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【インタビュー】『チ。ー地球の運動についてー』魚豊「大地のチ、血液のチ、知識のチ。その3つが渾然一体となっているのがこの作品。」【by コミスペ!】

『チ。ー地球の運動についてー』
コミスペ!

(このインタビューは2021年5月3日に『コミスペ!』サイトで掲載されたものです)

舞台は15世紀のヨーロッパ。異端思想を持つ者が、ガンガン火あぶりに処せられていた時代。命の危険を感じながらも、天動説に逆らい、禁じられた真理“地動説”を研究する人間たちの生き様と信念を描く、『チ。ー地球の運動についてー』(以下、『チ。』)。

 

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

どのような思想や人生経験を積めば、この凄まじい物語を紡ぐことができるのか……『ひゃくえむ。』に続き、己の信念を貫く漫画『チ。』を描く作者・魚豊先生にインタビューを受けていただきました。

漫画を描くことへの情熱とこだわり、哲学への造詣とリスペクト、作者お気に入りのキャラクターが、意外なあの人物……!? 「週刊ビッグコミックスピリッツ」にて連載中の本作の制作秘話から人生論まで、魚豊先生にたっぷりお話を伺いました。

(取材・文:かーずSP/編集:八木光平)

 

拷問シーンは読者へのサービス……!?

──物語の冒頭。いきなり拷問シーンから始まる、衝撃的な幕開けです。残酷描写を冒頭に描くことで、読者を振り落とすような心配はなかったんでしょうか?

魚豊先生(以下、魚豊):これが予想外でして。僕、残酷描写があった方が読者が喜んでくれるだろうと、なんというかサービスシーンのつもりで描いたんですよ。そうしたら、意外と苦手な方もいらっしゃったという……(笑)。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館
第1巻の冒頭

──喜んでもらうつもりが、やっぱり抵抗があった人もいた(笑)

魚豊:そうなんですよね。「この漫画はこれがいいんだ!」って褒められるかと思ったら、そんなわけがなかった……暴力描写が苦手な人、ごめんなさいと思いつつ、このまま突き進むしかないんですけど。

ただ、冒頭にこのシーンを持ってくることで「この作者は何をやるか分からないぞ。この作品、この先に何があってもおかしくないな。」ってスリルは演出できているんじゃないでしょうか。

──前作『ひゃくえむ。』で陸上の話を描いてから一転、中世ヨーロッパの天文学という、かけ離れたジャンルにチャレンジされた理由はなぜでしょうか?

魚豊:『ひゃくえむ。』で青春部活ものを描きましたので、次は人が死ぬようなサスペンスにも挑戦したくなりました。

中世のヨーロッパって、自然科学の知性と、暴力的なフィジカルが渾然一体と結びついています。そのアンバランスさが、現代から見たら面白く映るのではと。

──どのあたりに魅力を感じたのでしょうか?

魚豊:天動説から地動説へ移行する、知の感覚が大きく変わる瞬間がいいんですよね。哲学と結びついて、「コペルニクス的転回」や「パラダイムシフト」って言葉が生まれるくらいの衝撃を与えました。その瞬間が面白くて、漫画にしようと決意しました。

──古い価値観である天動説で、地動説を唱える人たちを裁いていく……確かに知性と暴力が混在しています。

魚豊:ただ、弾圧があったような印象を受けるのですが、史実ではどうやら、地動説ってそこまで迫害を受けてはいなかったらしいんですよね。しかし、現代では迫害があったと思い込んでいる人が多い。この勘違いも面白く感じて、テーマにしたい! と思った要因の一つです。

──ガリレオ・ガリレイの宗教裁判を授業で習うと、思い込んじゃいますよね。

魚豊:『チ。』で描かれる迫害はフィクションですが、調べてみると、超安全で気軽に話せる話題ではなかったのは事実だと思います

疫病や戦争で死が近い時代において、最大に勢力を伸ばしたのが宗教だと思います。「なんで死ななきゃいけないんだろう」って疑問に対して「死んだら神の国に行けます」って答えは、強い安心感があったんでしょう。だけど、近代化していくにつれて「死後の国なんかない」という考えが広まっていきます。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

──天動説から地動説のように、近代化で人々が気づき始めている。

魚豊:そういう時代の変わり目に、人々の価値観が変わっていく様子をオクジーたちに出そうと心がけています。

図形でもあり、エゴサしづらい。『チ。』に込められた3重の意図

──『チ。―地球の運動について―』というタイトルを決めた理由についてお訊かせください。

魚豊:大「地」以外にも、知性と暴力がぶつかって「血」が流れる。「チ」って日本語に、いろんな意味合いを込めたかったんです。

しかも、カタカナ一文字にしたら、書店に並んでいたら浮いて目立つんじゃないかって狙いもありました(笑)。

──(笑)。22話で「知です」って台詞が出てきて、知識の「知」もかかっていたんだ!って興奮しました。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

魚豊:大地のチ、血液のチ、知識のチ。その3つが渾然一体となっているのがこの作品なので、我ながら気に入っているタイトルです。

──この「。」をつけているのが意図を感じるんですけれども。

魚豊:『ひゃくえむ。』でもついていて、単純に句点が好きなんですけども、今回に関して言えば「。」はデザインとしてつけています。

「。」は文章の終わり、停止を意味します。大地が停止している状態を「。」で示していて、そこに地動の線(チ)がヒュッと入ることで、止まっていたものが動く状態になる。「地球は動くのか、動かないのか」を「。」で表現しています。

──なるほど、図形として表現しているんですね。

魚豊:さらに理由があって、「チ。」って一文字ならエゴサしにくい(笑)。僕は影響受けたく無いのでエゴサしたくないタイプなんですが、ついつい反応が気になってエゴサしてしまう時がある、だからこのタイトルにすれば自分に制約をかけて、エゴサしづらくする効果も期待できます。

もっと言えば、読者の皆さんにも「サーチしにくい」体験をしてほしい。そんな意図も込めています。

──どういうことでしょうか?

魚豊:今のネット社会は、スマホで検索すれば、他人の感想に簡単に触れることができます。でもサーチできにくくすることで、自分だけの意見を考えるきっかけになれば嬉しいです。

──それで思い出した台詞が第22話「誰もが簡単に文字を扱えたら、ゴミのような情報で溢れ返ってしまう」。まさに今のネット社会を暗示しているように感じながら読んでいました。

魚豊:文字が溢れかえったことで、フェイクニュースや怪しい情報といったネガティブな面は出てきます。しかし言葉が上級市民だけの時代が良かったのかといえば、そうとも言えません。これは裏表一体。

ヨレンタは文字の可能性を信じているし、バデーニは信じていない。一つの要素に良い面と悪い面が出てくることも、『チ。』のテーマの一つです。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

──文字も、使い方次第であると。

魚豊:パルマコン」っていう、ギリシャ語で「薬」って意味の言葉があるんですが、同時に「毒」って意味も持ち合わせているんです。薬は毒にもなるということを、昔の人たちは知っていました。原子力は生活のエネルギーになる一方で、原爆も作れてしまいます。

文字そのものに善悪はなくて、使い方次第で、悪影響を及ぼせもするし、有用にもなります。二面性やアンビバレントなものを描く欲求が、先ほどのセリフに繋がりました。

──バデーニが感じる組織の窮屈さ、オクジーの自己肯定感の低さ。現代人でも抱える悩みを、中世を舞台にして描かれていて理解しやすいです。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

魚豊:たぶん、人間っていつの時代でも同じことで悩んでいるんですよね。プラトンが書いた「ソクラテスの弁明」を読むと、2400年前の本なのに、現代と全く一緒のことが記されているんですよ。

保身的な人がいて、欲深い人がいて、空気を読む人がいて、信念や正義を貫く人がいて。人間の強さと弱さって、昔も今もまったく変わっていませんし、2000年以上前から成長してないとも言えます。

だからこそ、普遍的な悩みは時代を問わないし、いつでも心を動かされるんでしょう。2000年前の言葉が2000年後の誰かを救うことも全然ありえることで、それはいい事だと思います。

コルベの描き方が見事にハマった瞬間

──担当編集者から見た本作の魅力について伺いたいのですが、どこに魅力を感じられていますか?

チヨダ(担当編集):知性もテーマにしている『チ。』ですが、実のところ知性を超えて、信念や美学を貫く狂気に震えます。代表的なのは、1巻のラファウの「美しいと、思ってしまうッ!!」というシーンです。「しまうッ!!」の一瞬。私にとっては一番好きなシーンであり、見どころじゃないでしょうか。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館
「美しいと、思ってしまうッ!!」

テラモト(担当編集):私はラファウの「燃やす理屈、なんかより!! 僕の直感は、地動説を信じたい!!」が良いですね。

確かに、理屈よりも直感を信じるべき時もあります。その方がカッコよく生きられるんじゃないかって、心を揺さぶられる見開きになっていてグッとくるんです。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館
「燃やす理屈、なんかより!! 僕の直感は、地動説を信じたい!!」

──唇の片方を歪ませている表情にも信念が籠もっていて、こだわりを感じます。

魚豊:僕は歪んでるものの方が好みで、「上手」「器用」ってものに昔から惹かれないんです。この歪んでいる表情にも、自分の好みが出たのかなって、今ご指摘をされて気づきました。

──現代はラファウのように効率よく、要領よく世間を渡っていく考え方。最適解を求める方法論が支持されがちだと感じているのですが、そこに対しては懐疑的でらっしゃるんですか?

魚豊:「要領よくやる」の前に「何をやりたいか」って問いが先にくるハズなんですよ。そのやりたい事のために要領よくやるのはいいんです。

ただ単に「要領よくやる」ことが、手段ではなく目的になってしまっているのを見ると、それはちょっと違うんじゃないかなって感じます。

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館

テラモト:もうひとつ、好きなシーンを言わせてください。ヨレンタに、バデーニとオクジーが地動説の話をしにくるところ。

最初は「バレたらヨレンタのせいにすればいい」って言っていたバデーニが、会談後には「研究者だからだ。」って彼女への見方が変化している。ヨレンタへの評価が「女」から「研究者」に変わる瞬間、気持ちいいんですよね。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

──わかります! バデーニは頭が回りますし、優秀な人物ですよね。

魚豊:でも傲慢でイヤな性格なんで(笑)。でも、そういう欠点がある方が人間味があるんですよ。短所も愛せるキャラクター作りは目指してるものの一つです。完璧に良い性格だと「本心からホントに言ってるの? なにか裏があるんじゃないの?」って嘘くさく見えてしまうというか。

──ヨレンタは善人ですよね。

魚豊:だからヨレンタは内面的に描きにくいところがあります。すごく良い子なので、「こんな人いるかな? こんな扱いをされたら絶対ムカつくに違いないのに」とか。

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館

魚豊:僕の考えが性悪説なんでしょうね、善人は作り物っぽく見えてしまう懸念があるんです。でも読者の皆さんには好感を持って頂けてると聞くキャラクターなので嬉しいです。

──ヨレンタの欠点を無理やり探すとしたら?

魚豊:真面目すぎるところですかね。反対に、コルベはめちゃくちゃ描きやすいんですよ。「どこの組織にもいるでしょ、こんな奴!」みたいな(笑)。コルベは良い行いをしていると信じて、論文の名前を自分の名前に書き換えてますからね。僕自身にも、きっとそういうところがあるっていうのも含めて描きやすかったです

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館

──自覚がないのが一層、タチが悪いんですよね。

魚豊:そうそう。コルベは描きながら「これはキたでしょ!」って会心の出来でした(笑)。リベラルぶってるヤツが実は駄目だった、女性蔑視してないつもりで蔑視している人が上手く描けました。さっきも言いましたが、こういうパターナリスティックな一面はきっと僕にもあるのでリアルに描けたと思います

──ヨレンタを守ってるつもりで、一番の差別主義者だったっていう。

魚豊:それは現代にも通じる問題だと感じます。「それが悪意だったらどれほどよかっただろう」っていう、ヨレンタのシーンは切実に描けたという感覚があります。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

魚豊:ヨレンタと同じような気持ちを経験した人はいっぱいいると思いますし、それは本当にどうしようもないことです。悪意がない分、より一層の醜悪さが浮き彫りになる。行き場のない挫折が描けて、あのセリフは我ながらお気に入りです。

お気に入りは異端審問官のノヴァク。平凡なサラリーマンがモチーフ!?

──作者が予定していなかった、意外な展開があれば教えて下さい

魚豊:コルベですね、本当にそこばっかりで恐縮なんですけど(笑)。

コルベは、最初ただの嫌なヤツとしてデザインしました。だけど途中で、自分は善人だと思い込んでいるんだけど、それゆえに悲劇的なキャラに変えたのが見事にハマったんです。悪意でヨレンタの研究を邪魔するのではなく、善意でやっていることが、結果的に彼女の妨害に繋がってしまう。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

魚豊:「女性ごときが学問なんかするな!」って悪意が強すぎると、寧ろ作り物に感じてしまう。今の時代、女性差別主義者を描くんだったら逆の方向だよね、と担当編集さんと話し合いました。

「もちろん女性の人権も大事です、女性にも生きる権利はある!」いや、それ当たり前だから、なんで許可が必要なんだよっていう話で。

──人権擁護のようで、差別意識を前提としたアウトの発言。

魚豊:そうそう。そんな人物像が閃いて、コルベは悪意に寄りすぎていたのを、善に戻したら、ただの悪役では無い存在感のあるキャラに育ちました。

──先生のお気に入りの人物はいらっしゃいますか?

魚豊:ノヴァクっていう異端審問官が気に入ってますね。異端審問官というと、教義に殉じる狂信者のイメージが思い浮かぶと思うんです。ところがノヴァクは「めんどくせー」って言いながら上から命令されないと仕事しない、フラットな人物。

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館
異端審問官・ノヴァク

──現代のサラリーマンっぽいです。

魚豊:そうです。異端審問官は実存した職業なんですけど、それをサラリーマンっぽく描いています。もしも某作品の野原ひ○しが異端審問官をやっていて、彼が敵になったら……みたいなイメージで描いてました。

──(笑)。彼は殺人に対しても淡々と業務をこなしているのが逆に迫力あります。

魚豊:それはナチスのアドルフ・アイヒマンがモチーフになっています。人殺しに鈍感になっていて、「歯車としてやることはやります、でも家族は愛しています」みたいな人物ですね。

──次にピャストについてですが、悲しい幕引きになりました……。

魚豊:パラダイムシフトが起きて情報が更新されると、大抵の場合振り返る必要がないものになります。残酷ですけど、科学には必要な過程だと思います。

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館
ピャスト、泣く

──「不正解の道に進んでも、無意味を意味しない」ってことで、納得するしかないんでしょうか。

魚豊:本当にそうだとも思いますし、ピャストは選択したことによって、後悔はないというか。自分のやりたい道を選べたなら、それでいいじゃないかって気がします。

ソクラテスに触れて「どうせ死ぬんだったら、漫画家を目指してもいいじゃん」と吹っ切れた

──漫画を描いていて楽しいのはどんな時ですか?

魚豊:好きな音楽を聴きながら、絵を描いている時ですね。楽しくて、これでお金が稼げるのは本当に恵まれていると感じます。「僕が今、この線を引いたら楽しい。」だから線を引く、みたいな。読者のために線を引くのがプロの仕事ならば、僕は完全にプロ意識が足りて無いと思います(笑)。僕のためにやっているので。

──プロットやネーム作業は苦しい生みの作業なんでしょうか?

魚豊:「これ、面白そう!」って思いついた時は楽しいんですけど、そのつじつまを合わせる作業は面倒くさいですね(笑)。でもその思いつきに、ペン入れをして完成させていくのは好きですね。

──ラストシーンをどうするのか、決めた上で連載開始されたのでしょうか?

魚豊:はい。『ひゃくえむ。』と同じく、細かく決めてから連載を始めています。どこに向かうのか分からないまま漫画を描くのが不安で、そんな度胸もありません。ラストまでおおまかに決めることで、自分の100%が出せると思い、作ってます。

──創作に影響を受けた作品はありますか?

魚豊:セネカの「人生の短さについて」、プラトンの「ソクラテスの弁明」、デカルトの「方法序説」などです。哲学や天文学の本は知識欲も満たせますし、エンターテイメントとしても面白いので影響を受けました。歴史に残る本って古びず、面白さに普遍性があるのが偉大だと思います。

──具体的にはどのあたりに興味を惹かれたんでしょうか?

魚豊:「ソクラテスの弁明」では、「君たちは死刑が一番の刑罰だと思っているが、死後なんて誰も知らない。だから良いか悪いか判断できない。にもかかわらず、『死を悪いこと』だって捉えてるのは君たちの傲慢だよね」みたいな事を主張しています。

(C)魚豊/小学館

(C)魚豊/小学館

魚豊:その上で死について言えることは2パターンあって、

・死後の世界がある場合→いろんな神々に会ってめっちゃ訊きたいことがあるから最高。
・死後の世界がない場合→夢一つ見ないで熟睡するほど気持ち良いものはない。煩わしい現世から素晴らしい無に行けるなら、最高のプレゼントだ。

つまり「私は死ぬことを何も恐れない」ってソクラテスの言葉は、死にずっと怯えていた僕の心を軽くして、感動して興味が出たんです。

──ソクラテスは毒杯を煽ることになるわけですが、1巻のラファウも、それを意識したんでしょうか?

魚豊:意識はしました。

──昔から死ぬことについて、ずっと考えてらっしゃったんですか?

魚豊:高校一年のある夜、「あれ? いつか死ぬってやばくない? これまで楽しかったけど、全部が無になるんだよな……」って急にタナトフォビア(死恐怖症)みたいになってしまいました。

今でもその気持ちは抱えているのですが、「いつか死ぬんだったら後悔なく生きよう」って心構えができるようにもなりました。死ぬのは怖いんですけど、「いつか死ぬんだから飛び出してみようぜ、挑戦してみようぜ」って勇気が出せることにも繋がります。

僕も、「どうせ死ぬんだったら、漫画家を目指してもいいじゃん」ってことで何度も背中を押されました。

──そこから漫画家を志望されたんでしょうか?

魚豊:それはもっと早く、中学一年の時にアニメの『バクマン』を見て、「こういう方法で漫画家になれるのか」と知りました。

部活もいってませんでしたし、何もやらないよりもやった方がいいだろうと。でも年に2、3本しか投稿していない緩さだったんですけど。

「これは正義」「これは悪」といった二元論ではない作品に惹かれる

──その頃からお好きだった漫画など、漫画遍歴をお訊かせください。

魚豊:それまでギャグ漫画しか読んだことがなかった自分が、中学一年の時に初めて『カイジ』の2部、地下チンチロ編を読んで、こんな面白いものが世の中にあるのかと衝撃でした。

いきなり一話目の一番最初に、「ああ…それにしても金が欲しいっ…!!」って書いてあって、そこがストーリー漫画の本質に初めて触れた瞬間です。

──背景が黒いバックに、文字だけで。あれはインパクトが大きいですよね。

魚豊:「本当の面白さってのは、こういうもんだぜ!」って見せつけられたようで、ガツンとやられました。『カイジ』はオリジナルゲームなど、馴染みのないものを描いてるのに、エンターテイメントとして楽しませてくれるんです。

──他にはありますか?

魚豊:高校生になって『寄生獣』と『闇金 ウシジマくん』にも出会いました。『寄生獣』は、僕が生まれる前に描かれた作品なんですけど、古さを全く感じさせません。今にも通じるメッセージ性があって、こういう作品が歴史に残るんだと感銘を受けました。普遍的な面白さが伝わってきます。

作品情報


寄生獣

岩明均

寄生獣

レビュースコア:4.2

右手に寄生生物・ミギーを宿した泉新一はミギーと共に他の寄生生物と戦い続ける。”人間とは何か”を問う問題作。


闇金ウシジマくん

真鍋昌平

闇金ウシジマくん

レビュースコア:3.7

他の金融機関が見捨てた、返済能力に欠ける人間相手に暴利を貪る“闇金融”。 そんな業者の一つ「カウカウファイナンス」は、法定金利を遥かに超える“トゴ(10日で5割)”は当たり前、ギャンブル狂には1日3割もの高利で金を貸している。 そして若き社長・丑嶋自ら陣頭指揮を執り、今日も徹底した取り立てで業績拡大に邁進する…。


魚豊:『闇金 ウシジマくん』はストーリーが重たいんですけど、同時にどこか、人間を信じる愛や爽やかさも存在しています。そういうアンビバレントなものに触れたのもこの作品が初めてでした。

──白黒はっきりしない作品に惹かれるんですか?

魚豊:どちらも「これは正義」「これは悪」って二元論ではない部分に惹かれます。「良かったのか悪かったのか分からないけど、世界ってそういうものだよ」って読後感を感じるところが良いですね。

──『闇金 ウシジマくん』のエピソード毎のラストって、モヤモヤっと白黒つけずに物語を締めるんですよね。

魚豊:そうです。他にも『ピンポン』は、スポーツに興味がない僕が読んでも死ぬほど面白かったです。

DEATH NOTE』も今までに経験したことがない内容で興奮しました。『亜人』は絵が死ぬほどカッコいいし、一つだけの設定でここまで描けるのか!って素晴らしい。絵も設定も今まで見たことがないものを感じさせてくれるものが、僕には刺激的でした。

──次に、お気に入りの映画を教えて下さい。

魚豊:「第9地区」「インターステラー」「桐島、部活やめるってよ。」、あとは「タクシードライバー」も好きです。

──「インターステラー」は難解な内容でしたけど、理解しながら観られていたんですか?

魚豊:そこがすごく良いんです! 細部まで理解できなくても、「とんでもないもの見た!」ってエンターテイメントに仕上がっています。それで少し調べていくと、ちゃんと作られてることがわかる。作品を観終わったあとに、自分で調べることができる作品が好きです。

──『チ。』の天文学の扱いにも通じます。

魚豊:『チ。』は一応勉強もして取材とかもしてますが、勿論「インターステラー」ほどゴリゴリにできていないです(笑)。でもそういう作品を作りたい気持ちはあります。

──『チ。』では専門的な天文学の知識について、分かりにくい部分を分かりやすくするような工夫をされているんでしょうか?

魚豊:僕の漫画はすべて、高校生の僕が読むことを意識して描いています。だから専門的な議論には踏み込まないようにしているんです。僕自身、それを面白くする想像力もないので(笑)。

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館

──過去の自分が仮想の読者なんですね。

魚豊:僕の描いた漫画を、他の人がどう喜んでくれるのかが全然予測できなくて。でも「昔の自分だったら喜んで読んでそう」って予測なら出来るかもと、なので自分が面白がれる漫画は目指してます。

引っ越しの時に捨てられないような漫画を描きたい

──5巻以内で連載中の漫画で、お薦めを教えて下さい。

魚豊:これはもう『レモンエロウ』がすごく面白いですね。AVが表現規制されてしまった近未来の話で、エネルギッシュなパワーを感じます。これまでに見たことがない設定で、絵もカッコよくて、『レモンエロウ』だけじゃなく作者の古町先生の作品は今後とも読みたいです。

──3巻のヨレンタのセリフを引用するならば、「時間と場所を超越して、未来の人に思考を伝えたい」。ご自身の漫画を通じて、後世に思考を伝えたい欲求を、先生自身が持たれているんでしょうか?

『チ。ー地球の運動についてー』

(C)魚豊/小学館

魚豊:それができたら本当に最高で、夢や理想の位置ですね。大きい夢は、100年間は後世に残る作品をいつか作りたい。小さい夢は、引っ越しの時に捨てられない漫画にしたい。引っ越しの時に「これ要らねーや」って廃棄されずに、「まぁ持って行ってやってもいいか」くらいのポジションになれたら嬉しいです(笑)。

──デビュー前はずっとギャグ漫画を描かれていたそうですが、今でもギャグ漫画への意欲はありますか?

魚豊:描きたいんですけど、難しすぎて……『魁!!クロマティ高校』が大好きなんですが、ギャグ漫画はセンスが物を言うジャンルですから、僕には難しいだろうなって。敷居が高く、常に尊敬と憧れをずっと抱いています。

──4巻の発売はもう少し先になりそうですが、これからの展開について教えて下さい。

魚豊:4巻では、オクジーと二人の運命が大きく動いていきますので、乞うご期待です。

──ずばり訊いちゃいますけど、第3部ってあるんですか……?

魚豊:そうですね、第3部はあります。

──おおっ! 『ひゃくえむ。』も同じでしたが、時間軸を固定せず、どんどん早回しして描かれますよね?

魚豊:自分が面白そうと感じるのか、そういう物なんだと思います。

──そのあたり、先ほど挙げられた『DEATH NOTE』のドライブ感にも通じます。

魚豊:言われてみると、『寄生獣』『闇金 ウシジマくん』『ピンポン』、どれもポンポンと展開が進みますね。急に数カ月後とか、何年後とか、キャラがイメチェンしたり。僕が憧れる物語の面白さが共通しているんだと思います。

──それでは、最後に意気込みをお願いします。

魚豊:今後も飽きられないように尽力いたしますので、よろしくお願いします!

チヨダ&テラモト(担当編集):魚豊先生と一蓮托生で面白い作品を世に送り出して、我々編集サイドも盛り上げていきます。最後まで読んでいただければ嬉しいです。ぜひ応援してください!

──本日はありがとうございました!

作品情報


チ。―地球の運動について―

魚豊

チ。―地球の運動について―

レビュースコア:3.9

動かせ 歴史を 心を 運命を ――星を。舞台は15世紀のヨーロッパ。異端思想がガンガン火あぶりに処せられていた時代。主人公の神童・ラファウは飛び級で入学する予定の大学において、当時一番重要とされていた神学の専攻を皆に期待されていた。合理性を最も重んじるラファウにとってもそれは当然の選択であり、合理性に従っている限り世界は“チョロい”はずだった。しかし、ある日ラファウの元に現れた謎の男が研究していたのは、異端思想ド真ン中の「ある真理」だった――命を捨てても曲げられない信念があるか? 世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか? アツい人間を描かせたら敵ナシの『ひゃくえむ。』魚豊が描く、歴史上最もアツい人々の物語!! ページを捲るたび血が沸き立つのを感じるはず。面白い漫画を読む喜びに打ち震えろ!!

かーずSP

【記事を書いた人】かーずSP

個人ニュースサイト「かーずSP」管理人。漫画の趣向としては、女の子がたくさん出てくる「萌え」か、スポ根や本格ファンタジーなど「燃え」が好物。

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