この作品から異世界ものの快進撃は始まった!『無職転生 異世界行ったら本気だす』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│長所を見せるではなく短所を徹底的に見せる。異常な異世界転生作品

小説や漫画などの本で読む物語が好きで、この業界で働いている身としてそんな作品を生み出している作家さん、漫画家さん、そして編集者さんと話せる機会は非常にありがたくついつい色々話してしまったりする。
そんな話の中での話題でよく出るのが「異世界転生もの」についての話だ。

内容はこの数年ほどでずいぶん変わった。ほんとにはやり始めの頃は「異世界ものが少しづつ流行ってきているがどう思うか」や「なぜこんなにも受け入れられているのか」というような内容だったが、最近は売れて当たり前というような定番ジャンルになり、「どんな作品が面白いと思うのか」や「まだ漫画になっていないなろう系の小説でオススメを教えてくれ」などの話に変わってきた。

そんな製作者側の方たちとの話の中で私はよく「異世界転生もので別格だと思う作品は?」という質問をする。最初は何となくで聞いていたのだが、そのうちある作品が異常に「別格だと思われている」ことに気が付きその確認で聞くようになった。それが『無職転生』。現在アニメ化で盛り上がっているあの作品だ。

なぜこの作品が別格だと思われるのか。それは、この作品の登場人物の魅力はそれぞれのキャラクターの「欠点」として描かれている部分であり、この作品には他の異世界物のような主人公やヒロイン像は存在しないからなのだ。

ぶっちゃけて言おう。
私も『無職転生』の大ファンで、夢中になって『小説家になろう』サイト上で読んでいた一人だ。そんな私から見ても無職転生の主人公ルーデウスは酷い。

引きこもりであった主人公の頑張り物語を、異世界という違う世界で見せてくれる本作の主人公ルーデウスは、ただの凄いやつではなく「正直気持ち悪い」と思われても仕方ないほどの変態さんなのだ。エロい事への執念が凄い。
品行方正でモテてめっちゃ強くて負け知らず! なんて異世界転生ものの主人公とは程遠く、変態でひくほどパンツへの執着が凄くて、努力していてそれなりに強いけど負けることも挫ける事もあって、誰かに頼ったりしながらなんとか日々の生活を暮らしている。

しかし、長所よりそんなどうしようもない短所が目立つ彼にいつの間にか心を掴まれて、物語の行く末から目が離せなくなってしまうのだ。
アニメでは転生後の彼の声を内山夕実さんが、前世のおっさん(ルーデウスの心の声)を杉田智和さんが演じていて、非常に愛らしい変態主人公を表現している。
原作ファンとして完璧と思ってしまった。杉田さんの変態っぷりがほんと凄い。

そしてこの作品の3人のヒロイン。ロキシー、シルフィー、エリスの三者三葉の魅力とポンコツっぷりもこの作品の注目ポイントだ。個人的にはエリスが全編通してかなりお気に入りなのだが、アニメでロキシーとシルフィを見て心がざわついてしまった。
早くこれから先の彼女たちの活躍をアニメでも見たいものだ。

そしてこの作品は通常の物語のように「カッコイイところを書いた作品」というわけではなく、しっかりとルーデウスの人生の最初から最後までを描いている。
まるで一つの大河ドラマのように少年から青年、結婚して家族を持って年老いていく。
そこまでしっかり書ききった作品も珍しいのではないだろうか?

アニメも漫画もどこまでを見せてくれるかはわからない。しかし出来れば本当に最後までそれぞれの形でみとどけられたらと思っている。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

無職転生 異世界行ったら本気だす

14巻まで発売中

著者:フジカワユカ、理不尽な孫の手
出版社:KADOKAWA

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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