幼少期の経験から探求し、辿り着いた人の心の内側を引き摺り出す作品づくり『少年のアビス』/峰浪りょう先生へのインタビュー【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

現在週刊ヤングジャンプにて連載中の『少年のアビス』。何もない田舎の町を舞台に一人の少年を取り巻く「人間関係」の闇を描いた作品。閉鎖的な町の中で誰しもが、都会よりも少しだけ自分の気持ちに素直に生き、その結果恐ろしくも目が離せないドラマが生まれている。
ヤングジャンプの中でも独特の雰囲気が人気の本作品について、著者の峰浪りょう先生にインタビューしていきたいと思います!

│幼少期の経験や小説から影響を受けて生まれた作風

栗俣(インタビュアー):『溺れる花火』『ヒメゴト~十九歳の制服~』『初恋ゾンビ』など、人間の誰かを想う感情の黒い部分に対して深く掘り下げる作風が峰浪先生作品の魅力だと思うのですが、今回の『少年のアビス』はまさにそんな要素を突き詰めた作品ですよね。峰浪先生がこのような作風の作品を描かれている理由についてお聞かせください。

峰浪先生:もともと普段から読んだり観たりする作品には“人間”の負の感情を突き詰めていくような内容が多く、意識せずとも自然に今の作風に行き着いたのだと思います。

©︎峰浪りょう/集英社

栗俣:そうなのですね。そうした作品を好むようになったきっかけはありますか?

峰浪先生:そうですね、なぜこうした作品を好きになったのかと過去を遡ってみると、自分自身の家庭環境が理由の一つのように思います。幼少期の頃から、心の病を抱えた家族と生活を共にしてきました。病を抱えた家族をケアしながらも、自分や家族のことを第三者の視点で俯瞰して考えることがありました。
「なぜ、人は心の病を抱え、家族でさえ平気で傷つけてしまうようなことがあるのだろうか」と。こうした考えに対して答えを欲していたため、“人間”の負の感情に焦点を当てた作品を昔から好んでいたのかもしれません。

栗俣:いざ大人になってみると、無意識のうちに幼少期の体験や家庭環境などに影響を受けていたなと思うことが多いですよね。答えを追い求める中で非常に多くの作品を読まれたと思いますが、峰浪先生が強く影響を受けたと考える作品はございますか?

峰浪先生:はい、影響を受けた作品はそれこそ無数にあります。実は10代の頃は小説家志望だったため、主に小説から多大な影響を受けています。坂口安吾、三島由紀夫、太宰治、ジャンコクトー、中上健次、花村萬月などの作品に、それこそどっぷり沼のようにハマっていました。他には時代小説や怪談も好きでよく読んでいましたね。

│自分の身の回りの人の裏の顔や心の内を知る。地獄を読むような物語。

栗俣:もともと小説家志望だったのですね。これまでのお話で幼少期からのご経験や出会ってきた作品などから大きな影響を受け、峰浪先生の独特の作風が生まれたことがわかりました。次は『少年のアビス』の作風についてもう少し深掘りさせてください。
週刊ヤングジャンプには熱量の高さ・勢いで気持ちを引っ張られるような作品が多いと感じています。その中で『少年のアビス』は水が地面にしみ込むようにジワジワと広がって浸透していくような、例えるならば「コーヒーの苦みのような癖になる面白さ」で、毎週・毎話印象深く心に残ります。熱量高めの作品が多い週刊ヤングジャンプの中で先生ご自身の思う『少年のアビス』という作品の魅力についてお聞かせ下さい。

峰浪先生:他の作品と比較して、冷めて見えるから逆に目立つとかそういうことでしょうか(笑)。でも、印象に残るということであれば全く問題ありません! おそらく、栗俣さんをはじめ、読者のみなさんが感じている魅力はこの物語の“町の人”にあるのではないでしょうか。近所に住んでいそうな、クラスメイトに一人はいそうな、そんな身近な人たち。彼らが普段見せない裏の顔や心の内に抱く本心など、他人に見せたくないものが可視化され、それを見ることができる擬似体験が“快楽”に通じているのではないでしょうか。読者の方に「課金して読む地獄」と言われているみたいですし、『怖いもの見たさ』というやつですよね。

©︎峰浪りょう/集英社

栗俣:「課金して読む地獄」。凄まじいワードですが、私も含めて毎週『少年のアビス』を読むためにヤンジャンを購入している人たちは、徐々に詳らかにされていく登場人物たちの真実や心の内への投げ銭のようなものかもしれませんね(笑)。もっと、もっと奥深くまで掘り下げてくれと。

│登場人物を俯瞰し、そこに生きる“他者”として観察・探求し、暴いていく

栗俣:『少年のアビス』にはいわゆる“モブ的な存在”がいないですよね。「全ての登場人物にその人自身が主役の世界がちゃんとあり、それが重なり物語になる」ということを強く意識させられます。「それぞれの登場人物での主観で描く」と「それらを俯瞰して物語として構築する」という2点を非常に高いレベルで行われていて、とても凄いことだと思っています。そこで作品づくりについてお伺いしますが、まず登場人物の性格や行動、それとも全体のストーリーどちらから作品作りをされていたのでしょうか?

峰浪先生:実は『少年のアビス』を描くにあたって、物語もキャラクターもはっきりと決めていません。漠然と「心中もの」を描きたいなというところからはじまっています。その後、主人公を具体的にイメージしはじめて、こういう特徴の女性と出会ったらどうなるだろうか、などと考えていきました。主人公が存在する理由や女の子と出会ったきっかけ、さらには彼らの家族や友達、住んでいる場所など設定をどんどん膨らませていきました。そして、最後に登場人物たちは“きっとこういう境地に行きつくだろう”という予想が浮かんできます。

©︎峰浪りょう/集英社

栗俣:すでに結末までの流れが頭の中に出来上がっているのですね!!

峰浪先生:あくまで現時点ですけどね。これまでの作品も描き進める中で当初考えていた内容とは全く異なる結末を迎えていますから、おそらく今考えているものとは別の展開になるだろうと予想しています。
つまりは、それくらい登場人物たちの動きに任せているというか、『少年のアビス』という世界を俯瞰して見ているというか、彼らを「生々しい“他者”」として捉えています。このような作品づくりが個人的には好きですね。“知らない人間”のことを観察して、探求し、心の内や素顔を暴いていくことは楽しいですから。

栗俣:峰浪先生も読者の一人として、登場人物一人ひとりの生き方・行く末を楽しんでいらっしゃることがわかりますね。『少年のアビス』を描く上で何か苦労したことなどありますか?

峰浪先生:そうですね、世の皆さんと同じような悩みと言いますか、連載途中から新型コロナウイルスが流行し、スタッフの方々に在宅作業をお願いすることになったのですが、その準備が地味に大変でしたね。

│峰浪先生お気に入り! 登場人物が心の中をぶちまける見開きシーンは必見!

栗俣:『少年のアビス』は登場人物がとにかく印象的! 私は「柴ちゃん先生」がとても怖くて。でも、どこかこんな考え方の人がいるなと共感する部分も多く、両手を上げて主人公・令児を迎えるとあるシーンでは鳥肌が収まりませんでした。読者の一人としても楽しんでいる峰浪先生のお気に入り登場人物やシーンを教えてください。

峰浪先生:そうですね、一人ひとりのキャラクターに思い入れがあります。ですので、誰か一人を挙げることは難しいですね。お気に入りとは少し意味合いが異なりますが、女性キャラを描くときは美しく描こうと気合いが入りますね。

栗俣:確かに一人ひとりが主人公のような世界ですから、一人を選ぶというのは難しいですよね。お気に入りのシーンはいかがですか?

峰浪先生:各キャラクターの見開き独白のシーンはお気に入りの一つです。心の中でずっと燻っていた火種が爆発して、言いたいことすべてをぶちまけるため、ある意味この漫画の中では爽快さと言っていいのかわかりませんが、気持ちの良さを感じるシーンなのかなと思います。ネタバレに近いですが、夕子だけは呪文ですけどね(笑)。

©︎峰浪りょう/集英社

その他は、とにかくスタッフの方々が一生懸命描いていただいている町の背景。高い建物が何もなく、どこまでもひらけていて見渡しがいい町なのに重苦しい…。そんな架空の町はスタッフの方々あっての表現だと思っています。

栗俣:ありがとうございます! 独白のシーンは確かに爽快さを感じました。ぜひ読者のみなさんにも注目していただきたいですね。さて、最後になりますが読者のみなさんにメッセージはありませんか?

峰浪先生:実は編集会議で『少年のアビス』のネームが通ったと聞いたときは思わず担当さんに「いいんですか…こんなの…」と言ってしまいました(笑)。決して読んでいて楽しい気持ちになる作品ではないことは理解していたので。ただ、もともと描いてみたい「心中もの」というテーマではあったので、少ない巻数で終わろうとも好きにやってみようと連載をはじめました。
それがいつの間にかもう6巻も世に出せているのは読者のみなさんが応援してくれているおかげです。本当にありがとうございます!
一人ひとりがこの物語・世界を自由に楽しんでいただき、私はこれからも毎週『少年のアビス』とひたすら向き合って描き進めていきたいと思います!
これからもよろしくお願いします!

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

少年のアビス

著者:峰浪りょう
出版社:集英社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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