時代の変化の中で窮屈さと寂しさを感じるあなたのための漫画『ティラノ部長』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│時代の変化の中で生きるサラリーマンへのメッセージ。
本気で生きてきたあなたに響く不器用なサラリーマン『ティラノ部長』の日常物語

ティラノ部長は54歳。会社に入社して32年。
80年代、仕事に燃える有力若手社員でバリバリ働いてきた…そんな時代を生きてきたサラリーマンだ。やる気のある24時間働ける! それが価値とされてきた時代を生き評価されてきたティラノ部長。しかし時代は変わった。

四コマで描かれるこの『ティラノ部長』は現代の50代、60代の悩みを映し出したような1冊となっている。恐竜の姿をした登場人物たちがコミカルに過ごすこの作品、しかしこの作品に描かれた本質は決して軽いものではない。

今日提出予定の資料を提出せず提示に帰る部下に昔なら「終わるまで一緒にやるぞ!」と声をかけ終わったら深夜まで飲み明かしていた。しかしそんなことをすれば今はパワハラとなる。考えたティラノ部長は「よーし、残りは私がやっておこう」と声をかける。
しかし、彼の才能を否定する事につながるこの言葉すら今はパワハラだと37歳の課長に注意される。ティラノ部長には何がパワハラか正解がわからない。

このティラノ部長の気持ちに共感する方はとても多い。
「時代が変わった」と一言で表せば簡単に聞こえるが「行動評価の基準が変わる」というのは実はとても大きな変化で、作品の中でティラノ部長がガラケーを自分と重ねてしまい、スマホに変えられないというエピソードが描かれている。まさにガラケーからスマホに代わるそれくらいの大きな変化なのだ。
そして長い時代その価値観で生きてきた世代ほど新しい価値観に馴染む事を難しく思うのは当たり前の事なのだと思う。

│決してこの作品はティラノ部長世代の一方的な想いを描いた作品ではない

下の世代も、ここに描かれたティラノ部長の世代と同じか、それ以上に多様化のこの社会での生き方に悩みながら毎日の生活を送っている。例えばパワハラに関しても接し方を変えるではなく、なぜそれがパワハラになりうるのかを考えた上で接し方を変える事が大事だとこの作品は教えてくれる。
後半のエピソードでは上司に逆らえないティラノ部長自身の姿も描かれ、それが自分の想いとは違う行動を取らなければならないことにつながり、大きなストレスを抱える。
下の世代の想いと重なり、こういったエピソードが前半の内容に深みを持たせていくのだ。

そして逆に若い世代にも、上の世代も同じように悩んでいるのだとこの作品を読んで知って欲しいと思う。この作品を読んでティラノ部長に好感を持つ読者は、きっとティラノ部長の同世代だけではないはずだと思う。

不器用なティラノ部長は自分の気持ちを伝えるのがとにかく下手だ。
でも、その本質にどんな思いがあるのかこの作品はそれを知る事が出来る。
きっとそれはティラノ部長に似た誰かの本質を知る事につながるのだと私は思う。

最近のコミックの中でも『ティラノ部長』はかなり変わった作品だ。
不器用な50代のサラリーマンが主人公の四コマ漫画というそのもの自体もそうだし、50代のサラリーマンの抱える悩みに真摯に向き合った作品というのもあまりほかにないだろう。
だが描かれている内容はとても大切で深いものだし多くの人にとって意味ある作品だと思うのだ。
もし、少しでも興味を持ったらぜひこの作品読んでみて欲しい。
きっとあなたの心にも響くものがあると思うから。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

ティラノ部長

発売中

著者:鈴木おさむ、したら領
出版社:マガジンハウス

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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