに白いパンツで無垢さの象徴のような姿で登場したニコラスホルト演じるポッター君。

最初の出会いの時にカフェテリアでガムを買うシーンがあるのですが、そのガムの色についても
「赤の暗示は?」
「激情、欲望」
というやりとりがあるのです。
その後、ジョージの家をポッターが訪れた時も部屋全体の色は赤、窓から見上げた月も赤、暖炉にも赤々と燃える炎が見えます。
イノセントなイメージから激情の源に変わっていくポッター君、を表しているんじゃないかな〜と感じております。

│人生の教訓になるような会話の数々

後半30分のジョージとポッターの会話には心に留めて思い出していきたい言葉がたくさん詰まっています。
その中から1つだけ書き出していきます。

ポッターが「歳をとって経験を積めば、みんな利口になる」はずだと、年上のジョージに言うと「嘘だ、みんな愚かになる」と間髪入れずに返します。ジョージ曰く「経験とはその出来事で何を得たか」であると。

経験は確かに、歳をとって人生を歩めば誰もが積めるものである。しかし、その経験から何を得たかによって利口になるか愚かになるかが変わる。多くの人は愚かになっていくものだ、と受け止めました。

みんながみんな歳をとったら無条件に賢く、要領が良くなるわけではありません。
私もこんなことがさらっと説得力を持たせて言えるイケてるマダムになりたいものです。


シングルマン

製作年:2009年
監督:トム・フォード
出演者:コリン・ファース、ジュリアン・ムーア、マシュー・グード、ニコラス・ホルト 他

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【Editor】septmersfilms

三度の飯よりホラー好き。ホラーがないと夏が始まらないと思っている。たまにおしゃれ映画・アニメーションも嗜むが、基本的にゾンビ映画をみることで心を癒している。Twitterでは映画以外にも本業のマーケティング関連記事もつぶやきます! ぜひチェックしてください!

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