スライムがヒロイン?人間の残酷さをも描く危うい物語。『モンスターのご主人様』【TSUTAYAの名物企画人“仕掛け番長”のススメ】

│ヒロインであるスライムの成り立ちは非常に切なく、悲しいものだった

異世界に転移したとある高校の生徒たち。
転移した生徒たちは強力な能力を持つものとそうでないものがおり、転移してしばらくは強力な能力を持つもの達が中心となり、協力しながら暮らしていた。
しかし1ヵ月も過ぎた頃、一部の生徒が反乱を起こしそんな生活は一変する。
強い能力のある一部のものが能力のないものに対して非道の限りを尽くし、多くのものは残酷にも殺されてしまう。
主人公はそんな場所から何とか逃げ延びた少年だ。

この最初のシーンから人間の残酷さをありありと描いたこの作品は、ヒロインであるスライムの成り立ちも非常に切なく、悲しいものになっている。

何とか逃げ延びた彼の前に突如現れた一匹の巨大なスライム。
最初は怖がる主人公だが、そんな時不思議な感覚に気が付く。なぜか深くスライムと自信がつながっているようなそんな感覚。なんの能力も持っていないと思われていた彼だったが、実はモンスターを眷属にする力を持っていたのだ。
そんな彼はその後一部の生徒の反乱で襲われそうになり自ら命を絶ったであろう少女の死体を発見する。真面目しか取り柄のなかった自分に優しくしてくれた彼女の変わり果てた姿に絶望しつつ彼は、スライム「リリィ」にそんな彼女を取り込ませる。
リリィは取り込んだものの姿と記憶(物語では記録と言った方がいいと語られている)を得る事が出来る。
そしてその少女の記憶からまだ近くに彼女が死ぬ原因となった者たちがいる事がわかるのだが……。

│タイトルのもつ柔らかなイメージとは裏腹にこの物語は始まりから主人公に重い荷物を多く背負わせる

人間に失望し、人間を信用できなくなった少年とその少年の眷属となるモンスター達。
そして少女の記憶と自分自身の想いの間で苦悩するスライム「リリィ」。

タイトルのもつ柔らかなイメージとは裏腹に、この物語は始まりから主人公に重い荷物を多く背負わせる、そんな中で光となるのは彼を取り巻くモンスター達。

この作品のテーマは人間の醜さというものではないかと思わせるほど、色々な形で人間の本質の愚かさをこの物語は描いていく。主人公の少年に対してすら醜さのある側面もしっかり描いており、たったの一人も完全に正しい存在なんていない。ファンタジーでありながらそんな心理面をリアルに描いたのがこの作品ではないかと私は思う。

異世界ジャンルは好きだけどこれはまだ読んでいないという方はぜひ1巻だけでもまずは読んでみてもらえたらと思う。

(文:仕掛け番長)

│仕掛け番長のおすすめ本

 

モンスターのご主人様

9巻まで発売、8巻までレンタル中

著者:咲良宗一郎、日暮眠都
出版:双葉社

“仕掛け番長”栗俣力也

【コンシェルジュ】仕掛け番長

栗俣力也(くりまた・りきや)。TSUTAYA IPプロデュースユニット 企画プロデューサー。
TSUTAYA文庫、コミック、アニメグッズの企画を担当。10年以上のキャリア持つ書店員でリアル店舗からヒット作を次々と生み出す事から仕掛け番長と呼ばれる。人生のバイブルは『鮫島、最後の十五日』

Twitter(@maron_rikiya)

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