冲方丁が語る『攻殻機動隊』と『ブレードランナー 2049』が描く“一歩先のSF”

冲方丁

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1989年に士郎正宗が発表した、日本が世界に誇るSF漫画の金字塔『攻殻機動隊』。2017年にはスカーレット・ヨハンソン主演でハリウッド実写版が作られるなど、誕生から25年以上の時を経てもなお世界中のカルチャーシーンを刺激し続けている。そしてこのほど、“攻殻機動隊”結成の前日譚を明らかにする『攻殻機動隊ARISE/新劇場版のBlu-ray BOXが登場。黄瀬和哉が総監督を担い、シリーズ構成は作家の冲方丁、アニメーション製作はProduction I.Gという、強力な布陣で伝説的作品に挑んだ完全新作シリーズだ。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

冲方丁にインタビューし、数々のSF作品で描かれた世界が現実的なものとなる今、どのようにSFと向き合っているのか。『攻殻機動隊』と『ブレードランナー 2049』に通じる“SFの新たなる可能性”について話を聞いた。

『攻殻機動隊』は、作家としても「教科書のような存在」

『攻殻機動隊』の新たなるプロジェクトで、大役を任された冲方。『マルドゥック・スクランブル』シリーズなどSF作家としても知られる彼にとって、『攻殻機動隊』は「教科書のような存在だった」という。「作家としてデビューするちょっと前に『攻殻機動隊/GHOST IN THE SHELL』が公開されて。“SF冬の時代”とも言える時代に、あえてSFで風穴を開けた作品ということで、原作も映画もその後のTVアニメ版も、僕にとっては教科書のような存在でした。その頃はすでに小説でやっていこうと思っていましたので、『攻殻機動隊』を観て“これをちゃんと身につけなければ”と刺激を受けたんです」。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

だからこそ、今回の抜てきには「恩返しのような気持ちもあった」そう。「“お前がやれよ”と言われたときに、恩返しのような気持ちもあって。1作ごとに“何もかもをやり尽くす”という気持ちもある一方で、バトンのような役割もしなければいけないと思った。『攻殻機動隊』という大きなコンテンツが今後も続いていけるよう、新しい世代への橋渡しをしなければいけないと思っていました」。

草薙素子と公安9課のメンバーは、白雪姫と7人の小人!?

ヒロイン・草薙素子が、“攻殻機動隊”と呼ばれる公安9課を結成するまでの物語を描く本シリーズ。黄瀬総監督と話し合い、「かわいい素子、かわいそうなバトー、かっこいい荒巻を描く」との基本コンセプトが決まった。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

「かわいいってなんだろうと思うと、弱点があることだと思うんです。今回の素子ももちろん強いし、才能もあるけれど、まだそれを十全と発揮できていなくて、人との接し方も未熟」というように、“スーパーヒーローではない”存在としての素子が登場。さらには「可能性を見出す才能を持った素子という白雪姫のもとに、腐っていた7人の小人たちが集まってくる(笑)。“この先どうしたらいいんだろう”と思っていた小人たちに、“何を言っているの! 未来は創るものだ”と発破をかける」と仲間集めのストーリーを考えていったという。

人気作家・冲方丁の難局を乗り切る秘訣とは?

伝説的な作品を受け継ぐとあって、プレッシャーや苦労もあったことだろう。冲方は「『攻殻機動隊』って懐の深い作品で、何でもできてしまうんですよ」と苦笑い。『攻殻機動隊ARISE』の各4作品、『攻殻機動隊 新劇場版』ではそれぞれ異なる監督が指揮をとったが、誰もが『攻殻機動隊』ファンだけに、あらゆる要望を冲方にぶつけてきたのだとか。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

「“最初にテーマを決めましょう”と各監督と話していったんですが、『border:1』ではサスペンスをやりたい、『border:2』ではカーアクションを。『border:3』ではラブロマンス。『border:4』はこれまでのオマージュをやろう。『新劇場版』は青春と卒業だ!って(笑)。脚本家が一人しかいないのに、監督が5人もいるので。ピッチャーが5人、キャッチャーが一人みたいな状況でしたね。みんな投げ方も違うのでびっくりしますよ」。難局を乗り切る秘訣は、「“どうしよう…”と思っているとやる気がなくなるので、面白がることですね」と穏やかに微笑む。

SFの世界が身近になってきたことで、新たな苦労も…

また科学技術の急速な発展により、オリジナルで描かれた未来が今や現実のものとなりつつあることも苦労した点だ。科学的な検証にも、相当な時間を費やしたという。「今や、iPhoneの普及によって“ザ・SF”だった表現が日常化してしまった。電脳や外部記憶といったことも小さな箱で収まってしまう世の中になりつつあって。ネットという単語が一般化することによって、あらゆる現象が起きるようになってもいる。そういった意味では、SF作品がつくりにくい世の中になっているとも言えます。作品をつくっている途中で、実際に似たような技術や製品が出てくることもあるし、しかもそれが売れなかったりして(笑)。そうなると作品に変な色が付いてしまう可能性もあります」。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

「現実とSF世界が入り乱れてきている」と冲方。SF作品を生み出す難しさを実感しながらも、そこに面白みもたっぷりと感じている。「SF的な思考を持ち続けることで、“個人の生活が実は世界とつながっているんだ”という実感を与えてくれる。そこがSFの面白いところだと思います」。

「SFというのは、“未知のものである”というのが常にテーマにあって。未知のものって、未知だからこそ“怖い”と感じるものでもある。例えば『エイリアン』などは、脅威として描かれていましたよね。一方で、未知なるものの向こう側には、人類的な価値を持つものもあって。『攻殻機動隊』で言えば、“人形使い”というキャラクター。“怖い” と思ったり、脅威とみなされていたものの向こう側にも、未知なる世界や生命が生まれることがある。ネットだって、“未知なる攻撃を受ける怖いもの”と思われていました。でもその向こう側には、すごい可能性があったわけで。恐怖心の向こう側には、すごく便利な世界があったんです。人間はそうやって、脅威に思うこととその先にある希望を、繰り返し見つけてきたんです」。

『攻殻機動隊』と『ブレードランナー 2049』が描く“一歩先のSF”とは?

冲方は、現代を「SFにとって過渡期の時代」と表現。「SFの世界が身近になってきたことによって、次のSFが生まれている」と語る。2017年はSFアクションの傑作『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』も公開となったが、『ブレードランナー 2049』にもSFの新たな可能性を感じたという。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

「『ブレードランナー 2049』を観たときに、“ようやく、西洋人がAIやロボットへのアレルギーを克服しつつあるな”と思いました。やっぱりこれまでは“ロボットは怖い”“ロボットは叛乱する”という作品が多かった。もともと“同胞は魂を持っている”というのがキリスト教圏の大前提なので、魂がないものが苦手なんでしょう。それが今回は、献身と自己犠牲の物語になっていましたからね。アレルギーを克服したことによって、もっと面白いSFがどんどん出てくるのではないでしょうか」。

「今回の『攻殻機動隊』でも義体でも恋愛ができることを描いていますし、『ブレードランナー 2049』でも愛が描かれています。恋愛というのは、“区別や壁を飛び越える”というときに一番大きな衝動となるものなので、そういった意味でも過渡期ならではの工夫がこめられた作品だと思います。“ロボット怖い”だけではなく、腹を据えて“その先”を描こうとしている。現実がSFに追いついてきたからこそ、新たな恐怖、不安、そして希望も見えてくるでしょう。『攻殻機動隊ARISE』のテーマは『未来を創れ』です。ぜひ、未来を創ろうとする人たちの物語を楽しんでほしいです」。

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊ARISE」製作委員会 (c)士郎正宗・Production I.G/講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会

(取材・文・撮影:成田おり枝)


『攻殻機動隊ARISE/新劇場版 Blu-ray BOX』
2017年12月22日(金)発売

価格:20,000円(税抜)
品番:BCXA-1314

特典
・特製ブックレット(20P)
【映像特典】
・3DCGショートアニメ(脚本:冲方丁/監督:井野元英二/音楽:コーネリアス)
「ロジコマ・ビート」、「ロジコマ・コート」、「ロジコマ・ハート」、「ロジコマ・ルート」、「ロジコマ・ノート」
・株式会社きゅーか
・新劇場版 映像特典
・特報1 ・特報2 ・劇場予告編 ・プロモーション映像 ・TV-CM
【音声特典】新劇場版オーディオコメンタリー(出演:黄瀬和哉(総監督・キャラクターデザイン)/田中宏侍(撮影監督)/頂真司(演出)/堀元宣(演出)/河野利幸(演出)/藤津亮太(アニメ評論家))
【仕様】BOX&<黄瀬和哉>描き下ろしインナージャケット
【スペック情報】420分(予)/(本編376分+映像特典44分)
ドルビーTrueHD(5.1ch)・リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD50G×4枚/16:9<1080p High Definition>/日本語・英語・中国語(繁体字)字幕付(ON・OFF可能)
【収録話数】ARISE1~4/攻殻機動隊 PYROPHORIC CULT/攻殻機動隊 新劇場版
発売元・販売元 バンダイビジュアル
※特典・仕様等は予告なく変更する場合がございます。

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