さてそのストーリーはというと、このタイトル通り、今までのジブリのヒロインとは異色の女の子「アーヤ」が周りの大人子どもを意のままに操り、自分の行きやすい環境を手に入れていくお話です。
作中でのそのしたたかな生き様は、まるで今の世を生きる若い世代の背中を押すようです。権利を振りかざす大人たちに迎合せずに、むしろあの手この手で味方につけ、自分に有利な状況を生み出していく。
今までのジブリ作品のヒロインは無理難題に立ち向かい、自分自身が成長することでその壁を乗り越え、成長していくサクセスストーリーでしたから、そのギャップをジブリファンは楽しんでいます。
子どもたちにも大人気のジブリ作品ですが、過去の作品同様、出口の敷居が高い「大人が考えを巡らせながら観る作品」に今回も仕上がっていると個人的に思いました。
魔女の母親が黄色のシトロエン(自動車)に追いかけられながらも、魔法を使ってなんとか逃げ延び、置き手紙と一本のカセットテープとともに、アーヤを孤児院に預けるところから始まります。
「あなたの名前はアヤツル」と母親は赤ん坊のアーヤに語りかけますが、孤児院の園長が人を操るみたいで嫌だと「アーヤ・ツール」という名前にしてしまいます。
早くも序盤でどんな話になるかを示唆してくれるシーンが訪れます。
孤児院で何不自由なく成長し、仲良しのカスタードという男の子以外、もうそれはしたたかに大人子ども含めて周りの人を意のままに操るアーヤ。
ここに一生いたいと願いながらも、とある男女が里親となり、アーヤは孤児院を出て行きます。
実はその二人が魔法を使える魔女たちだったのです。
魔女見習いのアーヤ、口うるさくこき使う魔女ベラ・ヤーガ、寡黙で小説を書き続ける男性・マンドレーク、人間の言葉を話す猫のトーマス。この4人が一つ屋根の下での生活が物語の舞台となります。
なかなか魔法を教えてくない意地悪なベラ・ヤーガ。
アーヤと魔女 (c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
アーヤには優しく、ベラ・ヤーガには厳しいマンドレーク。
アーヤと魔女 / (c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
アーヤと一緒にベラ・ヤーガをなんとか思い通りにしてやろうと手を組むトーマス。
アーヤと魔女 / (c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
僕もすべてを映像で見たわけではありませんが、絵本を読むだけでも、悪巧みがバレるんじゃないかというハラハラドキドキ展開、美味しそうな魔女料理、娘が腹を抱えて笑うほどのいたずら、迫力のある魔法などの虜になりました。
絵本で読んでいても、ぜひ映画館で観たくなる作品。むしろ、次の章で紹介する未回収の伏線が映画では回収するのでは!? と楽しみです。
アーヤと魔女 / (c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
絵本を読む限り、かなり未回収の伏線が多い『アーヤと魔女』。
もともと原作がシリーズものを想定していたらしいのですが、実は著者の死によって原作も完結していないそう。
「なるほど!! だからなのか」と膝を打ちはしたのですが、娘からは「ベラ・ヤーガたちはなんでアーヤを迎えにきたの?」「マンドレークはなんでアーヤに優しいの?」「アーヤのお母さんって何者なの?」など色々聞かれて答えられず、個人的にもモヤっとしています。
■未回収の伏線例
・なぜアヤツルという名前をお母さんはつけたのか
・魔女のお母さんは、どんな事情で魔女たちから追われることになったのか
・魔女ではないマンドレークはどんな存在なのか
・バンドは何を意味しているのか
・孤児院時代、カスタードだけ操れなかった理由は何か
正直、もう少しあります…。
考察していくと、なんとなく見えてくる伏線もあります。
■個人的な考察
・なぜアヤツルという名前をお母さんはつけたのか
バンド・EARWIGの曲名でもある「Don’t Disturb Me(私の邪魔をするな)」の生き方をしてほしいから。
・赤い髪の魔女のお母さんは、どんな事情で魔女たちから追われることになったのか
魔女のルール・しきたりを無視した。そのしきたりは魔女と人間の恋愛はご法度。魔女(お母さん)と人間(お父さん)の子どもがアーヤなのでは?
・魔女ではないマンドレークはどんな存在なのか
赤い髪の魔女のお母さんとマンドレークの子どもがアーヤなのでは?と思いましたが、我が子ならもう少し手を差し伸べるのではと思うので、ただのバンド仲間なのか?
・バンドは何を意味しているのか
ちょっとわからず
・孤児院時代、カスタードだけ操れなかった理由は何か
なんでも思い通りには行かない。という表現だったのでは? でも最後にはパーティに呼び出すことに成功しているから、そのあたりも何故なのか知りたいところ。
そして、絵本のラストシーン(おそらくNHKの放映時も同じ)は一見するとハッピーエンドでよかったね! という展開ではありますが、なぜこのタイミングでお母さんが!? どんな意味があるの?と今後の展開が気になる終わり方をしています。
突然の終わり方は冒頭でもお話ししましたが、「シリーズもの」を想定した原作だったからなんでしょうね。
いい作品だと思いますし、絵本を読むだけでも楽しかったので僕的には満足ですが、なぜ未完の作品を選んだのかが個人的には1番回収したい伏線ですね。
そこにどんな思いがあり、監督が何を伝えたかったのか。やはり映画で確認したいところです。
100ページを超えるかなりのボリューム。
読み聞かせには1時間くらいはかかってしまうと思います。我が家では小休憩をはさみました。
また、小学校低学年くらいであれば自分で読むこともできると思います。
ストーリーもしっかりと理解できますし、アニメの絵がそのまま載っているのでおもしろさも伝わってきます。
ところどころ省略されている部分があるのだろうと思いますが、十分に大人も含めて楽しむことができました。
なかなか映画公開日が決まらない情勢ですから、お子さんがいらっしゃる方はこのアニメ絵本を楽しんでみてはいかがでしょうか?
また、原作や日本語版など、映像が手に入らない今ならではの楽しみ方はたくさんあるのでこちらもチェックしてみてください。
アニメ絵本
出版年月:2020年12月
出版社:徳間書店
著者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、宮﨑駿
日本語訳された原作
出版年月:2012年7月
出版社:徳間書店
著者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ、田中薫子(訳)
アーヤと魔女 / (c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli
さて、この映画・絵本でも見どころの一つ、それが魔女料理です。
■『アーヤと魔女』で出てくる料理
・「聖モーウォード子どもの家」のシェーズパイ
・ボーイスカウトが作ったまともなあげやきパン
・アフタヌーンティーのカラフルカップケーキ
など、美味しそうな料理が出てきます。
そこで、今回出版されたのがこどもりょうり絵本『ジブリの食卓 アーヤと魔女』です。
3段階のレベルのレシピがあり、どれも子ども受けしそう。さらに、映画のシーンからインスピレーションを受けて料理化したものも。
■『アーヤと魔女』のシーンからインスピレーションを受けたレシピ
・いたずらシーツのマシュマロおばけ
・ぐねぐねミミズのプレッツェル
・黒ネコトーマスのさくさくクッキー
全10レシピが掲載されており、メインディッシュもあればデザートもあり。ドリンクまで。そのレシピのボリューム感は大満足です。
それにしても魔女のレシピなのでカラフルなものが多く、子ども受け抜群。
うちの娘はこの「アフタヌーンティーのカラフルカップケーキ」を週末につくろうと毎朝言っています。
調理方法や材料などもそんなに難しいものはなく、基本的にはスーパーで購入し、そのまま家で簡単に作れそうです。
ジブリアニメで出てくる料理はどれも魅力的。今回のアーヤと魔女をきっかけに、勝手にいろんなジブリ料理を作ってみようかと娘と話しています。
もちろん、大人の方でも試してほしいレシピ本です。ぜひ、この週末はジブリ作品をみながら、自分で作ったジブリ料理を楽しんでみてはいかがでしょうか?
また、早く映画の公開が決まることを楽しみに待っていましょう!!
こどもりょうり絵本
出版年月:2021年4月月
出版社:主婦の友社
著者:スタジオジブリ、主婦の友社
■『アーヤと魔女』公開情報
【作品タイトル】
アーヤと魔女
【公開予定日】
公開日未定
【作品情報】
製作年:2020年
日本公開年:2021年
製作国:日本
原題:EARWIG AND THE WITCH
配給:東宝
監督:宮崎吾朗
脚本:丹羽圭子 、 郡司絵美
原作者:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
音楽:武部聡志
声の出演:寺島しのぶ、豊川悦司、濱田岳、平澤宏々路、シェリナ・ムナフ、柊瑠美