いとうせいこうがおすすめする、TSUTAYA「発掘良品」からの発掘6本
TSUTAYA「発掘良品」から、いとうせいこうさんの数えきれない映画体験の中で、特に記憶に残った愛すべきおすすめ作品を厳選してもらった。
いとうせいこうがおすすめする、TSUTAYA「発掘良品」からの発掘6本
SF映画のパロディ満載のコメディ。宇宙人に真の英雄と勘違いされた人気SFドラマのキャストたちが、ドラマでの演技経験だけを頼りに悪の異星人たちに立ち向かう。
アメリカを旅行中に夫とけんかしたドイツ人女性が、行き着いた砂漠のモーテルで過ごすひととき。主題歌「コーリング・ユー」は第61回アカデミー賞歌曲賞の候補に。
第二次大戦下、ジャワ島の日本軍捕虜収容所で、日本軍士官と英国人少佐の間に奇妙な絆が芽生える。原作はローレンス・ヴァン・デル・ポストの小説『影の獄にて』。
優秀すぎて、ほとんど犯罪が起こらない田舎町に異動させられた警察官が、どんくさい映画オタクの同僚を相棒に住民たちの恐ろしい秘密を暴くアクションコメディ。
メタフィクションの構造と俳優たちの演技の妙にうなる『ギャラクシー★クエスト』
本当にすばらしかった。僕は入れ子構造の創作というか、物語内物語というか、フィクションと現実が境目をなくしていくメタフィクションが大好きで、自分が書く小説の多くもそういうことになっているのだけれど、本作もそうした系譜に連なる傑作映画の一つ。
SFTVシリーズのヒーローたち(それは『スター・トレック』シリーズへのオマージュでもあるし、実際にそれと話は重なる)が、現実の宇宙戦争に参加せねばならなくなる。その見事な脚本と、俳優たちの演技の妙たるや!
僕はこの映画を渋谷の映画館で観たのだが、クライマックス近くで“過去にタイムスリップ”する直前のシーンでいきなり音声が消え、しばらく役者たちが口をパクパクさせているので「斬新だ。あまりに斬新な演出だ!」と興奮していると、背後から係の人が入ってきて「音声トラブルが起きたので、5分前から上映し直します」と言った。
そこまでを含めて映画製作者側から指定された上映形態なのかと思った。筋と完全に重なっていたからである。あんな『ギャラクシー★クエスト』が観られて本当に幸福だった。これは皮肉でもなんでもない。メタフィクション作家に与えられた天啓のような、賜り物のような偶然だと今でも懐かしく思い出す。
それにしてもシガニー・ウィーバーですよね。『宇宙人ポール』もそうだけど、いい脚本の低予算映画にきちんと出てる。いかに映画が、特にSFが好きかが伝わってきて、彼女が出ているなら観なければという気持ちになります。
手作り感が新しい刺激を生む!『ミクロの決死圏』という、造語を用いた邦題も秀逸
中学生の頃、TVで何度も観た映画。'66年製作。あらゆるものをミクロ化する技術を使って、医療チームが一人の人間の体内に入っていく。しかもミクロ化の制限時間は1時間、という見事な設定。
CGのない時代にセットと撮像技術で、経験したことのない映像を作り出し、そこにセクシー女優ラクエル・ウェルチのボディコン科学スーツを混ぜるのはまたおしゃれで大人の娯楽にもなっていて、子どもながらどきどきしました。
むしろこういう映像を今もまた観たい、作ってほしいとさえ思う。その手作り感というか、非リアリズム感というものは視覚を通して再び新しい刺激を脳に与えるのではないか、と。
よく言われることだけど、この頃の邦題もホントにイカしてるんですよね。原題が『ファンタスティック・ボヤージュ』で、けっこうロマンチックな雰囲気だけ醸し出していてSFっぽくない。それを『ミクロの決死圏』と名付けてくるのは配給会社の優秀さ。
そもそも「決死圏」なんて言葉はないんじゃないか。造語だと思う。うまい。しゃれてる。すばらしいコピーライティング。
ジャンルの混交、雑多な魅力が映画的財産を生み出したマカロニウエスタン
『ミクロの決死圏』が作られる2年前、いわゆるマカロニウエスタンがイタリアで作られていた。やっぱり『荒野の用心棒』も中学時代に何度となくTV放映されていて、ほとんど洗脳されるように観た。
砂ぼこり、非情な主人公、情熱的な女たち、決闘、ブーツ、馬と砂漠。イタリア人はアメリカの西部劇を観て、こういう「あり得ない世界」を創出してしまったのである。そしてもう一つ、黒澤映画『用心棒』を観て。
つまりそれはアメリカと日本をかけ合わせ、イタリアンな調味料を振りかけた国際的な、いかがわしい、交雑性の高いジャンル。
僕と同世代のクエンティン・タランティーノが『ジャンゴ 繋がれざる者』を撮る気持ちがよくわかる。我々は香港カンフー映画や、マカロニウエスタンで映画の雑多な魅力を知ってしまったのだから。
そして、主演のクリント・イーストウッドはこうしたいわば三流映画に主演し続け、ついにアメリカを代表する映画監督にまでなった。従ってマカロニウエスタンの中にあるジャンルの混交が、やはり豊かな創造を生み出したわけである。
それは音楽のエンニオ・モリコーネの偉大な仕事を振り返ってもよくわかる。
映画とは映像と音楽である「コーリング・ユー」は最も記憶に残っている映画主題歌
『バグダッド・カフェ』も流行った。
ただし、僕はすでに大学も出て就職もしていた。ずいぶん大人になってから観た映画だ。
舞台はアメリカ、ラスベガス近くの砂漠。そこにあるカフェに一人の人物が来る。ドイツ人女性ジャスミンである。
ドイツ映画で、しかもいわゆるミニシアターで、80年代の終わりに上映され大ヒットした。おかげでその後、たくさんのヨーロッパやアジア映画をミニシアターで我々は観ることができるようになった。『バグダッド・カフェ』効果と言ってもいい。
けれど不思議にストーリーが思い出せない。やるせないジャスミンの姿、よるべなさ、他にカフェに出入りする者たちとの理解し合えない感じばかりをよく覚えている。
そこにただひたすらテーマ曲「コーリング・ユー」が流れてくる。記憶の中に最もよく残っている映画主題歌が、僕にとってはこのジェヴェッタ・スティールの「コーリング・ユー」ではないかと思う。今でもふとしたときに、この曲を歌っていることがある。
映画は映像と音楽。それがしみじみわかる。そういう“世界”映画。
大胆な配役、はっきりしない物語 今の日本では撮りにくい映画『戦場のメリークリスマス』
いわずとしれた大島渚監督、'83年製作の映画。日本×イギリス×オーストラリア×ニュージーランドの共同製作である。僕はどうもさまざまな価値観が交差するものがやはり気になるらしい。そもそも主演がデヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけしである。この段階で俳優だった者が一人もいない。大胆な配役である。
原作のある映画だが、だからといって物語がはっきりしているわけでもないと思う。むしろ、各人物の心理的な背景が複雑で奥深い。もやの向こうで何事かが常に不穏に動いているような感覚がある。
『戦場のメリークリスマス』のような映画が今の日本では撮りにくいのではないか。観る者がメッセージを一つしか受け取れないようなものがよしとされている。そういうのはつまらない。
チームワークが命!イギリスのくせものたちが映画愛を炸裂させたコメディ
イギリスのくせもの、エドガー・ライト監督の『ホットファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』。脚本&主演もやっぱりくせもの、サイモン・ペッグ。前に名前の出た『宇宙人ポール』も彼らのコメディだし、'13年に公開された『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』も同じ。もともと彼らが知られるきっかけは『ショーン・オブ・ザ・デッド』。ゾンビ映画だ。すべてにニック・フロストも参加している。それでこそのチームワークで、新しい笑わせ方、アクション、パロディ、映画愛を炸裂させていく。
こういうチームがいる限り安心。

いとうせいこう
1961年東京都生まれ。小説家、音楽家、俳優、タレントなどいくつもの顔をもつクリエーター。2008年より『したまちコメディ映画祭in台東』を総合プロデュースしている。
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