「楽しんでもらいながらも、ちょっとピリ辛であればいいなと思います」―映画『天空の蜂』堤幸彦監督インタビュー

堤幸彦監督

堤幸彦監督

最新鋭の巨大ヘリコプターが、遠隔操作でハイジャックされ、原子力発電所の上で静止。犯人「天空の蜂」の要求は、「日本のすべての原発破棄」。さもなくば、ヘリを原子炉めがけて落下させるという。ヘリの開発者と、原発の設計士は、一致協力して事態に立ち向かう。はたしてヘリの燃料が切れる8時間のうちに、危機は回避されるのか? 1995年、東野圭吾が発表した予見的小説を、3.11以後の感覚で映画化した破格のエンタテインメント巨編『天空の蜂』。メガホンをとった堤幸彦監督は多作で知られ、様々なジャンルを横断する一方、TVドキュメンタリードラマ「Kesennuma,Voices. 東日本大震災復興特別企画~堤幸彦の記録~」シリーズで、地道に粘り強く震災後の東北にも目を向けてきた。

「科学的に緻密に書かれた小説。初めて読んだとき、理工系の方の想像力はすごいなと思いました。たとえば私のような浅い文系が「原発反対」と言ったとしても、東野先生のように知的に「何がどう悪い」とは言いきれない。ただのイメージではなく、説得力がある。今回、あらためて読み直して、科学的先見性の迫力に恐れ戦きました。(映画化するのは)はたして俺でいいのか?と。映像にすることを考えたときに戦慄しました。ただ、私も年齢も年齢なので、こっから逃げてどうするんだ? と。私だけじゃない、仲間がいる、という気持ちで臨みました。3.11 以降の日本の現状を考えると、この映画は必要だと思う。かつて『20世紀少年』と『はやぶさ/HAYABUSA』という映画を撮りました。これは両方とも難易度の高い作品でしたが、スタッフが知恵を絞ればいろんなことが解決するという洗礼ではあったんですね。今回も、実際の原子力発電所では撮影できない。じゃあ、どうするか。そもそも原子力発電所って何なんだ? というところから取りかかりました」

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

現代に必要な作品。だが、メッセージに傾斜するのではなく、エンタテインメントとしての力強さがみなぎっている。

「何かひとつの立場に立って主張する作品ではありません。基本的にはスリリングなストーリーを持つ、ある種の犯罪映画であるべきだと。原発政策、防衛政策、あるいは企業人としての人々の在り方にばかりスポットを当てすぎると趣旨が違ってしまうと思い、親子のストーリー、夫婦の話などウエットな要素を盛り込みながら、いろんな視点で参加できる=観ていただけるものにするべくバランスをとっていきました。繊細なところにも触れている作品なので、それをどう思うかは観た方それぞれの自由。もちろん、僕個人にもいろいろ考えはありますが、それをひけらかすものではまったくありません。むしろ、東野先生が20年前にこの作品を書いたときの気持ちをいちばんの底辺で流しつつ、その上にエンタメ要素を立たせていただきました」

バランスが難しい作品だったはずだが、原発の設計士を演じる本木雅弘の力演が、見事に「映画の温度」を決定づけている。本木が扮するキーパーソンの「体温」が、わたしたち観客に偏りのない視座を与える。そう、観る者は、冷静と情熱のあいだで揺らぐことになるのだ。

「本木さんはあることを隠していなければいけない設定で、それがバレてはいけない。途中で、観ているお客さん的にはバレバレになるんだけれども、しかし、周り(の人物)にはそれがバレてはいけない。これは映画的に非常に面白い構造なわけです。彼はポーカーフェイスでいることが重要なんだけど、ほんとに端々で、目や眉がぴくっと動いたり、ちょっと何かを見る。そういうところに彼が持つ計算高いところとか、恐怖心とかが、チラホラと見え隠れする。これはサスペンスの常套なんだけど、本木さんがあの表情でやることに、とても面白味を感じたんですね。このドラスティックな流れのなかで、ある種時間が止まったような彼の空気が、この作品に緻密さや幅を与えてくれたと思っています。彼のなかの「頭脳の流れ」みたいなものが見えるように芝居してほしいなと思っていました」

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

スケールの大きさに、スリルの持続。だが、それ以上に「人間を見つめること」こそ、最大のエンタテインメントなのだということを、この映画は教えてくれる。

「(コメディが多いこともあり)私の作品は『人がいない(=人間描写がない)』と言われることが多かった(苦笑)。今回はそうしたお叱りをいただかないように、ほんとうに細かいところ、人間の動きを、どのようにすれば自然かつ興味深いものになるのかなと。一挙手一投足考えながら、作りました」

ともすれば硬くなりがちな題材を観客に届けるために、親子のウエットとも言えるドラマを付加し、対峙させた。大胆かつ繊細な人間描写はそのためにも不可欠だった。

「一企業、一組織、一国家と言ってもいいかもしれませんが、人間には、何かに所属したことで、考えることを放棄してしまうようなところがある。特に日本人というのは、そういう傾向があるような気がしてしょうがない。自分がいる派閥、あるいは組織、その流れみたいなものに逆らうのは難しい。何も考えないことによって、安定を得たり、気持ち良さを得たりするわけですね。それが大きな問題を呼ぶというのは自明の理。明治維新以来の、そうした風潮のようなものが――これは僕の深読みですけどね――今回(映画で描いた)「仮面の大衆」というものと結びついた気がしてならない。そんな、僕のなかの裏テーマはあります」

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

(c)2015「天空の蜂」製作委員会

わたしたちを「思考停止の罠」から脱出させる可能性を、あくまでも娯楽映画のなかで展開している。

「楽しんでもらいながらも、ちょっとピリ辛であればいいなと思います」

(取材・文:相田冬二)


映画『天空の蜂』
9月12日(土) 全国ロードショー

出演:江口洋介、本木雅弘、仲間由紀恵、綾野剛、佐藤二朗、石橋蓮司、向井理、國村隼、柄本明
監督:堤幸彦
原作:東野圭吾「天空の蜂」(講談社文庫)
脚本:楠野一郎
音楽:リチャード・プリン
制作:オフィスクレッシェンド
企画/配給:松竹
(C)2015「天空の蜂」製作委員会

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アーティスト情報

堤幸彦

生年月日1955年11月3日(63歳)
星座さそり座
出生地愛知県

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